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プレスリリース 発行No.1340 令和6年2月7日

抗うつ薬であるネファゾドンがアセチルコリンエステラーゼを阻害することを発見
~ アルツハイマー病に対する進行抑制効果を示す可能性 ~

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、抗うつ薬であるネファゾドン(注1)が、臨床で到達可能な血中濃度範囲で既存のアルツハイマー病(AD)治療薬と同様の薬理作用(アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用)を示す可能性を示しました。

 この研究成果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に、2024年1月31日に公開されました。

発表者名

小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • アセチルコリンエステラーゼ(AChE)はアルツハイマー病(AD)治療薬の標的となる酵素であり、本酵素を阻害する薬物はAD治療薬として用いられています。ADの進行に伴い、幻覚、興奮、うつ、不安、睡眠障害などの行動・心理症状(BPSD)が生じ、これらの症状を改善するために、統合失調症治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、催眠薬などが使用されることがあります。
  • 研究グループはこれまでに、BPSDの症状の改善に用いられる統合失調症治療薬がAChE阻害作用を示す可能性を検討し、統合失調症治療薬のアリピプラゾール(注2)が臨床で到達可能な血中濃度範囲でAChEを阻害する可能性を明らかにしました。
  • 本研究では、BPSDの症状の改善に用いられる抗うつ薬、抗不安薬、催眠薬のAChE阻害作用を評価し、ネファゾドンのみが臨床で到達可能な血中濃度範囲でAChEを阻害する可能性を明らかにしました。ネファゾドンの有するAChE阻害作用はADの進行抑制効果に寄与する可能性があります。

発表概要

 アルツハイマー病(AD)は認知症の原因となる神経変性疾患であり、世界的にその罹患率が大幅に増加しています。特に高齢化が著しく進行している日本では、その患者数の増加が顕著です。AD患者では、認知機能や学習機能に関与する脳のコリン作動性ニューロンが障害されていることが知られています。例えば、AD患者の脳内では、コリン作動性ニューロン数や記憶・学習に関与する主要な伝達物質であるアセチルコリン(ACh)の合成酵素の活性が低下していることが明らかとなっています。そのため、AD患者に対しては、脳内のAChの量を増加させるために、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)(AChを分解し、その量を低下させる酵素)を阻害する薬物を用いた薬物療法が行われます。AD治療薬によるAChEの阻害は、低下したコリン作動性ニューロンの働きを補うことで、ADの症状の進行を抑制することができます。
 
 ADの主要な症状は認知機能や学習機能が障害される認知症ですが、進行に伴い、幻覚、興奮、うつ、不安、睡眠障害などの行動・心理症状(BPSD)も生じることが知られています。BPSDが生じているAD患者では、これを軽減するために、統合失調症治療薬、抗うつ薬、催眠薬、抗不安薬などの向精神薬を用いた治療が行われることがあります。これらのBPSDの症状緩和に用いられる薬物が、既存のAD治療薬と同様に、AChE阻害作用を示し、脳内のACh濃度を上昇させる場合、BPSDの症状緩和効果を示すのみならず、ADの進行抑制に寄与する可能性があります。田中芳夫教授らの研究グループは、これまでに、臨床で使用されている26種類の統合失調症治療薬がヒトAChEの活性を阻害する可能性を検討し、統合失調症治療薬であるアリピプラゾールが臨床で達成可能な血中濃度範囲内でAChE阻害作用を発揮する可能性があることを発見しました(Obara et al., Pharmacology. 2019;104(1–2):43–50. https://doi.org/10.1159/000500227)。
統合失調症治療薬以外に、BPSDに使用される一部の向精神薬は、AChEを阻害する可能性が報告されていますが、すべての向精神薬に対する網羅的な評価は行われておらず、実際に患者に用いられる用量でAChE阻害作用が発現しうる可能性は検討されていませんでした。

