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プレスリリース 発行No.1373 令和6年6月11日

ジンチョウゲ科植物Daphne pedunculataから
奇数脂肪族側鎖を有するダフナン型ジテルペノイドを発見

 東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属植物のDaphne pedunculataが、天然では珍しい奇数脂肪族側鎖を有するダフナン型ジテルペノイドを含むことを発見しました。さらに、それらの化合物がヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製を阻害することを明らかにしました。今後、更なる研究の遂行により、優れた抗HIV活性をもつ新規HIV感染症治療薬の創製に活用できる創薬シーズの発見が期待されます。

 この研究成果は、2024年5月23日に日本生薬学会の英文誌「Journal of Natural Medicines」にて公開されました。

発表者名

譚 霊剣(東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程3年)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Di Zhou(瀋陽薬科大学中薬学院)
Ning Li(瀋陽薬科大学中薬学院)
Li Huang(デューク大学メディカルセンター)
Chin-Ho Chen(デューク大学メディカルセンター)

発表のポイント

  • ジンチョウゲ科植物のDaphne pedunculataに、天然では珍しい奇数脂肪族側鎖を有するダフナン型ジテルペノイドが含まれることを発見しました。
  • Daphne pedunculataに含まれるダフナン型ジテルペノイドは強い抗HIV活性を示し、脂肪族側鎖の長さは抗HIV活性に影響を与えることを明らかにしました。
  • 今後ジンチョウゲ科植物に含まれる生物活性ジテルペノイドの更なる解明により、新しいHIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。

発表概要

 ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しており、抗がん、抗HIVなどの優れた生物活性を有するジテルペノイド(注1)が特徴的に含まれています。Daphne pedunculataは中国雲南省に限定的に分布するジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木です。高度約400メートルの乾燥した山肌や低木林に生育しており、11月から12月の間に黄色い花を咲かせます。研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、これまでにDaphne pedunculataに抗HIV活性を有する新規大環状ダフナン型ジテルペノイド(注2)を含むことを明らかにしました。今回新たに、Daphne pedunculataより天然では珍しい奇数脂肪族側鎖を有する2種の新規ダフナン型ジテルペノイドを単離精製し、それらの抗HIV活性を明らかにしました。今回得られた研究成果により、ジンチョウゲ科植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの抗HIV活性との構造活性相関に関する知見が深まり、新しいHIV感染症治療薬の創薬シーズの発見につながることが期待されます。

発表内容

 ダフナン型ジテルペノイドは5/7/6-炭素縮合三環系構造に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有し、ジンチョウゲ科およびトウダイグサ科植物に特徴的に分布しています。また、抗がん、抗HIV、鎮痛作用など多彩な生物活性を示すことから、天然物創薬において魅力的なターゲットとして注目されています。Daphne pedunculataは高さ約1メートルの常緑低木で、中国の雲南省に限定的に分布しています。中国では長梗瑞香(チョウコウズイコウ)と呼ばれ、高度約400メートルの乾燥した山肌や低木林に生育し、11月から12月の間に黄色い花を咲かせます。研究グループは、これまでに天然由来の抗HIV活性ジテルペノイドに着目した研究により、Daphne pedunculataが強力な抗HIV活性を示す大環状ダフナン型ジテルペノイド(注2)を含むことを明らかにしました。今回、Daphne pedunculataについて更なるダフナン型ジテルペノイドの探索を行ったところ、天然では珍しい奇数脂肪族側鎖を有する新規ダフナン型ジテルペノイドを発見しました。
 
 本研究では中国雲南省にて採取したDaphne pedunculataの全木を使用し、乾燥した植物材料について95%エタノールを用いて成分を抽出しました。得られたエタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにDiaion HP-20およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、2種の新規化合物(図1, 化合物2および4)を含む計4種のダフナン型ジテルペノイドを単離しました。単離した化合物は、高分解能質量分析(LC-MS)および核磁気共鳴(NMR)スペクトルを中心とした解析により化学構造を決定しました。単離した新規ダフナン型ジテルペノイドは、炭素数11(化合物2)および炭素数9(化合物4)の奇数脂肪族側鎖がダフナン骨格の6員環にオルトエステル結合した化学構造を有しています。生合成の観点より、これらの脂肪族側鎖は脂肪酸に由来すると考えられます。天然に存在する直鎖脂肪酸は炭素数が12~22の偶数個のものが一般的であることから、今回発見した物質の置換基は通常の脂肪酸とは異なる生合成経路によって作られていると推定されます。また、LC-MS分析によりDaphne pedunculataには、炭素数9~12の脂肪族側鎖を有する化合物1–4の他に、含量は低いものの炭素数8の脂肪族側鎖を有する化合物5も含まれていることがわかりました。
 
 さらに、単離した化合物1–4についてはHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4において、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、全ての化合物が強い抗HIV活性を示し、その中でも炭素数12の脂肪族側鎖を有する化合物1は他の化合物よりも10倍強い強力な活性を示しました。今回単離した化合物の抗HIV活性評価の結果より、ダフナン型ジテルペノイドのオルトエステルに結合する脂肪族側鎖の長さは抗HIV活性に影響し、さらに特定の長さで活性が大きく変化することが示されました。今回の研究で得られた知見により、今後ジンチョウゲ科植物の生物活性ジテルペノイドの更なる解明、そして新しいHIV感染症治療薬の創薬シーズの発見が期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Natural Medicines」(2024年5月23日)

    論文タイトル
    Daphnane diterpenoid orthoesters with an odd‑numbered aliphatic side chain from Daphne pedunculata

    著者
    Lingjian Tan, Kouharu Otsuki, Takashi Kikuchi, Di Zhou, Ning Li, Li Huang, Chin-Ho Chen, Wei Li

    DOI番号
    10.1007/s11418-024-01826-x

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1007/s11418-024-01826-x

用語解説

(注1)ジテルペノイド
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。

(注2)大環状ダフナン型ジテルペノイド
ダフナン型ジテルペノイドのうち、オルトエステル結合を介して脂肪族側鎖がダフナン骨格の5員環部分と結合した大環状構造を有する化合物群を大環状ダフナン型ジテルペノイド(macrocyclic daphnane orthoester)と呼ぶ。

添付資料

Daphne pedunculataに含まれるダフナン型ジテルペノイド
図1.Daphne pedunculataに含まれるダフナン型ジテルペノイド

以上

お問い合わせ先

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東邦大学薬学部薬理学教室
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