プレスリリース 発行No.1264 令和5年1月24日
ジンチョウゲ科植物Daphne pedunculataから抗HIV活性物質を発見
東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属植物のDaphne pedunculataがヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製を阻害する物質を含むことを初めて発見しました。今後さらなる研究の遂行により、優れた抗HIV活性をもつ新規HIV感染症治療薬の創製に活用できる創薬シーズの発見が期待されます。
この研究成果は、2022年12月14日にアメリカ化学会(ACS)の学術誌「Journal of Natural Products」にて公開されました。また、本成果は掲載号のカバーイラストにも選出されました。
この研究成果は、2022年12月14日にアメリカ化学会(ACS)の学術誌「Journal of Natural Products」にて公開されました。また、本成果は掲載号のカバーイラストにも選出されました。
発表者名
譚 霊剣 (東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程1年)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
張 米 (東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程2年)
菊地 崇 (東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
岡安 美岬(元東邦大学薬学部薬品製造学教室 博士研究員)
東屋 功 (東邦大学薬学部薬品製造学教室 教授)
李 巍 (東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
張 米 (東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程2年)
菊地 崇 (東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
岡安 美岬(元東邦大学薬学部薬品製造学教室 博士研究員)
東屋 功 (東邦大学薬学部薬品製造学教室 教授)
李 巍 (東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
発表のポイント
- ジンチョウゲ科植物のDaphne pedunculataに大環状ダフナン型ジテルペノイドが含まれることを発見し、それらが強い抗HIV活性を有することを明らかにしました。
- Daphne pedunculataに抗HIV活性ジテルペノイドが含まれることを今回初めて報告し、D. pedunculataはジンチョウゲ科植物の中でも珍しくジアステレオマーの関係にある大環状ダフナン型ジテルペノイドを複数含むことを明らかにしました。
- 今後ジンチョウゲ科植物に含まれる抗HIV活性大環状ダフナン型ジテルペノイドのさらなる解明により、新しいHIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
発表概要
ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しており、抗がん、抗HIVなどの優れた生物活性を有するジテルペノイド(注1)が特徴的に含まれています。その中でも、大環状ダフナン型ジテルペノイド(注2)はHIV潜伏感染細胞を駆除する優れた抗HIV活性を有し、既存の抗HIV薬とは異なる新たなHIV感染症治療薬の候補化合物として注目されています。Daphne pedunculataは中国雲南省に限定的に分布するジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木です。高度約400メートルの乾燥した山肌や低木林に生育しており、11月から12月の間に黄色い花を咲かせます。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、D. pedunculataから新規化合物6種を含む計12種の大環状ダフナン型ジテルペノイドを単離精製し、それらの抗HIV活性を明らかにしました。今回得られた研究成果により、ジンチョウゲ科植物に含まれる大環状ダフナン型ジテルペノイドをリード化合物として抗HIV活性との構造活性相関に関する知見が深まることにより、新しいHIV感染症治療薬の創薬シーズの発見につながることが期待されます。
発表内容
ダフナン型ジテルペノイドは5/7/6-炭素縮合四環系構造に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有し、ジンチョウゲ科およびトウダイグサ科植物に特徴的に分布しています。また、抗がん、抗HIV、鎮痛作用など多彩な生物活性を示すことから、天然物創薬において魅力的なターゲットとして注目されています。中でも大環状ダフナン型ジテルペノイドは、ダフナン骨格の1位アルキル基がオルトエステル結合を介して形成した大環状構造を有することを特徴とし、ジンチョウゲ科植物に限定的に分布しています。大環状ダフナン型ジテルペノイドはエイズを引き起こすHIVの複製を阻害するだけでなく、潜伏期HIVを再活性化する二重作用を示すことが報告されています。そのため、大環状ダフナン型ジテルペノイドは現在のHIV感染症治療で問題となっているHIV潜伏感染細胞を駆除する作用が期待されており、既存の抗HIV薬と異なる作用機序を有する新たなHIV感染症治療薬の候補化合物として注目されています。Daphne pedunculataは高さ約1メートルの常緑低木で、中国の雲南省に限定的に分布しています。中国では長梗瑞香(チョウコウズイコウ)と呼ばれ、高度約400メートルの乾燥した山肌や低木林に生育し、11月から12月の間に黄色い花を咲かせます(図1)。これまでの化学成分研究では、フラボノイド、クマリン、リグナンおよびステロールなどの化合物の単離が報告されていますが、ジテルペノイドに関する研究報告はありませんでした。
