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プレスリリース 発行No.1254 令和4年11月24日

移住先にルーツを持つ若年在留外国人のメンタルヘルスと
民族アイデンティティの特徴が明らかに

 東邦大学医学部精神神経医学講座の根本隆洋教授らの研究グループは、令和4年度厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける若年者等に対する早期相談・支援サービスの導入及び検証のための研究」(通称MEICIS、研究課題番号:22GC1001)において、在留日系ブラジル人高校生のメンタルヘルスと民族アイデンティティの関係を調査し明らかにしました。
 本成果は2022年11月7日に、国際学術誌Journal of Personalized Medicineに掲載されました。

発表者名

福井 英理子(東邦大学医学部精神神経医学講座/医療法人正永会港北病院 医員)
内野 敬  (東邦大学医学部精神神経医学講座/医療法人財団厚生協会東京足立病院 医員)
小野坂 益成(松蔭大学看護学部 講師)
川下 貴士 (松蔭大学看護学部 助教)
岩井 桃子 (東邦大学医学部精神神経医学講座 公認心理師)
田久保 陽司(東邦大学医学部精神神経医学講座/済生会横浜市東部病院 医員)
丸山 昭子 (松蔭大学看護学部 教授)
三浦 左千夫(NPO法人MAIKEN 理事長)
関﨑 亮  (学校法人桐丘学園 理事長)
水野 雅文 (東京都立松沢病院 院長)
片桐 直之 (東邦大学医学部精神神経医学講座 准教授)
辻野 尚久 (済生会横浜市東部病院精神科 部長)
根本 隆洋 (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)

発表のポイント

  • 日本人を祖先に持つ日系ブラジル人は、移住先である日本にルーツを持ち、特に若者においては民族アイデンティティの葛藤が、メンタルヘルスに影響を与えている可能性があります。
  • 調査の結果、日系ブラジル人高校生は同じ地域に住む日本人高校生と比較して、精神的健康度指標が低く、民族アイデンティティがその程度に影響を及ぼしていることが示されました。また、悩みを抱えた際に、特に家族や友人など身近な人に対して、援助希求が躊躇される様子がうかがわれました。
  • 祖先の母国に移住することで民族アイデンティティの葛藤が生じて帰属意識を持ちにくく、どちらの文化にも適応・受容できないことがメンタルヘルスに負の影響を与えていると考えられました。
  • 在留外国人も援助希求しやすい環境を整備すること、また、思春期・青年期におけるアイデンティティの形成をサポートすることが、メンタルヘルス不調の予防に欠かせません。

発表内容

 世界的に移民は増加傾向を認める一方で、国際移住は様々なストレスを生じやすく、精神疾患のリスクともなりえることが明らかにされてきました。移住者の子や孫も同様に、言語習得の遅れや孤立などによりストレスを生じやすく、世代を超えた問題でもあります。日本に在留する外国人のうち、祖先が日本人である移民を日系人と呼びますが、彼らは自身のルーツでもある異文化に触れることで、民族アイデンティティの葛藤を生じえます。これがメンタルヘルスに負の影響を与え、より手厚いサポートを要する可能性が想定されます。これまで明らかにされていなかった、若年日系ブラジル人のメンタルヘルスの特徴を、民族アイデンティティに焦点を当てながら検討しました(東邦大学医学部倫理委員会承認 研究課題番号A21004)。
 25名の日系ブラジル人高校生と、同地域に住む62名の日本人高校生を対象に、精神的健康度、民族アイデンティティ、援助希求行動について、それらの評価尺度であるWHO-5J(注1)、K6(注2)、MEIM(注3)、GHSQ(注4)を用いて測定しました。日系ブラジル人高校生に対しては、専門家によりポルトガル語に翻訳された質問紙票を用いました。
 調査の結果、日系ブラジル人高校生は日本人高校生と比較して、有意に精神的健康度指標と民族アイデンティティ指標が低いことが分かりました(図1)。さらに、日系ブラジル人高校生の中で、民族アイデンティティの低い人は高い人と比べて精神的健康度が低い結果となりました(図2)。また、日系ブラジル人も日本人も援助希求行動を起こしにくく(GHSQ-total)、日系ブラジル人高校生は特に家族や友人など身近な関係の人たちに、援助希求しにくいことがわかりました(GHSQ-informal resources)。
 日系ブラジル人において、民族アイデンティティがメンタルヘルスに影響を与えていることが示唆されました。日本とブラジルのどちらにも帰属意識を持ちにくいことで、アイデンティティの形成が妨げられていることが考えられました。思春期・青年期におけるアイデンティティの形成を見守り支え、メンタルヘルス不調につなげないことが必要であるといえます。若年在留外国人が援助希求しやすい相談・支援サービスを包含した地域包括ケアシステムの構築が求められます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Personalized Medicine」(2022年11月7日)

    論文タイトル
    The Mental Health of Young Return Migrants with Ancestral Roots in Their Destination Country: A Cross-Sectional Study Focusing on the Ethnic Identities of Japanese–Brazilian High School Students Living in Japan

    著者
    Eriko Fukui, Takashi Uchino, Masunari Onozaka, Takashi Kawashimo, Momoko Iwai, Youji Takubo, Akiko Maruyama, Sachio Miura, Ryo Sekizaki, Masafumi Mizuno, Naoyuki Katagiri, Naohisa Tsujino, Takahiro Nemoto* (*責任著者)

    DOI番号
    10.3390/jpm12111858

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.3390/jpm12111858

用語解説

(注1)WHO-5J
The WHO-Five Well-being Index。6件法5項目からなる尺度で、直近2週間の精神的健康度を測定する。合計スコアが高いほど精神的に健康であり、13点未満は精神的健康状態不良である。

(注2)K6
The Kessler 6 scale。5件法6項目からなる尺度で、直近2週間の精神的健康度を測定する。合計スコアが低いほど精神的に健康であり、5点以上は心理的ストレス反応ありと評価される。

(注3)MEIM
The Multigroup Ethnic Identity Measure。異文化適応・帰属意識を測定する。原版は4件法14項目からなるが、今回の調査では2件法に簡略化したものを使用した。合計スコアが高いほど、所属する民族集団への帰属意識が強い。

(注4)GHSQ
The General Help-Seeking Questionnaire。7件法10項目からなる尺度で、気持ちの問題が生じたときに、援助者の種類ごとに助けを求める可能性を測定する。両親、友達などの私的な関係(informal resources)と、医師、カウンセラーなどの公的な関係(formal resources)の2つの下位尺度から構成される。合計スコアが高いほど、援助希求行動をしやすい。

添付資料

図1.日本人高校生(Japanese group)と日系ブラジル人高校生(Japanese-Brazilian group)との精神的健康度、民族アイデンティティ、援助希球行動の比較

図2.日系ブラジル人の背景と、日本人高校生と比較した精神的健康度、民族アイデンティティと精神的健康度の関連

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 根本隆洋

〒143-8540 大田区大森西 5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
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