プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1343 令和6年2月20日

生理活性リン脂質である血小板活性化因子(PAF)が食道平滑筋を強力に収縮させることを発見
~ PAFは炎症性食道疾患に関与する可能性がある ~

 東邦大学薬学部薬理学教室の小原圭将講師、吉岡健人講師、田中芳夫教授らの研究グループは、生理活性リン脂質である血小板活性化因子(PAF)が食道平滑筋を強力に収縮させることを世界で初めて発見しました。
また、PAFによる収縮反応が、細胞外から細胞内へのCa2+流入によりもたらされ、そのCa2+流入は、電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)(注1)ではなく、受容体作動性Ca2+チャネル(ROCC)(注2)とストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)(注3)を介して生じることを明らかにしました。

 この研究成果は、雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2024年2月16日に掲載されました。

発表者名

小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
日下部太一(東邦大学薬学部薬化学教室 講師)
高橋 圭介(東邦大学薬学部薬化学教室 准教授)
加藤 恵介(東邦大学薬学部薬化学教室 教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • PAFは、血小板凝集や炎症・アレルギー反応に関与する生理活性リン脂質です。近年、胃からの酸逆流により食道でのPAFの産生が増加することや、びらん性食道炎(注4)の患者の食道では、PAFを合成する酵素のメッセンジャーRNA(mRNA)(注5)の発現量が上昇していることが明らかとなっており、炎症時の食道の機能に重要な役割を果たす可能性が指摘されています。しかし、食道平滑筋の収縮機能に対するPAFの作用はこれまで検討されていませんでした。
  • 本研究では、PAFがPAF受容体を刺激することで食道平滑筋を強力に収縮させることを世界で初めて発見しました。また、PAFによる収縮反応には、一般に平滑筋の収縮に重要であると考えられているVDCCは関与せず、ROCCとSOCCを介した細胞外から細胞内へのCa2+流入が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
  • 本結果は、PAFが食道平滑筋の収縮性を制御する内因性の生理活性リン脂質である可能性が高く、逆流性食道炎(注4)などの炎症性食道疾患に関与する原因物質の1つとなる可能性を示します。

発表概要

 血小板活性化因子(PAF)は、血小板を凝集させる物質として発見された生理活性リン脂質です。その後の研究から、PAFは、炎症反応やアレルギー反応の内因性の誘導因子として働くことも明らかとなり、喘息や鼻炎、皮膚炎、血管炎、関節炎、アナフィラキシー、感染症などの炎症・アレルギー反応でその産生が増加することが示されています。また、胃炎、膵炎、大腸炎、クローン病においても、PAFの産生が増加することが報告されており、炎症性胃腸疾患におけるPAFの重要な役割が示唆されています。
 上記の作用に加えて、PAFは多くの動物種において、胃、小腸、結腸などの消化管平滑筋を収縮させることが報告されており、その収縮によって、消化管の運動性を高めることが示唆されています。したがって、消化管組織では、PAFは炎症反応に関与するだけでなく、運動性を増加させる役割も有すると考えられています。しかし、食道に関して、PAFが収縮反応を示すか否かに関する研究は、これまで行われていませんでした。ただし、食道においても、他の消化管組織と同様、PAFの産生と炎症が関連することは示唆されています。例えば、胃からの酸逆流により食道でのPAFの産生が増加することや、びらん性食道炎の患者の食道では、PAFを合成する酵素のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量が上昇していることが明らかとなっており、PAFが炎症時の食道の機能に重要な役割を果たす可能性が指摘されています。よって、食道においても、PAFがその運動機能を高める可能性が想定されます。

 そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の研究グループは、食道平滑筋の運動性に対するPAFの効果を検証するため、モルモットから摘出した食道粘膜筋板(食道平滑筋)に対するPAFの収縮効果を検討しました。その結果、PAFが食道平滑筋を収縮させることを世界で初めて発見しました。また、PAFが食道を収縮させるメカニズムについても検討を行ったところ、PAFによる食道の収縮反応は、PAF受容体を介した細胞外から細胞内へのCa2+流入が重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに、PAFによるCa2+流入経路に関しても検討を行ったところ、一般に平滑筋の収縮に重要であると考えられている電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)の関与は認められず、受容体作動性Ca2+チャネル(ROCC)とストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)が主たる流入経路である可能性が示唆されました。これまでの報告や本研究結果から、胃から食道への酸逆流がPAFの産生を増加させることにより食道平滑筋の収縮を引き起こし、その収縮は、酸逆流を抑制したり、逆流した酸を押し戻したりといった胃酸の攻撃から食道粘膜を保護する役割を発揮することが想定されます(図1)。ただし、逆流性食道炎などの長期的な胃酸の曝露は、PAFの炎症作用による炎症の悪化に加え、食道の過剰な収縮に伴う収縮機能の障害を引き起こし、嚥下障害をもたらす可能性が想定されます。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注6)を用いて、モルモットから摘出した食道粘膜筋板(食道平滑筋)に対する血小板活性化因子(PAF)の効果を検討しました。PAF(10−9-10−6 M)は、モルモット食道粘膜筋板を濃度依存的かつ強力に収縮させました(図2)。PAF(10−6M)による収縮反応はPAF受容体拮抗薬であるapafantにより完全に消失したことから、PAF受容体を介して生じることが示されました(図3)。PAF受容体が実際に、食道平滑筋の存在していることを確認するため、RT-qPCR法(注7)によりPAF受容体のmRNA発現を検討し、他の消化管組織(胃、回腸、結腸)の発現と比較したところ、他の消化管組織よりも発現量は少ないものの、食道平滑筋にもPAF受容体のmRNA発現が認められました(図4A)。また、PAF合成酵素、PAF分解酵素のmRNAが食道平滑筋に発現していることも示されました(図4B)。したがって、PAF関連分子(受容体、合成酵素、分解酵素)が食道平滑筋に存在することが確認され、PAFが内因性の食道収縮物質となる可能性が強く示されました。

 次に、PAFによる食道平滑筋の収縮反応の機序について、細胞外液から細胞内へのCa2+流入経路に着目して検討しました。PAFによる収縮反応は、細胞外液のCa2+を除去することにより完全に消失したことから、細胞外液から細胞内ヘのCa2+の流入に依存することが示されました(図5)。このCa2+流入経路を明らかにするために、一般に平滑筋の収縮に重要であると考えられているVDCCの寄与を検討しましたが、PAFによる収縮反応はVDCC抑制薬では抑制されず、VDCCが関与しないことが示されました(図6)。そこで、VDCC以外のCa2+流入経路として知られているROCCおよびSOCCの関与を検討したところ、PAFによる収縮反応はROCC抑制薬、SOCC抑制薬の両者により抑制されました(図7)。したがって、ROCCおよびSOCCがPAFによる収縮反応に関与する主たるCa2+流入経路である可能性が示されました。ROCCおよびSOCCの具体的な分子を推定するため、RT-qPCR法によりこれらの関連分子のmRNA発現を測定しました。その結果、ROCC関連分子(TRPチャネル)では、TRPC3、TRPC6、TRPV4のmRNA発現が、SOCC関連分子(Oraiチャネル、STIM)では、Orai1、Orai3、STIM2のmRNA発現が多く認められました(図8、9)。よって、これらの分子がROCCおよびSOCCの本体となり得る可能性が示唆されました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Pharmacological Sciences」(2024年2月16日)
    154巻、4号、256–263

    論文タイトル
    Platelet-activating factor contracts guinea pig esophageal muscularis mucosae by stimulating extracellular Ca2+influx through diltiazem-insensitive Ca2+ channels

    著者
    Keisuke Obara, Aina Ichimura, Taichi Arai, Mako Fujiwara, Miho Otake, Nana Yamada,
    Kento Yoshioka, Taichi Kusakabe, Keisuke Takahashi, Keisuke Kato, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1016/j.jphs.2024.01.009

