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プレスリリース 発行No.1388 令和6年7月31日

男性不妊症のリスク、血液検査でAI予測
~ 精液検査を行わずに男性不妊症を判定可能に ~

 東邦大学医学部泌尿器科学講座の小林秀行准教授らの研究グループは、プログラミングが不要なノーコードのAI予測モデル作成ソフトを使って、男性不妊症リスク判定のAIモデルを構築し精度は約74%でした。この研究成果により、精液検査を行わずに血液検査だけで男性不妊症かどうかを判定でき、男性不妊症の新スクリーニング手法となることが期待されます。

 この成果は、2024年7月31日に英国科学誌「Scientific Reports」において発表されました。

発表者名

小林 秀行(東邦大学医学部泌尿器科学講座 准教授)
上谷 将人(東邦大学医学部泌尿器科学講座 助教)
山辺 史人(東邦大学医学部泌尿器科学講座 講師)
三井 要造(東邦大学医学部泌尿器科学講座 講師)
中島 耕一(東邦大学医学部泌尿器科学講座 教授)
永尾 光一(東邦大学医学部泌尿器科学講座 教授)


発表のポイント

  • 精液検査なしで男性不妊症をスクリーニングするAIモデルを構築しました。
  • 血液検査で男性不妊症のリスクが分かる世界初の研究です。
  • 不妊専門施設以外で男性不妊症の検査ができ、将来は検診センターでも男性不妊症のリスク判定ができることが期待されます。

発表概要

 世界保健機関(WHO)の調査(2017年)によると、不妊原因の約半数は男性側にあると報告されています。男性不妊症の診断に必須と言われる精液検査は、不妊治療を専門にする医療機関以外では採精室や、精液検査に必要な機器が完備されておらず気軽に行うことができません。また、精液検査自体に抵抗を感じる男性や、自身に不妊症の可能性があると考えもしない男性も多く、男性不妊症の検査は十分に行えていない課題が存在します。そのため、精液検査に頼らずに男性不妊症を簡便にスクリーニングする必要性を感じ、本研究に繋がりました。

 研究グループは、血液検査によるホルモン値の測定だけで男性不妊症のリスクを予測できるAIモデルをプログラミングが不要なノーコードのAI作成ソフトを用いて構築しました。3662症例を用いて作成した男性不妊症のリスクを判定するAI予測モデルの精度は約74%でした。特に、男性不妊症の中でも最も重度とされる非閉塞性無精子症(注1)では、100%の正解率で判定することができました。
 小林准教授は、「このAI予測モデルはあくまで精液検査の前段階に行う1次スクリーニングとしての位置づけで、精液検査を代替えするものではないが、不妊治療専門施設以外でも気軽に検査を行うことができる」と主張しています。また、「今回のAI予測モデルは、重度の無精子症である非閉塞性無精子症の予測精度が特に高かった。AI予測モデルで異常であれば非閉塞性無精子症である可能性もあるため、精液検査や適切な治療等を受けるきっかけになる」と述べています。

 現在、ソフト開発やデータ解析を担う株式会社クリアタクト(茨城県水戸市 代表取締役 中庭伊織)との共同研究により、オリジナルのAI予測モデルの製品化の開発を行っています。小林准教授は「AIに学習させる臨床データを増やすことで、精度はさらに向上する。将来的に、精液検査を行わず血液検査のみで臨床検査機関や検診センターでAI予測モデルを活用した男性不妊症のスクリーニングを行ってもらうことで、これまでハードルの高かった男性不妊症の検査をもっと身近に感じてもらいたい」と話しています。

発表内容

 我が国の2023年の人口動態統計が発表され、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は1.20で過去最低を更新しました。また、2023年における外国人を除く出生数は前年比5.6%減の72万7277人でした。出生率の低下は、未婚化や晩婚化など様々な要因が影響しており、中でも晩婚化に伴う不妊症の増加が著しく、不妊症の原因となる割合は女性と男性50:50であり、女性不妊症だけでなく男性不妊症に関しても増加傾向であり検査および治療を行うことは出生率の改善目的のために急務となっています。

 一般社団法人日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医の中で、女性不妊症を専門に診察する婦人科医が900名以上存在するのに対して、男性不妊症を専門に診察する泌尿器科医は全国で79名(2024年4月現在)と非常に少ない状況です。つまり、我が国で男性不妊症を十分に検査および治療が行える体制が整っていない課題が存在しています。

 2011年から2020年に男性不妊症の検査目的で精液検査とホルモン検査を受けた3662人の臨床データを収集し、精液検査では精液量、精子濃度、精子運動率を、ホルモン検査では、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、プロラクチン(PRL)、テストステロン(T)、エストロゲン(E2)を測定しました。また、T/E2を計算し追加しました。精液検査の結果から、総運動精子数(精液量 × 精子濃度 × 精子運動率)を算出し、WHOの「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen 第6版」(2021年)の精液検査の基準値に基づいて、総運動精子数9.408 × 106 (1.4mL × 16 × 106/mL × 42%)を正常下限値と定義しました。判定結果については、個々の患者について算出された総運動精子数9.408 × 106を上回っていれば「正常:0」、下回っていれば「異常:1」と設定しました。これらの総運動精子数、ホルモン検査などの結果を、ノーコードの予測分析AIツール、Prediction One(ソニービズネットワークス株式会社)、AutoML Tables(現在はVertex AIに名称変更)(Google)に学習させ、AI予測モデルを構築しました。Prediction Oneに基づくAI予測モデルの精度(正解率)は74.42%、AutoML Tablesでもほぼ同様の精度で74.2%でした。

 次に、作成したAI予測モデルが実際に男性不妊症をどの程度正確に判定できるか、2021年と2022年の臨床データを用いて検証しました。2021年の精液検査とホルモン検査が揃っている患者188人のデータを用いて、Prediction Oneで作成したAI予測モデルにより男性不妊のリスク判定を行ったところ、精度は57.98%でした。2022年の患者データでも同様の検証を行い、精度は68.07%でした。ただし、非閉塞性無精子症(2021年の患者188人中24人、2022年の患者166人中28人)に限定すると、100%の正解率で男性不妊リスクありと判定しました。

 将来的に不妊専門施設以外の検診センターでも男性不妊症のリスク判定が行えるようになれば、男性不妊症のスクリーニングが身近になり詳しい検査や治療を行うきっかけになります。早期に治療を行うことで、妊娠率の向上にも寄与すると考えられています。

発表雑誌

    雑誌名
    「Scientific Reports」(2024年7月31日)

    論文タイトル
    A New Model for Determining Risk of Male Infertility from Serum Hormone Levels, without Semen Analysis

    著者
    Hideyuki Kobayashi*, Masato Uetani, Fumito Yamabe, Yozo Mitsui, Koichi Nakajima, Koichi Nagao

    DOI番号
    10.1038/s41598-024-67910-0

    論文URL
    https://www.nature.com/articles/s41598-024-67910-0

用語解説

(注1)非閉塞性無精子症
無精子症の中でも精巣自体の機能不全で精子を全く作っていないか、ごくわずかしか精子を作っていない病態である。治療は顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)が必要となるが、精子採取率は約30%と決して高くない。

添付資料

男性不妊症のリスクを血液検査から予測するAIモデルの開発
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部泌尿器科学講座
准教授 小林 秀行

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