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プレスリリース 発行No.1255 令和4年11月28日

D-アミノ酸酸化酵素の活性を蛍光で直接評価できるツールを創出

 東邦大学薬学部薬品分析学教室の福島 健教授と同薬学部生化学教室の髙橋 良哉教授らの研究グループは、D-アミノ酸酸化酵素 (DAO) の活性を蛍光(注1)によって、直接的に検出可能な新規化合物MeS-D-KYNを創出しました。MeS-D-KYNを活用することで、生きた細胞内にあるDAOの活性の蛍光イメージング研究への可能性を示しました。今後さらなる研究の遂行により、DAOが関与する疾患の病態解析等への応用が期待されます。この研究成果は、2022年10月12日にアメリカ化学会(ACS)の学術誌「Analytical Chemistry」にて公開されました。

発表者名

坂本 達弥  (東邦大学薬学部薬品分析学教室 助教)
大寺 恵子  (東邦大学薬学部生化学教室 助教)
小野里 磨優 (東邦大学薬学部薬品分析学教室 講師)
髙橋 良哉  (東邦大学薬学部生化学教室 教授)
藤巻 康人  (東京都立産業技術研究センター城南支所 主任研究員)
福島 健   (東邦大学薬学部薬品分析学教室 教授)

発表のポイント

  • DAO活性を蛍光により直接的に検出できる新規化合物として、光学活性体であるMeS-D-KYNを設計・合成しました。DAOとMeS-D-KYNを37℃で加温すると青色の蛍光を生じました。
  • MeS-D-KYNは、L-アミノ酸酸化酵素と加温しても、ほとんど蛍光を生じませんでした。
  • 従来のDAO活性測定法では困難であった、生きた細胞内にあるDAO活性の蛍光イメージング研究への可能性を示しました。

発表概要

 内因性のD-アミノ酸の1つであるD-セリンは、統合失調症、脳血管障害、筋萎縮性側索硬化症などの疾患への関与が示唆されています。内因性D-セリンを代謝する酵素はD-アミノ酸酸化酵素 (DAO)で、DAOの活性評価は生体内D-セリン濃度を考える上で重要な指標となります。
 今回、研究グループは、DAOの活性を直接的に蛍光で検出可能な新規化合物MeS-D-KYNを創出しました。本研究の成果であるMeS-D-KYNの創出により、DAOの関与が示唆される難治性疾患の病態解明に関する研究が加速することが期待されます。

