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プレスリリース 発行No.1279 令和5年4月21日

免疫抑制薬が新型コロナウイルスワクチンの有効性に及ぼす影響が明らかに
~ 膠原病患者におけるワクチン接種後の抗体量の経時的変化の測定から ~

 東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野の川添麻衣講師、南木敏宏教授らの研究グループは、免疫抑制薬やステロイドを投与中の膠原病患者において、新型コロナウイルスワクチン接種前および接種後6ヵ月までのウイルスに対する抗体量を測定し、免疫抑制薬を投与されていない非膠原病患者と比較しました。その結果、膠原病患者ではウイルスに対する抗体量は低く、また免疫抑制薬の種類によって抗体獲得率や抗体量の経時的変化に差があることが分かりました。一方で、副反応は症状・頻度ともに非膠原病患者と同程度であったことから、新型コロナウイルスワクチンは膠原病患者においても安全であることが示されました。
 本研究結果は、今後の膠原病患者における新型コロナウイルスワクチンの接種率向上やブースター接種の推奨につながり、新型コロナウイルス感染症患者数の減少や重症化抑制につながることが期待されます。
 
 この研究成果は、ヨーロッパ内科学会の機関誌「European Journal of Internal Medicine」(オンライン版)に、2023年4月10日に掲載されました。

発表者名

川添 麻衣(東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野 講師)
青木 弘太郎(東邦大学医学部微生物・感染症学講座 助教)
廣瀬 恒(ひろせクリニック 院長)
増岡 正太郎(東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野 助教)
南木 敏宏(東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野 教授)

発表のポイント

  • 免疫抑制薬やステロイドを投与中の膠原病患者において、米国リウマチ学会発出の「新型コロナウイルスに対するワクチン接種に際しての免疫抑制薬休薬期間のガイダンス」を順守した場合の、ワクチン2回接種6ヵ月後までの抗体獲得率や抗体量の経時的変化を検討しました。
  • 膠原病患者では、いずれの疾患においても対照群と比較して抗体産生が減弱していました。
  • いくつかの免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、アバタセプト、TNF阻害薬、IL-6阻害薬、リツキシマブ)やステロイド(特にプレドニゾロン15mg/日以上)を投与中の膠原病患者において、抗体産生が減弱していました。
  • 免疫抑制薬を投与されていない非膠原病患者と比較して、副反応は症状・頻度ともに同 程度であり、ワクチンは膠原病患者においても安全であることが示されました。

発表概要

 膠原病患者は主に免疫抑制薬の影響により、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)(注1)の罹患率や入院、重症化、死亡率が高いという報告が散見されます。またワクチン未接種がそれらのリスクを上昇させることも報告されており、感染予防のためのワクチン接種が重要です。しかし新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)(注2)ワクチンとして本邦で最初に接種可能となったmRNAワクチンは、ヒトに実用化されるのは今回が初めてで、第III相臨床試験において免疫抑制薬投与下の患者は対象から除外されていたため、当初、膠原病患者に対する有効性と安全性のデータは得られていませんでした。そこで、免疫抑制薬を投与中の膠原病患者を対象に、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後6ヵ月までのウイルスに対する抗体を測定し、有効性と安全性を検討しました。その結果、米国リウマチ学会が推奨する本ワクチン接種に際しての免疫抑制薬休薬期間を順守しても、免疫抑制薬の種類によって抗体獲得率や抗体量の経時的変化量に差があることを見出しました。また免疫抑制薬を投与されていない非膠原病患者と比較して、副反応は症状・頻度ともに同程度であったことから、ワクチンは膠原病患者においても安全であることも示しました。これらの結果より、今後膠原病患者におけるワクチンの接種率向上や、特に抗体が産生されづらい免疫抑制薬を投与中の患者におけるワクチンのブースター接種のエビデンスとなることが期待されます。

発表内容

 SARS-CoV-2に対するワクチン接種は、欧米では2020年に開始されましたが、日本では2021年2月と出遅れました。しかしその間に米国リウマチ学会より、膠原病患者における本ワクチン接種に際しての免疫抑制薬休薬期間の推奨が発表されました。当時すでに海外から、免疫抑制薬による抗体産生抑制効果が報告されていましたが、休薬期間は設けられておらず、また大半の研究は短期間の抗体産生を検討したに過ぎませんでした。そこで本研究では、米国リウマチ学会推奨の免疫抑制薬休薬期間を順守し、免疫抑制薬やステロイドを投与中の膠原病患者を対象に、SARS-CoV-2 mRNAワクチン(ファイザー社製・モデルナ社製)の接種前(M0)、接種後1ヵ月(M1)、3ヵ月(M3)、6ヵ月(M6)後のウイルス抗体量(血清IgG型抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体)を測定しました。また膠原病または悪性腫瘍以外の疾患のため通院中で、免疫抑制薬やステロイド非投与の患者を対照群として、抗体量の経時的変化およびワクチンの安全性の比較を行いました。

