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プレスリリース 発行No.1295 令和5年7月10日

「富岳」で世界最長計算に成功
~ 中性子星合体で電磁波放射の全貌把握へ ~

 京都大学基礎物理学研究所の木内建太特任准教授(独マックスプランク重力物理学研究所グループリーダー)、柴田大 同教授(独マックスプランク重力物理学研究所所長)、林航大 同博士課程学生(研究当時、現:同研究所研究員)、東邦大学の関口雄一郎教授らのグループは、スーパーコンピュータ「富岳」を使い、連星中性子星の合体に対する世界最長(合体後1秒間、既存の10倍)の一般相対性論シミュレーションに成功しました。

 この結果により合体過程で放射される重力波や電磁波の特徴について高精度かつ統一的な理解が得られたことは、合体で実際に何が起こったかを詳細に理解する重要な一歩となります。
 2017年、2つの中性子星からなる連星の合体によって重力波および電波、近赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線に渡る電磁波が世界で初めて観測されました。精緻なシミュレーションは、こうした様々な「メッセンジャー」の情報を元に連星中性子星合体に多角的に迫るマルチメッセンジャー天文学で重要な役割を果たすだけでなく、天文学や原子核物理、素粒子物理学など別分野への波及も見込まれます。

 本研究成果は、2023年7月7日に米国の国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。
中性子星合体

図.中性子星合体後約1秒の様子
中心にはブラックホールが存在する。左図は物質が放出されていく様子を表している。
中央は密度場、ブラックホールの周りにトーラスが形成されている様子を表している。
右は磁場強度、強磁場が円盤中で生成される様子を表している。

背景

 2017年8月、合体する2つの中性子星からの重力波が検出され、重力波検出器の測定と電磁波望遠鏡の観測を組み合わせたマルチメッセンジャー天文学が始まりました。一方で、このような合体で一体何が起こったのかはまだ詳細には理解されていません。特に鉄より重い元素がどのように合成されたか詳細な理解が望まれています。直径約20kmで太陽の40%以上の質量を持つ中性子星について詳しく知るには、高精度の理論計算が必要です。

研究手法・成果

 私たちは数値相対論と呼ばれる技法を用いて、合体する2つの中性子星の世界最長シミュレーションに成功しました。発表されたシミュレーションの2つの中性子星の質量はそれぞれ1.2および1.5太陽質量で、これは2017年8月に観測された合体のパラメーターと一致しています。シミュレーションは、理化学研究所より提供されるスーパーコンピュータ「富岳」で7200万CPU時間をかけて行われました。

 この長時間シミュレーションによって、中性子星合体の物理について多くのことがわかりました。鉄より重い元素は、合体中や合体後に物質が系から放出される際に合成されることがますます明らかになってきています。

 私たちは物質が合体後約0.01秒から放出されることを発見しました。0.04秒後にこの動的質量放出はピークに達し、合体後約0.3秒後に今度は合体時に形成されたトーラスから物質が再び放出されます。この動的質量放出は合体時の潮汐力と衝撃加熱によるものですが、合体後の物質放出はトーラス内の磁気乱流によるものであることが、今回初めて首尾一貫したシミュレーションで示されました。

波及効果・今後の予定

 重力波物理学・天文学は急速な勢いで進展している学術分野です。重力波と電磁波信号を観測し、精緻な理論モデルと比べることで様々なことが分かるようになってきました。この結果は宇宙分野に限らず、原子核物理や素粒子物理学にも大きな波及効果を及ぼすと予想されます。また、最近再開した重力波検出器の観測でも、合体する中性子星が観測されることを期待しています。このような信号の解釈には、第一原理シミュレーションによる信頼できる理論的予測が重要であり、それを今回初めて実現しました。今後の観測と理論の進展が期待されます。

研究プロジェクトについて

  • 文部科学省スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム「シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで」hp220174
  • 「高解像度長時間シミュレーションで解き明かす連星中性子星合体の大局的磁場構造」hp230084
理化学研究所計算科学研究センター、京都大学、東邦大学、マックスプランク重力物理学研究所

研究者のコメント

 本研究は2019年頃に本格的に開始しましたが、パンデミックによるオフィスへ行けない時期を含め、たくさんの困難を乗り越えた末にようやく完成に至りました。宇宙で起こる現象は日常生活から遠く離れたものですが、それを基礎物理学で解き明かすことは人類の知の地平線を広げることにつながると信じています。今回の研究を通して、知の地平線を広げることに少しでも寄与できたであろうことは研究者として至上の喜びを感じます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Physical Review Letters 」(2023年7月7日)

    論文タイトル
    Self-consistent picture of the mass ejection from a one second-long binary neutron star merger leaving a short-lived remnant in general-relativistic neutrino-radiation magnetohydrodynamic simulation(1秒に渡る連星中性子星合体の数値相対論シミュレーションと質量放出に関する統一的描像)

    著者
    Kenta Kiuchi, Kota Hayashi, Sho Fujibayashi, Koutarou Kyutoku, Yuichiro Sekiguchi, Masaru Shibata

    DOI番号
    10.1103/PhysRevLett.131.011401

    論文URL
    https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.011401
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ先】
基礎物理学研究所 特任准教授
マックスプランク重力物理学研究所 グループリーダー
木内 建太(きうち けんた)

【報道に関するお問い合わせ先】
京都大学 渉外部広報課国際広報室

TEL: 075-753-5729 FAX: 075-753-2094
E-mail: comms[@]mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
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