プレスリリース 発行No.1378 令和6年6月18日
α-リノレン酸(ALA)による循環器疾患予防効果の機序の一端を解明
~ALAは冠動脈の異常収縮を即時的かつ強力に抑制する~
~ALAは冠動脈の異常収縮を即時的かつ強力に抑制する~
東邦大学薬学部薬理学教室の吉岡健人講師、小原圭将准教授、田中芳夫教授らの研究グループは、植物油に含有されるα-リノレン酸(ALA)がプロスタノイドTP受容体(注1)を介したブタ冠動脈の収縮反応を即時的かつ強力に抑制することを見出しました。また、ALAのTP受容体拮抗作用はヒトTP受容体発現細胞でも確認されました。
この研究成果は、雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2024年6月8日に掲載されました。
この研究成果は、雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2024年6月8日に掲載されました。
発表者名
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- ALAは、植物性のn-3系多価不飽和脂肪酸(注2)であり、魚油に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の前駆物質としても知られています。研究グループはこれまで、DHA、EPAがプロスタノイドTP受容体を介した冠動脈の即時的な収縮反応を抑制することを明らかにしていました。
- ALAの長期的な摂取は心臓と関連した突然死のリスクを低下させることが報告されています。ただし、これまでのところALAの冠動脈収縮に対する抑制効果は検討されていませんでした。今回、ブタ冠動脈を用いてALAが冠動脈収縮に対して抑制効果を示すか検討したところ、TP受容体を介した冠動脈の収縮反応をALAが抑制することを発見しました。また、その阻害様式は競合的拮抗(注3)であることと、ヒトTP受容体を発現させた細胞実験でもALAがTP受容体拮抗作用を示すことを明らかにしました。
- TP受容体を介した冠動脈の異常収縮は心筋梗塞の原因となり得ることが指摘されているため、本結果はALAが冠動脈の異常収縮やそれに伴う疾患の発生を予防できる可能性を示しています。
発表概要
α-リノレン酸(ALA)は植物油に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であり、食品ではエゴマ油や亜麻仁油に多く含有されています。近年、ALAは健康食品の成分としても注目されており、ALAの含有量を増やした食用油や、亜麻仁油を用いたマヨネーズなどが販売され、高血圧や肥満に対して有効であると謳われています。臨床研究においてもALAの長期摂取は心臓病と関連した突然死のリスクを低下させることが報告されています。
ALAは魚油に豊富に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の生体内における合成の出発物質です。ALAはヒトを含む動物では生体内で合成することはできないため、必須脂肪酸として食品から積極的に摂取する必要があります。
研究グループは近年、ALAから生合成されるDHA、EPAがプロスタノイドTP受容体を介した冠動脈の収縮反応を即時的に抑制することを見出しています。TP受容体は冠動脈において異常収縮に深く関わると考えられており、DHA、EPAがTP受容体を介した異常収縮を抑制することで循環器疾患を予防している可能性が考えられました。一方で、植物油に含有され、構造もより単純であるALAが、DHA、EPAと同様にTP受容体を介した冠動脈の収縮反応を抑制することができるかは不明でした。
そこで、ヒトと形態的に類似しているブタ心臓から摘出した冠動脈を用いて各種刺激による冠動脈の収縮反応に対するALAの抑制効果を検討したところ、ALAがTP受容体を介した収縮反応を強力に抑制することを見出しました。また、この抑制効果は遺伝子操作によってヒトTP受容体を強制発現させたヒト培養細胞でも再現されました。したがって、ALAもDHA、EPAと同様に、TP受容体を介した冠動脈の異常収縮を抑制することが可能であり、この作用がALAの循環器疾患に対する予防効果の機序の一旦を担うと考えられます(図1)。
ALAは魚油に豊富に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の生体内における合成の出発物質です。ALAはヒトを含む動物では生体内で合成することはできないため、必須脂肪酸として食品から積極的に摂取する必要があります。
