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プレスリリース 発行No.1396 令和6年8月21日

大脳皮質におけるユビキチン様タンパク質ubiquitin-like 3 (UBL3)に対する
網羅的プロテオミクス解析から、神経変性疾患に対する新たな治療戦略を提唱

 東邦大学理学部の上田(石原)奈津実准教授、藤田医科大学医科学研究センターの上田洋司講師と土田邦博教授らの研究グループは、大脳皮質において、新規翻訳後修飾因子ubiquitin-like 3(UBL3)に対する35個の結合分子を同定しました。そして、これら結合分子の中には、RNA代謝に関わる分子群が多数含まれていることを見出しました。さらに、UBL3に会合するRNA代謝に関わる分子群の中には神経変性疾患関連タンパク質FUS、HPRT1が含まれていることを証明しました。これにより、今後、神経変性疾患の治療戦略として、UBL3のRNA代謝への寄与が新たな治療標的となることが期待されます。

 この研究成果は、雑誌「Molecular Brain」に2024年8月15日に公開されました。

発表者名

上田(石原) 奈津実 (東邦大学理学部生物分子科学科 准教授)


発表のポイント

  • 大脳皮質において、新規翻訳後修飾因子UBL3に対する35個の結合分子を同定しました。
  • これら結合分子には、RNA代謝に関わる分子群が統計的に有意に含まれていることがわかりました。
  • 神経変性疾患関連タンパク質かつRNA代謝に関わるFUS、HPRT1がUBL3と結合することを証明しました。

発表内容

 エクソソームを代表とする小型細胞外小胞(small extracellular vesicle:以下、sEV) (注1)は、がん細胞、神経細胞などほぼすべての細胞種から分泌されるナノメートルサイズの小胞体です。sEVにはタンパク質やmRNAやmiRNAが含まれており、細胞間の伝播を仲介することから、新しい細胞間伝達シグナルとして注目されています。また、sEVを介した悪性タンパク質の伝搬は、がん転移や神経変性疾患に関与することが知られています。しかしながら、どのような機構で特定のタンパク質がエクソソームへ輸送されるのかは不明でした。研究グループは、以前の報告* において、新規翻訳後修飾(注2)因子ubiquitin-like 3(以下、UBL3)化(注3)を発見し、さらにsEVへ輸送されるタンパク質全体の約60%がUBL3依存的であること、そして、UBL3が神経細胞に高発現することを見出しましたが、神経系におけるUBL3の役割は全く不明でした。そこで本研究では、神経細胞におけるUBL3の機能を探るために、ビオチンタグを付加したUBL3をαCaMKII プロモーター制御により前脳特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製しました。このマウスから大脳皮質を摘出し、ビオチンと特異的に結合するストレプトアビジンビーズを用いてビオチンUBL3を含むタンパク質複合体を精製し、網羅的プロテオミクス解析を実施しました。その結果、新たに35個のUBL3結合タンパク質を同定しました。これらの分子群をGene Ontology解析したところ、RNA代謝に関わる分子群が統計的有意に含まれていることがわかりました。さらに、9個の分子がextracellular exosomeとアノテーションされている分子でした。また、神経変性疾患変異データベースに登録されているRNA結合分子FUS(fused in sarcoma)とHPRT1(Hypoxanthine-guanine Phosphoribosyltransferase 1)、神経変性疾患の一つであるハンチントン舞踏病に関与することが知られているLYPLA1(lysophospholipase 1)が、UBL3結合分子として同定されていることに着目し、内在性UBL3を認識する抗体を使用した免疫沈降実験を実施しました。その結果、FUS、HPRT1、LYPLA1は内在性UBL3と有意に結合することが確認できました。

 RNA代謝に関するUBL3の研究はこれまで皆無であることから、RNA代謝における翻訳後修飾因子UBL3の研究は、新しい研究フィールドの展開へ繋がります。また、アルツハイマー病の原因として考えられるアミロイドβや、パーキンソン病の原因として考えられるα-Synuclein、筋萎縮性側索硬化症の原因として考えられるTDP-43(TAR DNA binding protein 43)、プリオン病の原因と考えられているプリオンなどは、sEVへ特異的に輸送され、細胞外へ放出することで病変部位が拡大することが知られています。TDP-43はFUSと結合することが知られているため、今後は、神経変性疾患に対してUBL3が新たな治療戦略になることが期待されます。

*参考文献)Nat Commun. 2018 Sep 26;9(1):3936. doi: 10.1038/s41467-018-06197-y.
      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30258067/
      UBL3 modification influences protein sorting to small extracellular vesicles

発表雑誌

    雑誌名
    「Molecular Brain」(2024年8月15日)

    論文タイトル
    Comprehensive identification of ubiquitin-like 3(UBL3)-interacting proteins in the mouse brain

    著者
    Hiroshi Ageta*, Tomoki Nishioka, Hisateru Yamaguchi, Kunihiro Tsuchida*,
    Natsumi Ageta-Ishihara*

    DOI番号
    10.1186/s13041-024-01131-4

    論文URL
    https://doi.org/10.1186/s13041-024-01131-4

用語解説

(注1)小型細胞外小胞(small extracellular vesicle:sEV)
sEVの一部は、エクソソームとも呼称され、ほぼ全ての細胞種から多胞体Multivesicular Body(MVB)を介して細胞外へ放出される小胞であり、産生細胞に由来する特定のタンパク質やmiRNAを内包し標的細胞に再び取り込まれることで新たな細胞間コミュニケーションとして働き、がん転移や神経筋変性などの疾患を含めた様々な生命現象に関与している。

(注2) 翻訳後修飾
ゲノムから転写されたmRNAは、リボソームにより翻訳されタンパク質となる。翻訳後にアミノ酸に対して、リン酸基、アセチル基、脂質、タンパク質など修飾因子が付加される現象を翻訳後修飾と呼ぶ。

(注3)ユビキチン様タンパク質ubiquitin-like 3(UBL3)
ユビキチンは、他のタンパク質へ翻訳後修飾因子として付加することによって、局在変化やタンパク質の安定性を変化させる。このユビキチンに構造上類似したタンパク質がユビキチン様タンパク質と呼ばれている。ユビキチン様タンパク質として、SUMOやNEDD8やオートファジーに関与するATG12などが知られ、ユビキチンと同様に翻訳後修飾因子として機能することが知られている。ubiquitin-like 3(UBL3)はユビキチン様タンパク質に分類され、研究グループは、以前の報告でUBL3が翻訳後修飾因子であることを発見した。

添付資料

新たに同定されたUBL3会合分子と疾患の関わり
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物分子科学科
准教授 上田(石原) 奈津実

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TEL/FAX: 047-472-5022
E-mail: natsumi.ageta-ishihara[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/biomol/mbb/index.html


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