    論文URL
    https://doi.org/10.1016/j.jphs.2024.01.009

用語解説

(注1)電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)
細胞外から細胞内にCa2+を流入させる経路として機能するイオンチャネルの1つ。
電位依存性Ca2+チャネル(voltage-dependent Ca2+ channel: VDCC)は、神経伝達物質や生理活性ペプチドなどによりもたらされる細胞膜の膜電位変化により制御されており、脱分極(細胞膜の電位が相対的にプラス側に傾くこと)によって開口する。多くの平滑筋の収縮に関与しており、VDCCを抑制する薬物が高血圧症や排尿異常に対する治療薬として用いられている。

(注2)受容体作動性Ca2+チャネル(ROCC)
細胞外から細胞内にCa2+を流入させる経路として機能するCa2+チャネルの1つ。
受容体作動性Ca2+チャネル(receptor-operated Ca2+ channel : ROCC)は、受容体の刺激により活性化され、本体はtransient receptor potential(TRP)チャネルであると考えられている。TRPチャネルは受容体による刺激だけでなく、機械的刺激や酸刺激、熱刺激、冷感刺激などの様々な物理的刺激によっても活性化され、Ca2+だけでなく様々な陽イオンを流入させることができる。

(注3)ストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)
細胞外から細胞内にCa2+を流入させる経路として機能するCa2+チャネルの1つ。
受容体の刺激により筋小胞体からCa2+の流出が促進し、筋小胞体のCa2+の枯渇が生じる。ストア作動性Ca2+チャネル(store-operated Ca2+ channel: SOCC)は、筋小胞体の枯渇を感知して活性化するCa2+チャネルであり、その本体はOraiチャネルであると推定されている。具体的には、Oraiチャネル(SOCC)は、筋小胞体のCa2+センサータンパク質であるSTIM(stromal interaction molecule)が筋小胞体のCa2+の枯渇を感知することで活性化される。

(注4)びらん性食道炎、逆流性食道炎
食道炎は、食道の粘膜に炎症を起こす疾患である。食道炎のうち、びらんと呼ばれる粘膜欠損を生じるものをびらん性食道炎という。原因としては、胃からの酸逆流が最も多く、酸逆流により生じるびらん性食道炎は逆流性食道炎と呼ばれる。

(注5)メッセンジャーRNA(mRNA)
生体のタンパク質はDNAから転写されたmRNAを基に合成される。mRNAの発現レベルが上昇すると、mRNAにコードされるタンパク質の合成が促進される。

(注6)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注7)RT-qPCR法
定量的逆転写PCR法。組織や細胞での遺伝子(メッセンジャーRNA(mRNA))発現レベルを定量的に測定することができる。ウイルスの検査にも用いられる。

添付資料

図1. 本研究から想定される食道の収縮機能に対する血小板活性化因子(PAF)の役割
本研究では、PAFが食道平滑筋を強力に収縮させることを見出した。これまでの報告から、PAFが胃から食道への酸逆流により産生が増加することが明らかになっていることから、酸逆流はPAFの産生を増加させることで、食道平滑筋を収縮させることが想定される。また、PAFによる食道の収縮は、酸逆流を抑制したり、逆流した酸を押し戻したりといった胃酸の攻撃から食道粘膜を保護する役割を発揮することが想定される。ただし、逆流性食道炎などの長期的な胃酸の曝露は、PAFによる過剰な収縮に伴う収縮機能の障害を誘発し、嚥下障害をもたらすことが想定される。

図2. モルモット食道平滑筋のPAFによる収縮反応
Aa–Adはモルモット食道平滑筋のPAF(10−9 M, Aa;10−8 M, Ab;10−7 M, Ac;10−6 M, Ad)による収縮反応を示す代表的な実験記録を示し、BはAa–Adに示す実験の解析結果である。PAFは濃度依存的かつ強力に食道平滑筋を収縮させた。図中のAChは、副交感神経伝達物質であるアセチルコリン(3 × 10−6 M)による収縮反応を示す。