研究グループは近年、ALAから生合成されるDHA、EPAがプロスタノイドTP受容体を介した冠動脈の収縮反応を即時的に抑制することを見出しています。TP受容体は冠動脈において異常収縮に深く関わると考えられており、DHA、EPAがTP受容体を介した異常収縮を抑制することで循環器疾患を予防している可能性が考えられました。一方で、植物油に含有され、構造もより単純であるALAが、DHA、EPAと同様にTP受容体を介した冠動脈の収縮反応を抑制することができるかは不明でした。
そこで、ヒトと形態的に類似しているブタ心臓から摘出した冠動脈を用いて各種刺激による冠動脈の収縮反応に対するALAの抑制効果を検討したところ、ALAがTP受容体を介した収縮反応を強力に抑制することを見出しました。また、この抑制効果は遺伝子操作によってヒトTP受容体を強制発現させたヒト培養細胞でも再現されました。したがって、ALAもDHA、EPAと同様に、TP受容体を介した冠動脈の異常収縮を抑制することが可能であり、この作用がALAの循環器疾患に対する予防効果の機序の一旦を担うと考えられます(図1)。
発表内容
研究グループは、ブタ心臓から摘出した冠動脈の収縮反応に対するα-リノレン酸(ALA)の抑制効果を検討しました。その結果、ALAが、U46619(プロスタノイドの一つであるトロンボキサンA2の合成類似体)、プロスタグランジン(PG)F2αにより誘発される冠動脈の収縮反応を濃度依存的かつ即時的に抑制することを見出しました(図2A, B)。研究グループは、U46619及びPGF2αにより誘発される冠動脈の収縮反応はプロスタノイドTP受容体を介していることを報告しており、ALAによる収縮抑制効果はTP受容体に対する抑制作用である可能性が示されました。また、ALAはTP受容体を介さない収縮反応、例えば、高カリウムによる脱分極性収縮反応(注4)(図2C)や、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンによる収縮反応に対してはほとんど抑制効果を示しませんでした。そこで、ALAのTP受容体に対する抑制様式を薬理学的に解析したところ、ALAは冠動脈においてU46619による収縮反応を競合的に抑制することが見出されました。また、ALAによるTP受容体抑制作用が、ヒトTP受容体でも見出されるかを、ヒトのプロスタノイドTP受容体を強制的に発現させたヒト培養細胞で検証したところ、ALAはU46619によってTP受容体が刺激されることで引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇を強力に抑制することを明らかにしました(図3A)。一方、ヒトのプロスタノイドFP受容体を強制発現させた細胞では、ALAはPGF2αによって引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇をほとんど抑制しませんでした(図3B)。以上の結果から、ALAはTP受容体を標的として、トロンボキサンA2などによるTP受容体の活性化を抑制することにより、プロスタノイドによってもたらされる冠動脈の収縮を抑制すること、そしてこれがヒトにおいても成立する可能性が強く示されました(図1)。
発表雑誌
-
雑誌名
「Journal of Pharmacological Sciences」(2024年6月8日)
155巻、4号、148-151
論文タイトル
Alpha-linolenic acid selectively inhibits the contraction of pig coronary arteries mediated through prostanoid TP receptors
著者
Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Mikoto Ozawa, Mayu Kiguchi, Yuri Nakao, Hinako Miyaji,
Toma Yamashita, Noboru Saitoh, Yutaka Nakagome, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1016/j.jphs.2024.06.001
論文URL
https://doi.org/10.1016/j.jphs.2024.06.001
用語解説
(注1)プロスタノイドTP受容体
プロスタノイドのうち、トロンボキサンA2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。
(注2)多価不飽和脂肪酸
脂肪酸を構成する炭素鎖中に不飽和結合を2つ以上有する脂肪酸。二重結合の位置によってn-3系、n-6系などに細分化される。n-3系としてはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)が古くからよく知られており、近年話題となっているα-リノレン酸(ALA)もn-3系である。n-6系ではリノール酸が有名。
