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プレスリリース 発行No.1385 令和6年7月12日

ニホンジカ由来の膠が抗酸化作用を有することを発見
~未利用資源としての鹿の有効利用に向けて~

 東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、大連大学医学院、北海道鹿美健株式会社との共同研究により、ニホンジカ由来の膠が抗酸化作用を有することを明らかにしました。

 今後さらなる研究の遂行により、未利用資源であるニホンジカ由来の膠が酸化ストレスを予防、軽減する健康素材として有効利用されることが期待されます。

 この研究成果は、2024年6月13日に学術論文誌「Pharmacognosy Research」にて公開されました。

発表者名

大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
内野 静(東邦大学薬学部 2023年度卒)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Li Dongxia(大連大学医学院)
鄭 権(北海道鹿美健株式会社)

発表のポイント

  • 北海道に生息するニホンジカの角、皮および骨より製した膠が抗酸化作用を有することを明らかにしました。
  • ニホンジカ由来の膠が一般的に食用される牛、豚および魚由来のゼラチンと加水分解コラーゲンペプチドより抗酸化活性が強いことを明らかにしました。
  • 今後さらなる研究により、ニホンジカ由来の膠が健康素材として酸化ストレスの予防や軽減に利用されることが期待されます。

発表概要

 日本各地でのニホンジカ(Cervus nippon)の増加は、農林業被害や交通事故の増加、生態系への影響に繋がり、社会問題となっています。こうした中、捕獲による個体数の管理が進められていますが、捕獲した鹿は、その肉を食用とするのが一般的で、他の部位の活用法は未だ検討段階にあります。一方、中国では古来より鹿には捨てる部分がないほど全身が宝と言われ、生薬として非常に重用されてきました。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、大連大学医学院、北海道鹿美健株式会社との共同研究により、未利用資源であるニホンジカの角、皮および骨より製した膠(注1)が抗酸化作用を有すること、また、その抗酸化活性は牛・豚・魚由来のゼラチンと加水分解コラーゲンペプチドより強いことを明らかにしました。

発表内容

 現在、日本全体でニホンジカ(Cervus nippon)の増加が農林業被害や交通事故の増加、生態系への影響に繋がり、社会問題となっています。中でも鹿による森林被害が深刻化しており、日本全国の野生鳥獣による森林被害面積のうち、鹿による被害面積は全体の約7割を占めると報告されています。このような問題を解決するために、ニホンジカを捕獲することで個体数を適正管理する取り組みが全国で進められています。捕獲した鹿の活用については、肉を食用とするのが一般的ですが、他の部位については廃棄されるのが主であり、活用法は未だ検討段階にあります。一方、中国では鹿は古来より捨てる部分がないほど全身が宝であると言われ、生薬として非常に重用されてきました。鹿の角のうち、生え替わったばかりの幼い角は「鹿茸(ろくじょう)」、硬くなった角は「鹿角(ろっかく)」として薬用され、どちらも滋養強壮作用をもつとされています。他に、「鹿皮(ろくひ)」には血を補う作用、「鹿骨(ろくこつ)」には衰弱・やせ細りを補う作用があるとされています。本研究では未利用資源であるニホンジカの角、皮および骨より製した膠の機能性探索を目的として、それらの抗酸化活性について評価を行いました。
 本研究では、北海道に生息するニホンジカの角、皮および骨を熱水抽出して得られた膠を研究材料としました。比較対象として、ロバの皮由来の生薬「阿膠」(注2)、牛・豚・魚由来のゼラチンと加水分解コラーゲンペプチドを用いました。各粉末試料の水溶液を用いて、DPPHラジカル消去活性法(DPPH法)、スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性法(SOD法)および親水性酸素ラジカル吸収能測定法(H-ORAC法)により抗酸化活性を測定しました。その結果、ニホンジカ由来の膠(鹿角膠、鹿皮膠、鹿骨膠)およびロバの皮由来の生薬「阿膠」はDPPH法、SOD法およびH-ORAC法のいずれにおいても抗酸化活性を示しました。DPPH法では阿膠、鹿皮膠、鹿角膠、鹿骨膠の順に、SOD法では鹿皮膠、阿膠、鹿角膠、鹿骨膠の順に強い活性を示しました(図1)。さらに、H-ORAC法ではニホンジカ由来の膠と阿膠に加えて魚由来のゼラチンが抗酸化活性を示しました。
 一方、エタノール添加によるゼラチンの沈殿法によりニホンジカ由来の膠および阿膠について高分子画分(沈殿物)と低分子画分(上澄み液)分画を行い、抗酸化活性を測定しました。その結果、いずれのサンプルにおいても沈殿物より上澄み液の方が強い抗酸化活性を示しました。今後さらなる研究により、ニホンジカ由来の膠が酸化ストレスの予防や軽減を目的として、老化や生活習慣病予防のための健康素材として利用されることが期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Pharmacognosy Research」(2024年6月13日)

    論文タイトル
    Antioxidant Activity of Gelatins from Sika Deer (Cervus nippon)

    著者
    Kouharu Otsuki, Shizuka Uchino, Dongxia Li, Takashi Kikuchi, Ken Tei, Wei Li

    DOI番号
    10.5530/pres.16.3.70

    論文URL
    https://www.phcogres.com/article/2024/16/3/105530pres16370

用語解説

(注1)膠(にかわ)
動物の角、骨、皮、筋、甲羅などを煎じてできた粘着性のあるもので、主な成分はコラーゲンである。

(注2)阿膠(あきょう)
ロバの皮より製した膠で、約2500年前より中国で生薬として用いられてきた代表的な膠である。血を補い、吐血、鼻出血、便血、月経不順、子宮の不正出血に対して用いられてきた。

添付資料

ニホンジカ由来の膠(鹿角膠、鹿皮膠、鹿骨膠)の抗酸化活性
図1. ニホンジカ由来の膠(鹿角膠、鹿皮膠、鹿骨膠)の抗酸化活性

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李 巍

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/

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