プレスリリース 発行No.1365 令和6年5月20日
沖縄固有でカタツムリを専食する “右利きのヘビ” から新種の寄生虫を発見
~ カタツムリを食べてヘビに感染か? ~
~ カタツムリを食べてヘビに感染か? ~
東邦大学理学部の脇 司准教授、瀬尾栄滋(研究当時、学部生)の研究グループは、沖縄固有でカタツムリを専食する珍しいヘビ「イワサキセダカヘビ」から新種の寄生虫を発見し、「セダカヘビ槍形吸虫(学名:Paradistomum dextra)」と命名しました。宿主のイワサキセダカヘビがカタツムリを専食することから、感染源がカタツムリである可能性が高いと考えられました。
この研究成果は、「Systematic Parasitology (Electronic ISSN 1573-5192)」にて2024年5月13日に発表されました。
この研究成果は、「Systematic Parasitology (Electronic ISSN 1573-5192)」にて2024年5月13日に発表されました。
発表者名
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)
瀬尾 栄滋(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2023年度卒)
細 将貴(早稲田大学教育学部 准教授)
新田 理人(JSPS特別研究員 SPD、現:水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員)
浦部 美佐子(滋賀県立大学環境科学部 教授)
瀬尾 栄滋(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2023年度卒)
細 将貴(早稲田大学教育学部 准教授)
新田 理人(JSPS特別研究員 SPD、現:水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員)
浦部 美佐子(滋賀県立大学環境科学部 教授)
発表のポイント
- イワサキセダカヘビは、沖縄の石垣島と西表島の固有種で、環境省レッドリストでは準絶滅危惧種(NT)になっています。このヘビはカタツムリを専食しますが、右巻きの殻をもつカタツムリを食べやすい左右非対称の顎に進化したことから”右利きのヘビ”と呼ばれています。
- 本研究では、このイワサキセダカヘビから新種の寄生虫を発見し、「セダカヘビ槍形吸虫(学名:Paradistomum dextra)」と名づけました。学名の種小名は宿主が”右利きのヘビ”であることにちなんで「dextraデクストラ(=右の)」となりました。
- イワサキセダカヘビがカタツムリだけを食べるヘビであることから、感染源はカタツムリと考えられます。沖縄のカタツムリも個体数が減っています。この寄生虫が生きるには、宿主となるイワサキセダカヘビとカタツムリが十分確保された沖縄の健全な自然が必要です。
- この寄生虫の人への感染報告はありません。
発表内容
寄生虫は多数な種を含む分類群で、全ての動物にそれ特有の寄生虫がつくと言われています。このため希少な動物には、その動物と同等(あるいはそれよりも珍しい)寄生虫がつくことになります。一般に寄生虫は、宿主とする動物が個体数を大きく減らしたり絶滅したりすると、それらと一緒に絶滅の危機に陥ることが知られています。実際に、トキにつくトキウモウダニは日本産トキの消滅とともに絶滅したと考えられています。一方で、そういった希少な動物にしかつかない寄生虫は、人が宿主を調査することがそもそも難しいことから、どの動物にどのような種がいるのか殆ど明らかにされていません。希少な動物につく寄生虫の存在を把握し、それらがどのように生きているかを考察することが、寄生虫を含めた生態系や生物多様性を理解して保全するために必要です。
このような状況の中で、東邦大学理学部の脇准教授はヤンバルクイナやオキナワヤマタカマイマイ類など、沖縄の希少な動物につく寄生虫や共生生物を研究しています。これらの寄生虫や共生生物は、人に寄生することはなく、野外で宿主とひっそりと生活しています。イワサキセダカヘビは、石垣島と西表島の固有種で、国際自然保護連合(IUCN)で準絶滅危惧(NT)に、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)になっています。このヘビはカタツムリを専食することが知られていますが、顎が左右非対称になっており、特に右巻きの殻をもつカタツムリを食べやすいようになっています。このことから、このヘビは”右利きのヘビ”と呼ばれてきました。
