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プレスリリース 発行No.1351 令和6年3月18日

大唾液腺と心臓の検査からパーキンソン病の病態進展過程を新たに解明

 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野の蝦名潤哉助教(任期)と狩野修教授、同放射線医学講座の水村直臨床教授らは、大唾液腺と心臓2領域の交感神経障害を呈するパーキンソン病患者が、より高齢で非運動症状が進行しており、病態進行に年齢が強いことを報告しました。今回の研究成果はパーキンソン病の病態進展解明の一助になる可能性があります。

 本研究は2024年2月12日に「Journal of the Neurological Sciences」にてオンライン先行公開されました。

発表者名

蝦名 潤哉(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教(任期))
水村 直(東邦大学医学部放射線医学講座 臨床教授)
狩野 修(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 教授)

発表のポイント

  • MIBG心筋シンチグラフィー検査(注1)により、大唾液腺と心臓2領域の交感神経障害を有するパーキンソン病(Parkinson’s disease: 以下、PD)(注2)患者は、単一交感神経障害を有する群あるいは非交感神経障害群よりもより高齢で、嗅覚障害、レム睡眠行動異常症、自律神経障害質問紙票による評価やMDS-UPDRS(注3)の非運動症状パートが重症であることが明らかになりました。その一方で、認知機能や罹病期間、MDS-UPDRS運動症状パートは他群と同等でした。
  • 本研究は、研究グループが昨年発表した半自動定量的手法を用い、大唾液腺と心臓MIBG集積を解析したもので、(Ebina J, et al. J Neurol 2023. https://link.springer.com/article/10.1007/s00415-023-11770-7
    このようにPD患者において大唾液腺と心臓の末梢臓器2領域に着目して臨床症状を比較した研究は新しい視点と考えられます。
  • 本研究は、PDの病態進展理解に寄与し、将来的なPDの病期・ステージングに繋がり、患者個々の状態に応じたテイラーメイド医療が実践できるようになる可能性があります。研究グループは、新規補助診断手法への有用性を検討しています。

発表概要

 PDは進行性変性性運動障害疾患で、αシヌクレインの異常凝集体であるレビー小体が原因蛋白質です。レビー小体は中枢神経のみならず、末梢臓器にも発現します。PDにおいて、123I-metaiodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィー検査による心臓交感神経障害はレビー小体の存在と関連しています。一方、大唾液腺等の消化管にもレビー小体が好発しますが、末梢臓器でどのように病態進展していくか不明です。研究グループらはPD患者の耳下腺・顎下腺交感神経障害を昨年報告しました。そこで、本研究では心臓と大唾液腺2領域で交感神経障害を有するPD患者で、より病態進展し臨床症状が進行しているのではないかと仮定し検証しました。
 
 大唾液腺と心臓2領域の交感神経障害を有するPD(dual-SD群)は単一交感神経障害群(single-SD群)、非交感神経障害群(non-SD群)に比べ、高齢でより嗅覚障害が重度で、レム睡眠行動異常症を有する可能性が高い患者の割合が高く、自律神経障害が重度で、MDS-UPDRSによる非運動症状が重度であることが判明しました。一方、罹病期間や認知機能、運動症状の程度は同等でした。また、dual-SD群とその他の群間にて臨床評価項目が病態進行に影響しているか検討するため、年齢、性別、罹病期間を変数として多重ロジスティック回帰分析を施行したところ、年齢が重要な因子であることがわかりました(表1及び図1)。

 以上から大唾液腺と心臓2領域のMIBG集積低下を有するPDで非運動症状を中心に病状が進行していることが判明し、自律神経障害は黒質線条体変性(ドパミン神経系)から独立して進展する可能性があることがわかりました。さらに、年齢がPDの病態進行に寄与している可能性が示唆されました。本研究はPDの病態進展解明の一助となり、将来的な患者個々の病期・ステージングに利用できる可能性があります。