(注3)競合的拮抗
薬物受容体に対する阻害様式の内の一つ。阻害物質が標的受容体に対し可逆的に結合することで受容体の活性化を抑制する。多くの薬物の受容体に対する作用機序。
(注4)脱分極性刺激
生理緩衝液中のカリウム濃度を高めることで、膜電位を脱分極させる刺激。この刺激により電位依存性Ca2+チャネルを活性化させ、細胞内にCa2+を流入させることで平滑筋を収縮させることが可能。
プロスタノイドのうち、トロンボキサンA2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。
(注2)多価不飽和脂肪酸
脂肪酸を構成する炭素鎖中に不飽和結合を2つ以上有する脂肪酸。二重結合の位置によってn-3系、n-6系などに細分化される。n-3系としてはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)が古くからよく知られており、近年話題となっているα-リノレン酸(ALA)もn-3系である。n-6系ではリノール酸が有名。
(注3)競合的拮抗
薬物受容体に対する阻害様式の内の一つ。阻害物質が標的受容体に対し可逆的に結合することで受容体の活性化を抑制する。多くの薬物の受容体に対する作用機序。
(注4)脱分極性刺激
生理緩衝液中のカリウム濃度を高めることで、膜電位を脱分極させる刺激。この刺激により電位依存性Ca2+チャネルを活性化させ、細胞内にCa2+を流入させることで平滑筋を収縮させることが可能。
添付資料
図1. 本研究の概要
図2. ブタ冠動脈の収縮反応に対するα-リノレン酸(ALA)による抑制作用
図はブタ冠動脈のU46619(Aa)、PGF2α(Ba)、80 mM KCl(Ca)による収縮反応に対するALA(10−4 M)の影響を示した典型例で、Ab、Bb、Cbはそれぞれの定量的な解析結果です。ALAはTP受容体を介して冠動脈を収縮させるU46619やPGF2αによる収縮反応を濃度依存的に抑制しました。一方で、80 mM KClによる脱分極性刺激による収縮反応には顕著な影響を与えませんでした。
図はブタ冠動脈のU46619(Aa)、PGF2α(Ba)、80 mM KCl(Ca)による収縮反応に対するALA(10−4 M)の影響を示した典型例で、Ab、Bb、Cbはそれぞれの定量的な解析結果です。ALAはTP受容体を介して冠動脈を収縮させるU46619やPGF2αによる収縮反応を濃度依存的に抑制しました。一方で、80 mM KClによる脱分極性刺激による収縮反応には顕著な影響を与えませんでした。
図3. ヒトTP/FP受容体発現細胞での細胞内Ca2+濃度上昇へのα-リノレン酸(ALA)の影響
図はヒトTP受容体発現細胞(A)もしくはヒトFP受容体発現細胞(B)での細胞内Ca2+濃度変化を経時的に測定したものです。一定時間のALAもしくはALAの溶媒であるエタノール(EtOH)の処置後U46619(Aa)、もしくはPGF2α(Ba)で刺激を加えると一過性に細胞内Ca2+濃度が上昇します。この上昇のピーク値を解析したものがAb(TP受容体発現細胞)、Bb(FP受容体発現細胞)です。ALA(3 × 10−5 M)はTP受容体刺激による細胞内Ca2+濃度上昇を有意に抑制しましたが(Ab)、FP受容体刺激による細胞内Ca2+濃度上昇には影響を与えませんでした。
図はヒトTP受容体発現細胞(A)もしくはヒトFP受容体発現細胞(B)での細胞内Ca2+濃度変化を経時的に測定したものです。一定時間のALAもしくはALAの溶媒であるエタノール(EtOH)の処置後U46619(Aa)、もしくはPGF2α(Ba)で刺激を加えると一過性に細胞内Ca2+濃度が上昇します。この上昇のピーク値を解析したものがAb(TP受容体発現細胞)、Bb(FP受容体発現細胞)です。ALA(3 × 10−5 M)はTP受容体刺激による細胞内Ca2+濃度上昇を有意に抑制しましたが(Ab)、FP受容体刺激による細胞内Ca2+濃度上昇には影響を与えませんでした。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
講師 吉岡 健人
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: kento.yoshioka[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
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