 ファイザー社製ワクチンを接種した322名を主要解析の対象とし、その内訳は膠原病患者289名、対照群33名でした。膠原病患者には、関節リウマチ213名、全身性エリテマトーデス25名、血管炎14名、リウマチ性多発筋痛症10名、多発性筋炎/皮膚筋炎6名、ベーチェット病5名、IgG4関連疾患5名等が含まれました。
 抗体量は、対照群、膠原病患者ともにM1で上昇し、その後低下するものの、M6においても維持されていました。膠原病患者ではいずれの疾患においても、対照群と比較するとM1・3・6のすべての時点において、抗体量が低いことが示されました(図1)。免疫抑制薬の種類別にみると、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、リツキシマブ(RTX)、プレドニゾロン(PSL)を1日15mg以上投与されている患者では、M0と比較してM1で抗体量の有意な上昇は見られませんでした。アバタセプト(CTLA4-Ig)、アザチオプリン(AZA)を投与中の患者では、M1の抗体量は低いものの、M0と比較すると有意に上昇しました。M1での抗体陽性率は、メトトレキサート(MTX)、タクロリムスまたはシクロスポリン(TAC/CsA)、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬、RTXを投与されている患者では、対照群に比べ有意に低値でした(図2)。CTLA4-Ig、MMF、PSLを投与されている患者は、すべての時点で対照群と比較して抗体陽性率が有意に低いことがわかりました。
 また、M0からの抗体量の変化量に対する影響因子を検討するため、経時的な影響や併用薬、年齢・性別などの個人差を考慮した線形混合モデルによる多変量解析を実施しました(図3)。その結果、男性および年齢と抗体量の変化量との間に逆相関がみられ、男性および高齢者で抗体量が低いことが示されました。またTNF阻害薬、インターロイキン(IL)-6阻害薬、CTLA4-Ig、PSLの使用は、抗体量を有意に低下させることが示されました。MMF、RTX、AZAを投与されている患者でも、統計学的有意差はないものの抗体量の低下が認められました。なお、モデルナ社製ワクチンを接種した患者においても同様に、膠原病患者、コントロール群ともに抗体量はM1で顕著に上昇し、その後M3およびM6で低下しました。多変量解析では、モデルナ社製ワクチンはファイザー社製と比較し、抗体量の変化量をより大きくすることが示されました(図4)。

 副反応については、2 回目のワクチン接種後 2 週間までを調査しましたが、対照群および膠原病患者において、ファイザー社製、モデルナ社製ともに重篤な副反応は見られませんでした。副反応は様々でしたが、両ワクチンとも発熱が最も多く、対照群および膠原病患者群の間で発生頻度に有意差はありませんでした。関節痛の悪化は関節リウマチ患者8名に認められましたが、治療強化を必要としたのは1例のみでした。

 本研究は、膠原病患者におけるSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種の有効性と安全性を示しました。いくつかの免疫抑制薬は休薬期間を設けても抗体産生に悪影響を及ぼしたことから、ブースター接種の必要性が示唆されました。一方で、休薬期間を設ける事により抗体産生への影響を回避できる薬剤もあり、適切な対応が肝要と考えられました。本研究は、アボットジャパン合同会社から資金提供を受けて実施した共同研究です。

発表雑誌

    雑誌名
    「European Journal of Internal Medicine」(2023年4月10日)

    論文タイトル
    Influence of immunosuppressive therapy on longitudinal changes in anti-SARS-CoV-2 spike protein antibodies after two doses of mRNA vaccines in patients with rheumatic diseases

    著者
    Mai Kawazoe, Kotaro Aoki, Wataru Hirose, Shotaro Masuoka, Toshihiro Nanki*

    DOI番号
    https://doi.org/10.1016/j.ejim.2023.04.008

    アブストラクトURL
    https://www.ejinme.com/article/S0953-6205(23)00119-X/fulltext

用語解説

(注1)COVID-19
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019)

(注2)SARS-CoV-2
新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)

添付資料

図1.疾患別の抗体量

図2.免疫抑制薬別の抗体量

図3.膠原病患者における抗体量の変化量に対する影響因子

図4.膠原病患者における抗体量の変化量に対する影響因子(モデルナ社製ワクチン投与患者含む)

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野
講師 川添 麻衣

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151  FAX: 03-3298-0045
E-mail: mai.kawazoe[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kogen/

【本ニュースリリースの発信元】
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