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プレスリリース 発行No.1386 令和6年7月12日

特定外来生物ウシガエルの寄生虫は、外来種だけに寄生する
~ 外来寄生虫が国内に定着するプロセスの一例を明らかに ~

 東邦大学理学部の安齋 榮里子(研究当時、大学院生)、脇 司准教授、児島 庸介講師の研究グループは、特定外来生物ウシガエルにつく北米原産の外来寄生虫「ウシガエル斜睾吸虫(学名Glypthelmins quieta)」の日本における生活史を調査し、本虫が北米原産の外来種しか利用できない可能性が高いことを明らかにしました。詳細な文献調査と併せて、北米原産の外来宿主2種(ウシガエルとサカマキガイ)が日本にあらかじめ定着していたことが、この寄生虫の日本への定着を許した可能性が高いことが示されました。

 この研究成果は、「Diseases of Aquatic Organisms (Print : ISSN 0177-5103, Online : ISSN 1616-1580)」にて2024年7月11日に発表されました。

発表者名

安齋 榮里子(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程 2023年度修了)
児島 庸介 (東邦大学理学部生物学科 講師)
脇 司   (東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)
新田 理人 (広島大学生物圏科学研究科、
       現:水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員)
齊藤 匠  (チェコ マサリク大学 研究員、
       現:オランダアムステルダム自由大学 研究員)

発表のポイント

  • ウシガエルは北米原産の特定外来生物です。日本に定着したウシガエルには北米原産の外来寄生虫「ウシガエル斜睾吸虫(学名Glypthelmins quieta)」の成虫が寄生します。この寄生虫の幼虫は、原産地の北米では淡水貝の一種に寄生し、それがウシガエルに感染して成虫になります。一方、日本でこの寄生虫の感染経路が調べられたことはなく、その生活史は不明でした。
  • 研究グループは、日本に定着したウシガエルに寄生した本虫からDNAを読み取り、これを基に日本に生息する淡水貝を調べました。その結果、北米原産外来種のサカマキガイからのみ、本虫の幼虫が検出されました。このことから、この寄生虫は成虫も幼虫も、北米原産の宿主を利用する可能性が高いことが分かりました。
  • 詳細な文献調査により、この寄生虫は、1970年代から2000年代の間に日本に侵入したと考えられました。この時、北米原産の外来宿主2種(ウシガエルとサカマキガイ)が日本で野生個体群を既に確立していたので、この寄生虫は日本に定着できたものと考えられました。

発表内容

 一般的な動植物と同様に、海外から侵入した寄生虫も外来種となります。外来種の寄生虫(外来寄生虫)は、その宿主が海外から導入される際に一緒に持ち込まれることが多いと考えられています。外来寄生虫の侵入経路や経緯を特定・推定することは、次の外来寄生虫の侵入を未然に防ぐ水際対策を考える際に、重要な情報源になります。

 今回の研究対象となった「ウシガエル斜睾吸虫(学名Glypthelmins quieta)」は、北米原産の寄生虫で、ウシガエルに成虫が寄生します(図1)。日本では、2007年から2011年にかけての調査でウシガエルからこの寄生虫が初めて報告されています。
 北米では本虫の生活史が研究され明らかになっています。まず、成虫はウシガエルの体内で産卵し、ウシガエルの糞に虫卵が混じり水中に排泄されます。糞と共に水中に出た虫卵は、やがて淡水貝に感染します。感染した淡水貝の中でスポロシスト幼虫が発育し、その中から多数のセルカリア幼虫が放出されます。この放出されたセルカリア幼虫が、ウシガエルの表皮に寄生してメタセルカリア幼虫になります。ウシガエルは脱皮して自分の皮を食べますが、この時にメタセルカリア幼虫がウシガエルに経口感染し、その体内で成虫になります。一方で、日本における幼虫の宿主(中間宿主)の貝は不明で、その生活史は明らかになっていませんでした。

 そこで研究グループは、日本における中間宿主を探しました。まず、日本のウシガエルの成虫からこの寄生虫の種に特異的なDNAの塩基配列を決定しました。次に、ウシガエルが分布する水域から157個体の淡水貝3種(サカマキガイ、ヒメタニシ、ヒメモノアラガイ)を採集し、実験室に持ち帰り解剖しました。その結果、北米原産外来種のサカマキガイからのみ本寄生虫の幼虫が見つかりました。一方で、未感染だった残りの2種の淡水貝は北米原産ではありませんでした。したがって、この北米原産の寄生虫は、北米原産で日本に定着した外来宿主2種(ウシガエルとサカマキガイ)を利用して日本で生活していることが分かりました(図2)。
 次に、この寄生虫が、どのように日本に入ってきたのかを検証しました(図3)。詳細な文献調査の結果、この寄生虫は、1975年に執筆された日本産両生類(カエル含む)の寄生虫リストに掲載されていませんでしたが、2007年~2011年の調査で日本で初めて報告されていたことが分かりました。したがって、この寄生虫は、1970年代~2000年代の間に日本に侵入したようです。一方でウシガエルは、1918年に北米から初めて導入されていましたが、これ以降に日本に新しく導入された証拠がありませんでした。サカマキガイは、1950年ごろから日本の野外で見つかり始めますが、この後も鑑賞用の輸入水草などに付いて海外から繰り返し導入されてきたと考えられました。これらのことから、1970年代以降のサカマキガイの断続的な侵入が、本寄生虫が日本に来た経路である可能性が高いことが分かりました。

 この1970年代以降には、北米原産の外来宿主2種(ウシガエルとサカマキガイ)が日本で個体群を既に確立していたので、この寄生虫が日本に定着可能になってしまったようです。これは、外来種の定着が次の外来種の定着をカスケード的に助長する「侵入メルトダウン」の実例となります。ウシガエルやサカマキガイのような外来種の侵入は、外来種そのものがもたらす生態系への影響だけではなく、その寄生虫の侵入をも可能にしてしまうのです。

発表雑誌

    雑誌名
    「Diseases of Aquatic Organisms」(2024年7月11日)

    論文タイトル
    The first intermediate host of the invasive frog trematode Glypthelmins quieta in Japan

    著者
    Eriko Ansai, Masato Nitta, Takumi Saito, Yosuke Kojima, Tsukasa Waki

    DOI番号
    10.3354/dao03799

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.3354/dao03799

添付資料

特定外来生物ウシガエル(左)とウシガエル斜睾吸虫(右)
図1. 特定外来生物ウシガエル(左)とウシガエル斜睾吸虫(右)
写真:新田理人。
図2. 北米原産の外来寄生虫「ウシガエル斜睾吸虫」の日本における生活史
ウシガエルに寄生した成虫は産卵し、虫卵が宿主の糞とともに外にでる。虫卵が淡水貝のサカマキガイに感染し、その体内でスポロシスト幼虫になる。スポロシスト幼虫の内部では多数のセルカリア幼虫ができ、貝の外にでる。セルカリア幼虫は水中を遊泳し、ウシガエルの表皮に感染してメタセルカリアとなる。ウシガエルは脱皮時に自分の皮を食べて経口感染する。イラスト:脇 司。
図3. 北米原産の外来寄生虫「ウシガエル斜睾吸虫」の、本研究で推定された日本への導入経緯
1918年に、ウシガエルが北米から導入された。1950年ごろ、サカマキガイが定着し始めたと考えられる。サカマキガイは水草の輸入に付随して繰り返し日本国内に侵入していたので、1970年代以降に感染サカマキガイが侵入。野外のウシガエルとサカマキガイを利用して日本に定着した。イラスト:脇 司
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
准教授 脇 司

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E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/index.html

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