図3. モルモット食道平滑筋のPAFによる収縮反応に対するPAF受容体拮抗薬の効果
Aa、Abはモルモット食道平滑筋のPAF(10−6 M)による収縮反応に対するPAF受容体拮抗薬であるapafant(3 × 10−5 M, Ab)の効果を示す代表的な実験記録を示し(Aaは対照実験)、BはAa、Abに示す実験の解析結果である。PAFによる収縮反応は、PAF受容体拮抗薬により完全に消失したことから、PAF受容体を介して生じることが示された。

図4. モルモット消化管組織でのPAF関連分子のmRNA発現
Aはモルモット食道平滑筋(EMM)、胃底平滑筋(gastric fundus SM)、回腸縦走筋(ileum LSM)、結腸縦走筋(colon LSM)でのPAF受容体のmRNA発現を、Bはモルモット食道平滑筋でのPAF合成酵素(Lpcat1、Lpcat2)、PAF分解酵素(Pafah1b3、Pafah2)のmRNA発現をRT-qPCR法により測定したものである。食道平滑筋には他の消化管組織と同様、PAF受容体のmRNA発現が認められ、PAF合成・分解酵素のmRNA発現も認められた。

図5. モルモット食道平滑筋のPAFによる収縮反応に対する細胞外液Ca2+除去の効果
Aa、Abはモルモット食道平滑筋のPAF(10−6 M)による収縮反応に対する細胞外液Ca2+除去(Ca2+-free, Ab)の効果を示す代表的な実験記録を示し(Aaは対照実験)、BはAa、Abに示す実験の解析結果である。PAFによる収縮反応は、細胞外液のCa2+を除去することにより完全に消失したことから、細胞外液から細胞内ヘのCa2+の流入に依存することが示された。

図6. モルモット食道平滑筋のPAFによる収縮反応に対するVDCC抑制薬の効果
Aa、Abはモルモット食道平滑筋のPAF(10−6 M)による収縮反応に対するVDCC(電位依存性Ca2+チャネル)抑制薬であるdiltiazem(10−5 M, Ab)の効果を検討した代表的な実験記録を示し(Aaは対照実験)、BはAa、Abに示す実験の解析結果である。PAFによる収縮反応はVDCC拮抗薬では抑制されず、VDCCが関与しないことが示された。

図7. VDCC抑制薬存在下でのモルモット食道平滑筋のPAFによる収縮反応に対するROCC抑制薬およびSOCC抑制薬の効果
Aa、AbはVDCC抑制薬存在下でのモルモット食道平滑筋のPAF(10−6 M)による収縮反応に対するROCC(受容体作動性Ca2+チャネル)抑制薬であるLOE-908(3 × 10−5 M, Ab)の効果を示す代表的な実験記録を示し(Aaは対照実験)、Ba、BbはVDCC抑制薬存在下でのPAF(10−6 M)による収縮反応に対するSOCC(ストア作動性Ca2+チャネル)抑制薬であるSKF-96365(3 × 10−5 M, Bb)の効果を示す代表的な実験記録を示す(Aaは対照実験)。AcはAa、Abに示す実験の、BcはBa、Bbに示す実験の解析結果である。VDCC抑制薬存在下でのPAFによる収縮反応はROCC抑制薬、SOCC抑制薬の両者により抑制されたことから、ROCCおよびSOCCがPAFによる収縮反応に関与することが示された。

図8. モルモット食道平滑筋でのROCC関連分子のmRNA発現
RT-qPCR法により、モルモット平滑筋平滑筋でのROCC関連分子(TRPチャネル)のmRNA発現を検討した。検討したROCC関連分子のうち、TRPC3、TRPC6、TRPV4のmRNAの発現量が多かったことから、これらの分子がROCCの本体となり得る可能性が示唆された。

図9. モルモット食道平滑筋でのSOCC関連分子のmRNA発現
RT-qPCR法により、モルモット平滑筋平滑筋でのSOCC関連分子(Oraiチャネル、STIM)のmRNA発現を検討した。検討したSOCC関連分子のうち、Orai1のmRNAの発現が最も多く、Orai3、STIM2のmRNA発現も認められた。よって、これらの分子がSOCCの本体となり得る可能性が示唆された。

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
講師 小原 圭将

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp 
URL:www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。