発表内容

 アミノ酸は、脂質、糖質と並ぶ三大栄養素の1つとして、生体を形作る細胞骨格や、生体内の各種反応を司る酵素などに代表されるタンパク質を構成する成分であり、生命の維持には不可欠です。アミノ酸にはL体とD体の鏡像異性体(注2)が存在しますが、ヒトの体内に存在するアミノ酸はL体(L-アミノ酸)であり、D体(D-アミノ酸)は細菌やある種の甲殻類、軟体動物に存在し、哺乳類には存在しないと考えられてきました。
 しかし、幾つかのD-アミノ酸がヒトの体内に存在し、生理機能を担っていて、また、疾患との関連性も次第に明らかになってきました。哺乳類に内在する代表的なD-アミノ酸として、D-セリンは記憶、学習といった脳の高次機能に関わる神経伝達に関与していることが報告されています。D-アミノ酸の代謝分解を担っている酵素がDAOであり、その活性上昇が、脳内のD-セリン濃度減少の原因となることで、統合失調症の発症に関わる説もあります。従来からのDAO活性測定法は、DAOでD-アミノ酸を酸化し、その副生成物の過酸化水素を使って測定する間接的な方法であるため、生きた細胞でのDAO活性の観察が困難でした。
 そこで、研究グループは、D-キヌレニンと呼ばれるD-アミノ酸の1種が、DAOにより微弱な蛍光を発するキヌレン酸に変換される反応に着目し、その反応に基づいた新たなDAO活性の蛍光検出ツールの創出に取り組みました。
 はじめに、キヌレン酸の類縁体を複数合成し、その中からより強い蛍光を発するキヌレン酸類縁体を探索する実験を行いました。その結果、キヌレン酸よりも約200倍強い青色蛍光(極大励起波長364 nm、極大蛍光波長450 nm)を発するMeS-キヌレン酸を見出しました。続いて、DAOによってMeS-キヌレン酸へ変換される光学活性の新規化合物MeS-D-KYNを合成しました。無蛍光のMeS-D-KYNを、試験管内で市販のDAOと加温すると、MeS-キヌレン酸に変換されることが確認され(図1、2)、生成したMeS-キヌレン酸に由来する蛍光の強度は、添加したDAOのユニット数に比例しました。
 また、MeS-D-KYNは光学活性体であり、L-アミノ酸酸化酵素と加温しても、ほとんど蛍光を発しませんでした。
 次に、培養細胞が発現するDAOの活性を評価する蛍光イメージング実験に、MeS-D-KYNが適用できるかどうかについて、研究グループで検討しました。DAOが発現する状態に培養した細胞(LLC-PK1細胞)の培地にMeS-D-KYNを加え37℃で1時間静置後、蛍光顕微鏡で観察をしたところ、図3(中央)のように細胞内に青い蛍光が観察されました。また、細胞内小器官ペルオキシソームを緑色蛍光で染色したところ、その染色位置が青色蛍光とほぼ一致していることで(図3右)、これまで報告されているようにDAOが細胞内小器官ペルオキシソームに存在することが示されました。さらに、DAO選択的阻害剤(注3)を添加した条件では、青い蛍光が消失したことから、MeS-D-KYNにはDAO活性の蛍光イメージング試薬としての可能性も示されました。
 以上の結果より、本研究では新規化合物MeS-D-KYNを創出し、DAO活性の直接的な蛍光検出法を示しました。今後、MeS-D-KYNの化学構造に基づいた、より有用性が高いツールが創出されることで、生体内DAOが関与する様々な生理機能ならびに疾患の機序解明を目指す研究が進展することが期待されます。
 なお、MeS-D-KYN及びその光学異性体であるMeS-L-KYNは、「化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法」(発明者 坂本達弥、福島 健、小野里磨優、藤巻康人、特願2021-127657)として出願中です。

発表雑誌

    雑誌名
    「Analytical Chemistry」(2022年10月12日)

    論文タイトル
    Direct Fluorescence Evaluation of D-Amino Acid Oxidase Activity Using a Synthetic D-Kynurenine Derivative

    著者
    Tatsuya Sakamoto#, Keiko Odera#, Mayu Onozato, Hiroshi Sugasawa, Ryoya Takahashi, Yasuto Fujimaki, Takeshi Fukushima
    #These two authors contributed equally to this work.

    DOI番号
    10.1021/acs.analchem.2c00775

    アブストラクトURL
    https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.2c00775

用語解説

(注1)蛍光
ある種の物質が、光のエネルギーによって発する光。
身近な蛍光の例として、ブラックライト(紫外線)を照射すると発光する蛍光塗料があります。

(注2)鏡像異性体
立体構造が互いに鏡に写った関係にある異性体。

(注3)DAO選択的阻害剤
DAOの活性を選択的に阻害する試薬。本研究では、6-chloro-1,2-benzisoxazol-3(2H)-one (CBIO)を使用しました。

添付資料

図1. MeS-D-KYNを用いたDAO活性を蛍光で検出する原理
(蛍光を発しないMeS-D-KYNが、DAOにより青色蛍光を発するMeS-キヌレン酸に速やかに変換します。)

図2. 254 nm紫外線ライト照射下のMeS-D-KYNとMeS-キヌレン酸
(254 nm紫外線ライト照射で、右のMeS-キヌレン酸が青色蛍光を発します。)

図3. MeS-D-KYNを用いた培養細胞が発現するDAO活性の蛍光イメージング画像
(左)位相差顕微鏡像、(中央)MeS-キヌレン酸(青)を検出した蛍光顕微鏡像、(右)MeS-キヌレン酸(青)を検出した蛍光顕微鏡像とペルオキシソーム染色マーカー(緑)を検出した蛍光顕微鏡像の重ね合わせ画像。(細胞の核をNで示しています。)

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部 薬品分析学教室
教授 福島 健

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1504
FAX: 047-472-1504
E-mail: t-fukushima[@]phar.toho-u.ac.jp
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/phar/Analchem/index.html

【本ニュースリリースの発信元】
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