本研究では中国雲南省にて採取したD. pedunculataの全木を使用し、乾燥した植物材料について95%エタノールを用いて成分を抽出しました。得られたエタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにDiaion HP-20およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、6種の新規化合物(図2, 化合物1−4, 9, 10)を含む計12種の大環状ダフナン型ジテルペノイドを単離しました。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析、改良モッシャー法により化学構造を決定しました。また、既知化合物pimelotide A(化合物11)について初めてX線結晶構造解析データを報告しました。単離した大環状ダフナン型ジテルペノイドには大環状環部分の9′位の立体配置のみが異なるジアステレオマー関係にある化合物が4組含まれており、同一植物よりこのようなジアステレオマー関係にある大環状ダフナン型ジテルペノイドが複数組単離されることは珍しく、ジンチョウゲ科植物Pimelea elongataおよびWikstroemia chamaedaphneに次いで3例目の報告となりました。そこで本研究では、単離された大環状ダフナン型ジテルペノイドの特定の13C-NMRの化学シフトを観察することにより、9′位の相対配置を簡便に決定する方法を提唱しました。
さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、A環に5員環ケトン構造を有する化合物1−7はアセタールおよびラクトンを含む[2.2.1]ビシクロ環構造を有する化合物8−12より強い抗HIV活性を示し、大環状ダフナン型ジテルペノイドのA環構造が抗HIV活性の発現に影響することが示されました。また、化合物1−7のうち化合物3および7が最も強力な抗HIV活性を示したことより、ダフナン骨格の2位および大環状環部分の7’位に水酸基、ダフナン骨格の18位にアシルオキシ基が結合することが抗HIV活性を低下させることを明らかにしました。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
本研究では中国雲南省にて採取したD. pedunculataの全木を使用し、乾燥した植物材料について95%エタノールを用いて成分を抽出しました。得られたエタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにDiaion HP-20およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、6種の新規化合物(図2, 化合物1−4, 9, 10)を含む計12種の大環状ダフナン型ジテルペノイドを単離しました。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析、改良モッシャー法により化学構造を決定しました。また、既知化合物pimelotide A(化合物11)について初めてX線結晶構造解析データを報告しました。単離した大環状ダフナン型ジテルペノイドには大環状環部分の9′位の立体配置のみが異なるジアステレオマー関係にある化合物が4組含まれており、同一植物よりこのようなジアステレオマー関係にある大環状ダフナン型ジテルペノイドが複数組単離されることは珍しく、ジンチョウゲ科植物Pimelea elongataおよびWikstroemia chamaedaphneに次いで3例目の報告となりました。そこで本研究では、単離された大環状ダフナン型ジテルペノイドの特定の13C-NMRの化学シフトを観察することにより、9′位の相対配置を簡便に決定する方法を提唱しました。
さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、A環に5員環ケトン構造を有する化合物1−7はアセタールおよびラクトンを含む[2.2.1]ビシクロ環構造を有する化合物8−12より強い抗HIV活性を示し、大環状ダフナン型ジテルペノイドのA環構造が抗HIV活性の発現に影響することが示されました。また、化合物1−7のうち化合物3および7が最も強力な抗HIV活性を示したことより、ダフナン骨格の2位および大環状環部分の7’位に水酸基、ダフナン骨格の18位にアシルオキシ基が結合することが抗HIV活性を低下させることを明らかにしました。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
発表雑誌
-
雑誌名
「Journal of Natural Products」(2022年12月14日)
論文タイトル
Daphnepedunins A–F, Anti-HIV Macrocyclic Daphnane Orthoester Diterpenoids from Daphne pedunculata
著者
Lingjian Tan, Kouharu Otsuki, Mi Zhang, Takashi Kikuchi, Misaki Okayasu, Isao Azumaya, Di Zhou, Ning Li, Li Huang, Chin-Ho Chen, Wei Li*
DOI番号
10.1021/acs.jnatprod.2c00894
論文URL
https://doi.org/10.1021/acs.jnatprod.2c00894
用語解説
(注1)ジテルペノイド
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
(注2)大環状ダフナン型ジテルペノイド
ジテルペノイドのうち、5/7/6員環構造にイソプロペニル基を特徴として持つ化合物はダフナン型ジテルペノイドと称される。さらにダフナン型ジテルペノイドのうち、オルトエステル結合を介して脂肪族鎖がダフナン骨格の5員環部分と結合した大環状構造を有する化合物群を大環状ダフナン型ジテルペノイド(macrocyclic daphnane orthoester)と呼ぶ。
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
(注2)大環状ダフナン型ジテルペノイド
ジテルペノイドのうち、5/7/6員環構造にイソプロペニル基を特徴として持つ化合物はダフナン型ジテルペノイドと称される。さらにダフナン型ジテルペノイドのうち、オルトエステル結合を介して脂肪族鎖がダフナン骨格の5員環部分と結合した大環状構造を有する化合物群を大環状ダフナン型ジテルペノイド(macrocyclic daphnane orthoester)と呼ぶ。
添付資料
図1. Journal of Natural Products誌に掲載されたカバーイラスト
(今回の研究で使用した植物および単離した新規化合物の構造式)
図2. Daphne pedunculataより単離した大環状ダフナン型ジテルペノイド
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李巍
〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail:liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL:www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/
【本ニュースリリースの発信元】
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