発表内容

 PDは運動緩慢、静止時振戦や筋強剛を主体とする進行性変性性運動障害疾患で、αシヌクレインの異常凝集に伴うレビー小体が原因蛋白質です。レビー小体は中枢神経系のみならず、消化管や心臓等の末梢臓器にも好発し、MIBG心筋シンチグラフィー検査による心臓交感神経障害はレビー小体の存在を裏付けることが病理学的検討で知られています。現在PDの病態進展仮説として、Body-first vs. Brain-first仮説(注4)が注目されていますが、末梢臓器におけるレビー小体の進展経路に不明な点が多いのが実情です。研究グループはレビー小体が好発する大唾液腺を半自動定量的手法によってMIBG集積を解析し、対照群に比較してPD群で有意に低下していることを昨年報告しました。そこで、心臓と大唾液腺2領域に交感神経障害を有するPD患者で、より病態進展していると仮定し、臨床症状を検討しました。

 対象はPD群90名と対照群30名とし、検査時年齢、罹病期間、MMSEによる認知機能、OSIT-Jを用いた嗅覚障害、RBDSQ-Jを用いた質問紙票によるレム睡眠行動異常、質問紙票による自律神経障害評価(SCOPA-AUT)、PDの重症度であるHoehn-Yahr分類、非運動症状、ADL、運動症状評価尺度であるMDS-UPDRS partⅠ-Ⅲを評価しました。耳下腺及び顎下腺、心臓のMIBG集積をPD群と対照群で比較し、感度と特異度からカットオフ値を算出し、PD群を大唾液腺と心臓2領域の交感神経障害を有するdual-SD群、単一交感神経障害群(single-SD群)、非MIBG集積低下群(non-SD群)に分類し、臨床評価項目を比較しました。dual-SD群と他群を比較し、年齢や性別、罹病期間といったPDの進展に影響を与えると考えられる指標を変数として多重ロジスティック回帰分析を行いました。

 その結果、対照群と比較し、PD群で耳下腺・顎下腺、心臓MIBG集積いずれも有意に低下していました(耳下腺後期像:p = 0.006、顎下腺後期像:p = 0.001、心臓後期像:p < 0.001)。後期像の耳下腺・顎下腺、心臓MIBG集積の感度及び特異度(カットオフ値)はそれぞれ、耳下腺:64.4%/63.3%、顎下腺:75.6%/56.7%、心臓:81.1%/90.0%でした。感度・特異度によるカットオフ値からdual-SD群が61名、single-SD群25名(MSG-SD13名、H-SD群12名)、non-SD群4名に分類されました(表1)。これらの群間で臨床評価項目を比較すると、dual-SD群は他群よりもより高齢で嗅覚障害が重度で、レム睡眠行動異常を有する可能性が高く、自律神経障害が重度で、非運動症状が進行している可能性が示唆されました。一方、認知機能や罹病期間、運動症状の程度は他群と同等でした(表1及び図1)。多重ロジスティック回帰分析でdual-SD群と他群を比較すると年齢が寄与していることがわかりました(dual-SD群 vs. single-/non-SD群:β= 0.106、p = 0.001、オッズ比1.112、95%信頼区間 1.043-1.187)。

 本研究により、大唾液腺と心臓2領域の交感神経障害を有するPDで非運動症状が進行していることが判明し、すなわちレビー小体の広範な分布を示唆するのではないかと考えました。さらに、自律神経障害は運動症状の主病態であるドパミン神経系変性から独立して進行する可能性があり、病態進展に年齢が影響している可能性が示唆されました。近年PDの病態進展仮説として、Body-first vs. Brain-first仮説が注目されています。同仮説はPDの前駆症状の可能性が高いレム睡眠行動異常が運動症状出現以前にみられるか、あるいは運動症状出現後にみられるかによって、心臓交感神経障害を有するPDは腸管から中枢へ上行する経路(Body-firstタイプ=ボトムアップタイプ)と中枢から進展する経路(Brain-firstタイプ=トップタウンタイプ)に分類されるとするものです。また、過去の病理学的検討では、特発性レム睡眠行動異常症患者の顎下腺からαシヌクレイン病理が検出されたとする報告や、PD患者の顎下腺にもαシヌクレイン病理が好発することが報告されています。さらに、甲状腺と心臓MIBG集積が相関することが報告されています。しかし、研究グループは先の研究において心臓と大唾液腺MIBG集積が相関しないことを報告しました。すなわち、心臓と大唾液腺MIBG集積はPDの交感神経変性レベルの差やPDの病態進展経路の違いを反映しているのではないかと考えられます。また、このことは甲状腺と心臓は星状神経節、耳下腺・顎下腺は上頸神経節と、交感神経節支配が異なる点が影響しているのではないかと考えています。現時点で大唾液腺MIBG集積低下を伴うPDがBody-firstタイプなのかBrain-firstタイプなのか判断するには十分な検討がなされていませんが、今後、大唾液腺-甲状腺-心臓の末梢臓器におけるMIBG集積の関連を検討することがPD病態進展に寄与する可能性があります。また、PDと臨床症状が類似する非典型パーキンソニズムや遺伝性パーキンソン病との比較も重要と考えられます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of the Neurological Sciences」(オンライン先行公開:2024年2月12日)