 本研究では、臨床で用いられている向精神薬(31種類の抗うつ薬、21種類の催眠薬、12種類の抗不安薬)のヒトAChE活性に対する阻害作用を評価しました。また、文献調査によりこれらの薬物のヒトでの実際の血中濃度範囲を調べ、この調査結果と本研究で見出したAChE阻害作用の発現濃度範囲を比較することで、臨床使用においてこれらの薬物がAChE阻害作用を発揮する可能性を検討しました。その結果、抗うつ薬であるネファゾドンのみが臨床で到達可能な血中濃度範囲でAChE阻害作用を示すことが明らかとなりました。したがって、ネファゾドンは抗うつ作用によりBPSDによるうつ状態を改善するのみならず、そのAChE阻害作用によりADの進行抑制効果を示す可能性が示唆されました。ただし、ネファゾドンの有するAChE阻害作用は、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンといった既存のAD治療薬のAChE阻害作用と比較すると弱いものであるため、ADの認知症状に対するネファゾドンの効果は限定的である可能性があります。

発表内容

 研究グループは、遺伝子組み換えヒトAChEに対する31種類の抗うつ薬、21種類の催眠薬、12種類の抗不安薬の阻害作用をDTNB法(注3)により評価しました。まず、臨床で用いられる濃度範囲よりも高濃度である10−4 Mを用いて、これらの薬物のAChE阻害作用を評価したところ、22種類の抗うつ薬、19種類の催眠薬、11種類の抗不安薬はAChE活性を20%未満しか阻害しませんでしたが、9種類の抗うつ薬(クロミプラミン、アモキサピン、セチプチリン、ネファゾドン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、ミルタザピン)、2種類の催眠薬(トリアゾラム、ブロチゾラム)、1種類の抗不安薬(ブスピロン)はAChE活性を20%以上阻害しました。これらの薬物の中でブロチゾラムが最もAChE阻害作用が強力であり、10−6 MからAChE阻害作用を示し、そのpIC50値は4.57と算出されました。それ以外の薬物はセルトラリンおよびブスピロンは3 × 10−6 Mから、アモキサピン、ネファゾドン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、ミルタザピン、トリアゾラムは10−5 Mから、クロミプラミンおよびセチプチリンは3 × 10−5 MからAChE阻害作用を示しました。これらの薬物のAChE阻害作用の効力と文献調査を行うことで得られた臨床で到達しうる血中濃度範囲を比較したところ、ネファゾドンのみが臨床用量で達成可能な血中濃度範囲内でAChE阻害作用を示すことが明らかとなりました。したがって、抗うつ薬であるネファゾドンは、抗うつ作用によってBPSDのうつ症状を改善するだけでなく、AChE阻害作用によってADの認知症状の進行を遅らせる可能性があります。ただし、ネファゾドンのAChE阻害作用は、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンといった既存のAD治療薬のAChE阻害作用と比較すると弱いものであるため、ADの認知症状に対するネファゾドンの効果は限定的である可能性があります。

発表雑誌

    雑誌名
    「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2024年1月31日公開)
    47巻1号、328–333

    論文タイトル
    Inhibitory actions of antidepressants, hypnotics, and anxiolytics on recombinant human acetylcholinesterase activity

    著者
    Keisuke Obara, Haruka Mori, Suzune Ihara, Kento Yoshioka, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1248/bpb.b23-00719

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1248/bpb.b23-00719

用語解説

(注1)ネファゾドン
セロトニン5-HT2A受容体を強力に遮断する抗うつ薬。セロトニンやノルアドレナリンの再取り込み阻害作用も併せ持つ。日本を除く、多くの国々で抗うつ薬として使用されていたが、まれな副作用として肝障害を引き起こすことが明らかになったことから、現在ではアメリカのみで使用されている抗うつ薬である(日本未発売)。

(注2)アリピプラゾール
ドパミンD2受容体の部分刺激作用を有する統合失調症治療薬(商品名:エビリファイ)。
統合失調症に加えて、双極性障害における躁症状や既存治療で十分な効果が認められないうつ病・うつ状態、小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対しても適応を有する。

(注3)DTNB法
AChE活性を測定する方法。反応液中に、AChEと試験試薬、AChEの基質となるアセチルチオコリン(ATCh)を加え、ATChが分解されて生成したチオコリンの量をDTNB試薬により測定する。チオコリンとDTNB試薬が反応すると、黄色発色の物質を生じるため、反応液の色の濃度を吸光光度法により測定することにより、反応液中のAChE活性の測定と試験試薬によるAChE阻害作用が評価できる。

添付資料

図1. 本研究成果の概要

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
講師 小原 圭将

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
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E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

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