研究グループは、西表島で採集されたイワサキセダカヘビの寄生虫を調べたところ、胆嚢から大きさ4mmほどの吸虫(扁形動物の寄生虫の一種)を見出しました(図1)。この吸虫は、シマヘビやマムシなどの一般的なヘビに広く寄生する「ヘビ槍型吸虫(学名:Paradistomum megareceptaculum)」に形がそっくりでした。しかし、詳細な形態観察とDNAの分析の結果、「ヘビ槍型吸虫」をはじめとした既知の吸虫種とは全く異なる別種であることが明らかになりました。そこで、イワサキセダカヘビから得られた吸虫を新種とし、「セダカヘビ槍形吸虫(学名:Paradistomum dextra)」と名づけました。この学名の種小名は、イワサキセダカヘビが”右利き”であることにちなんで「dextraデクストラ(=右の)」としました。
一般的に、吸虫はその生涯で3つの宿主(成虫の寄生する終宿主、幼虫が1つ目に寄生する第一中間宿主、2つ目に寄生する第二中間宿主)を利用します。今回の新種の属する寄生虫のグループ(Paradistomum属)は、終宿主に寄生した成虫が産卵し、その卵がまずカタツムリ(第一中間宿主:幼虫が1つ目に利用する宿主のこと)に感染し、その体内でスポロシスト幼虫が発達することが知られています(図2)。スポロシスト幼虫からは小型のセルカリア幼虫が出て、それがカタツムリの体外へ出て第二中間宿主(幼虫の2つ目の宿主)の動物に感染し、メタセルカリア幼虫となります。最終的に、第二中間宿主を食べた終宿主が再び感染します。なおセルカリア幼虫は、直接終宿主に感染できず、必ず第二中間宿主を経由してメタセルカリア幼虫にならなければ終宿主に感染できません。ここで、イワサキセダカヘビはカタツムリを専食することから、「セダカヘビ槍形吸虫」の第二中間宿主はカタツムリと考えられます。したがって、今回見つかった新種の寄生虫が生きるためには、宿主となるイワサキセダカヘビとカタツムリが十分に生息する、健全な沖縄の自然が必要となります。
第二中間宿主の候補になるイッシキマイマイ(イワサキセダカヘビの主要な餌のひとつ)は、環境省レッドリストで準絶滅危惧種(NT)、沖縄県のレッドリストで絶滅危惧II類(VU)です。これだけではなく、西表島と石垣島では、さまざまなカタツムリが、温暖化や開発による環境変化により個体数が大きく減少することが心配されています。生態系は、様々な生物種が絶妙なバランスを取り合って成り立っています。このため、生物1種の絶滅が、連鎖的に思わぬ事態を引き起こすことがあり、寄生虫だからといって消滅してよいものではありません。宿主となるヘビ、カタツムリ、そして寄生虫を包括的に守ることが、沖縄の生態系と生物多様性を守ることにつながると言えます。
このような状況の中で、東邦大学理学部の脇准教授はヤンバルクイナやオキナワヤマタカマイマイ類など、沖縄の希少な動物につく寄生虫や共生生物を研究しています。これらの寄生虫や共生生物は、人に寄生することはなく、野外で宿主とひっそりと生活しています。イワサキセダカヘビは、石垣島と西表島の固有種で、国際自然保護連合(IUCN)で準絶滅危惧(NT)に、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)になっています。このヘビはカタツムリを専食することが知られていますが、顎が左右非対称になっており、特に右巻きの殻をもつカタツムリを食べやすいようになっています。このことから、このヘビは”右利きのヘビ”と呼ばれてきました。
研究グループは、西表島で採集されたイワサキセダカヘビの寄生虫を調べたところ、胆嚢から大きさ4mmほどの吸虫(扁形動物の寄生虫の一種)を見出しました(図1)。この吸虫は、シマヘビやマムシなどの一般的なヘビに広く寄生する「ヘビ槍型吸虫(学名:Paradistomum megareceptaculum)」に形がそっくりでした。しかし、詳細な形態観察とDNAの分析の結果、「ヘビ槍型吸虫」をはじめとした既知の吸虫種とは全く異なる別種であることが明らかになりました。そこで、イワサキセダカヘビから得られた吸虫を新種とし、「セダカヘビ槍形吸虫(学名:Paradistomum dextra)」と名づけました。この学名の種小名は、イワサキセダカヘビが”右利き”であることにちなんで「dextraデクストラ(=右の)」としました。