    論文タイトル
    Clinical characteristics of patients with Parkinson's disease with reduced
    123I-metaiodobenzylguanidine uptake in the major salivary glands and heart

    著者
    Junya Ebina, Sunao Mizumura, Harumi Morioka, Mari Shibukawa, Junpei Nagasawa,
    Masaru Yanagihashi, Takehisa Hirayama, Nobutomo Ishii, Yukio Kobayashi, Akira Inaba,
    Satoshi Orimo and Osamu Kano*

    DOI番号
    https://doi.org/10.1016/j.jns.2024.122932

    アブストラクトURL
    https://www.jns-journal.com/article/S0022-510X(24)00067-4/abstract

用語解説

(注1)MIBG心筋シンチグラフィー検査
123I-metaiodobenzylguanidine(MIBG)はノルアドレナリンの生理的アナログで同検査は心臓交感神経節後線維障害を評価する手法。本邦では元々心不全評価で施行される検査で、現在パーキンソン病やレビー小体型認知症の自律神経障害評価で施行されることが多くなっており、保険収載されている。パーキンソン病やレビー小体型認知症への有用性から国際診断基準に含まれている。

(注2)パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)
黒質線条体変性に伴うドパミン神経系障害により、進行性に運動障害を呈する疾患。代表的な症状は運動緩慢、静止時振戦、筋強剛で病状が進行すると歩行障害や姿勢反射障害を呈する場合がある。運動症状以外に多彩な非運動症状を呈し、嗅覚障害やレム睡眠行動異常、抑うつ等が運動症状以前にみられる場合がある。

(注3)MDS-UPDRS
Movement Disorder Society-Unified Parkinson’s Disease Rating Scaleの略。
4つのパートに分かれており、パートⅠは非運動症状評価、パートⅡは患者のADL評価、パートⅢは検者による運動症状評価、パートⅣは運動合併症評価から構成されている。

(注4)Body-first vs. Brain-first仮説
MIBG心筋シンチグラフィー検査等の放射線学的検査を用い、パーキンソン病の前駆症状と考えられるレム睡眠行動異常の有無(運動症状より先に出現するか後に出現するか)を基に、腸管から進展するタイプ(Body-firstタイプ=ボトムアップタイプ)と中枢から進展するタイプ(Brain-firstタイプ=トップダウンタイプ)に分かれるとする仮説(Horsager J, et al. Brain 2020)。

添付資料

Ebina J, et al. J Neurol Sci (in press) より抜粋

表1.4群間の臨床症状の比較

Ebina J, et al. J Neurol Sci (in press) より一部改変し抜粋

図1.4群間の臨床症状の違い
*p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001
大唾液腺と心臓2領域のMIBG集積低下を伴うPD群(dual-SD群)は高齢で嗅覚障害が重度で、レム睡眠行動異常症のスコアとprobable RBDの患者(カットオフ5/13以上)が多く、自律神経障害質問紙票(SCOPA-AUT)による評価が重度であった。また、MDS-UPDRS partⅠによる非運動症状スコアがdual-SD群で重度であった。

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
教授 狩野 修

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151 FAX: 03-3768-2566
E-mail: osamu.kano[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/neurology/

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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