一般的に、吸虫はその生涯で3つの宿主(成虫の寄生する終宿主、幼虫が1つ目に寄生する第一中間宿主、2つ目に寄生する第二中間宿主)を利用します。今回の新種の属する寄生虫のグループ(Paradistomum属)は、終宿主に寄生した成虫が産卵し、その卵がまずカタツムリ(第一中間宿主:幼虫が1つ目に利用する宿主のこと)に感染し、その体内でスポロシスト幼虫が発達することが知られています(図2)。スポロシスト幼虫からは小型のセルカリア幼虫が出て、それがカタツムリの体外へ出て第二中間宿主(幼虫の2つ目の宿主)の動物に感染し、メタセルカリア幼虫となります。最終的に、第二中間宿主を食べた終宿主が再び感染します。なおセルカリア幼虫は、直接終宿主に感染できず、必ず第二中間宿主を経由してメタセルカリア幼虫にならなければ終宿主に感染できません。ここで、イワサキセダカヘビはカタツムリを専食することから、「セダカヘビ槍形吸虫」の第二中間宿主はカタツムリと考えられます。したがって、今回見つかった新種の寄生虫が生きるためには、宿主となるイワサキセダカヘビとカタツムリが十分に生息する、健全な沖縄の自然が必要となります。
第二中間宿主の候補になるイッシキマイマイ(イワサキセダカヘビの主要な餌のひとつ)は、環境省レッドリストで準絶滅危惧種(NT)、沖縄県のレッドリストで絶滅危惧II類(VU)です。これだけではなく、西表島と石垣島では、さまざまなカタツムリが、温暖化や開発による環境変化により個体数が大きく減少することが心配されています。生態系は、様々な生物種が絶妙なバランスを取り合って成り立っています。このため、生物1種の絶滅が、連鎖的に思わぬ事態を引き起こすことがあり、寄生虫だからといって消滅してよいものではありません。宿主となるヘビ、カタツムリ、そして寄生虫を包括的に守ることが、沖縄の生態系と生物多様性を守ることにつながると言えます。
発表雑誌
-
雑誌名
「Systematic Parasitology」(2024年5月13日)
論文タイトル
A new species of the genus Paradistomum (Platyhelminthes: Trematoda) from Iwasaki's snail-eating snake Pareas iwasakii, with a note on morphological variations of Paradistomum megareceptaculum (Tamura, 1941)
著者
Tsukasa Waki, Masaki Hoso, Masato Nitta, Harushige Seo, Misako Urabe
DOI番号
10.1007/s11230-024-10164-1
論文URL
https://doi.org/10.1007/s11230-024-10164-1
添付資料

図1. 宿主のイワサキセダカヘビ(左)と新種の寄生虫「セダカヘビ槍形吸虫」(右)。
この吸虫の体長は4 mm程度。
写真:細 将貴、脇 司。
この吸虫の体長は4 mm程度。
写真:細 将貴、脇 司。

図2. 新種の吸虫「セダカヘビ槍形吸虫」の現在予想されている生活史
成虫はイワサキセダカヘビに寄生する。新種の属するグループ(Paradistomum属)は、第一中間宿主(寄生虫の幼虫が寄生する最初の宿主)としてカタツムリが報告されており、本種も同様と考えられる。イワサキセダカヘビに再び感染するには第二中間宿主(幼虫の2つ目の宿主)を経由する必要がある。このヘビはカタツムリしか食べないので、第一中間宿主とは別個体のカタツムリが第二中間宿主となっている可能性が高い。
イラスト:脇 司。 画像協力:細 将貴。
成虫はイワサキセダカヘビに寄生する。新種の属するグループ(Paradistomum属)は、第一中間宿主(寄生虫の幼虫が寄生する最初の宿主)としてカタツムリが報告されており、本種も同様と考えられる。イワサキセダカヘビに再び感染するには第二中間宿主(幼虫の2つ目の宿主)を経由する必要がある。このヘビはカタツムリしか食べないので、第一中間宿主とは別個体のカタツムリが第二中間宿主となっている可能性が高い。
イラスト:脇 司。 画像協力:細 将貴。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
准教授 脇 司
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1653
E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/index.html
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
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E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL:www.toho-u.ac.jp
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