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プレスリリース 発行No.1252 令和4年11月18日

外来種の寄生虫、利根川水系の一部で在来魚に感染
~ 特定外来生物カワヒバリガイから在来魚に感染する生活史を明らかに ~

 東邦大学、地域・人間環境フォーラム、日本大学、旭川医科大学、滋賀県立大学らの研究グループは、外来種の寄生虫である尾崎腹口吸虫Prosorhynchoides ozakiiが、利根川水系で在来魚などに感染していたことを明らかにしました。感染源は特定外来生物カワヒバリガイで、タイリクバラタナゴやチャネルキャットフィッシュ(特定外来生物)などの外来魚もこの吸虫の生活史に寄与していることが分かりました。

 本研究は、「Diseases of Aquatic Organisms」のオンライン版に2022年11月17日に掲載されました。

発表者名

林 蒔人(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程1年)
佐野 慶彦(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2020年度卒)
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)
萩原 富司(地域・人間環境フォーラム つくば事務所長)
石川 孝典(日本大学 客員研究員)
佐々木 瑞希(旭川医科大学 助教)
中尾 稔(研究当時:旭川医科大学 准教授)
浦部 美佐子(滋賀県立大学 教授)

発表のポイント

  • 尾崎腹口吸虫 Prosorhynchoides ozakii は大陸由来の外来種の寄生虫で、ヒトへの寄生報告は全くありません。本種は、特定外来生物カワヒバリガイとともに淀川水系に侵入したことがすでに知られていましたが、他の水系への侵入状況は分かっていませんでした。今回、研究グループは、淀川水系から離れた利根川水系にもこの寄生虫が侵入していることを明らかにしました。
  • 利根川水系では、この寄生虫はカワヒバリガイを感染源とし、ウグイなどの在来魚や、国外・国内由来の外来種の淡水魚に感染することが分かりました(図1)。感染魚の鰭やその基部が主な寄生部位で、重篤感染した魚の寄生部位には出血症状も見られました。これらの感染魚がチャネルキャットフィッシュ(特定外来生物)やナマズに食べられると、その宿主の腸で本吸虫が成虫となります。成虫が産んだ卵がナマズ類の糞とともに水中に出て、再びカワヒバリガイに感染します。
  • このように、外来種の寄生虫である尾崎腹口吸虫が、利根川水系の多くの外来種を宿主として利用していたことが分かりました。この中で、在来魚にもこの寄生虫感染が広がり、病害性を示し続けていたのです。
  • 淀川水系と利根川水系は陸で隔てられているため、利根川水系への本吸虫の侵入は人為的なものと考えられましたが、具体的な移入経路は不明のままです。

発表概要

 尾崎腹口吸虫は大陸由来の外来種の寄生虫で、ヒトへの寄生報告はありません。本種は、日本では淀川水系に特定外来生物カワヒバリガイとともに侵入したことが知られています。研究グループは、霞ヶ浦をはじめとした利根川水系でもこの寄生虫が侵入していることを明らかにしました。

 研究グループは、チャネルキャットフィッシュIctalurus punctatusとナマズSilurus asotusの腸管から偶然この寄生虫の成虫を見つけ、形態に基づき尾崎腹口吸虫と種同定しました(図2)。この吸虫は、既に淀川水系でカワヒバリガイと淡水魚を行き来して生活・定着していることが知られています。このため、カワヒバリガイが侵入している利根川水系でもこの吸虫が定着している可能性がありました。そこで、利根川水系での生活史を明らかにするため、2019年から2021年にかけて、霞ヶ浦などの本水系22地点でカワヒバリガイと淡水魚を採集して吸虫の幼虫を探し、得られた場合には成虫とDNAを比較して幼虫の種同定を行いました(DNAバーコード:核28S rDNAおよびミトコンドリアDNAのcox1の部分配列)。
 調査の結果、10地点から合計1719個のカワヒバリガイが採集され、それらのうち8地点からスポロシスト幼虫(吸虫の幼虫のステージ)に感染した貝が得られました(図3)。スポロシスト幼虫からは、セルカリア幼虫という魚に寄生可能なステージが遊出していました。淡水魚では、15地点から24種700個体を採集したところ、10地点の12魚種の鰭やその基部、肝臓などから尾崎腹口吸虫のメタセルカリア幼虫が検出されました(図4)。メタセルカリア幼虫は、コイ科やハゼ科魚種に特に高率に感染しており、重篤感染部位には出血症状も見られました。

 こうして、本吸虫の利根川水系での生活史が分かりました(図1)。まず、スポロシスト幼虫がカワヒバリガイに寄生します。スポロシスト幼虫は、セルカリア幼虫という感染ステージを水中に放出します。水中のセルカリア幼虫は、ウグイをはじめとした在来魚や、タイリクバラタナゴなどの外来魚に感染し、魚の体内でメタセルカリア幼虫に発達します。この感染魚がチャネルキャットフィッシュやナマズに食べられることで、この虫は宿主の腸で成虫になります。成虫は産卵し、卵が糞と共に水中へ放出され、再びカワヒバリガイに感染します。

 この生活史は、利根川水系の多くの外来種によって成り立っています。成虫の主な宿主は、北米原産の特定外来生物チャネルキャットフィッシュです。スポロシストの宿主は、東アジア~東南アジア原産の特定外来生物カワヒバリガイです。メタセルカリア幼虫は、タイリクバラタナゴなどの国外由来の外来種や、コイ科のハスなどの国内由来の外来種に感染します。寄生虫も大陸由来です。このような外来種による外来種の生活史が成立しているなかで、淡水在来魚がメタセルカリア幼虫に重篤感染している様子が観察されました。一般に、外来種の寄生虫は在来種への病害性が高い傾向にあり、在来魚への病害性が高いことが心配されます。
 淀川水系と利根川水系は陸で隔てられているため、利根川水系への寄生虫の侵入は、魚や貝の自然移動によるものではなく、人為的なものと考えられます。研究グループは、輸入シジミ種苗とともに感染カワヒバリガイが海外から利根川水系に直接持ち込まれたか、淀川水系から感染魚が利根川に持ち込まれた可能性があるとみています。また、本吸虫は外来種であるにも関わらず、利根川水系では遺伝子の多様性が比較的高かったことから、この吸虫が繰り返し持ち込まれてきたものと考えられました。
 
 カワヒバリガイは日本の河川に広く侵入・定着しています。メタセルカリア幼虫の宿主となり得るコイ科・ハゼ科の小型魚や、成虫の宿主となり得るナマズ類も全国的に分布しています。このため、この吸虫が付いた貝や魚を他の未感染水系に移動・放流してしまうと、その水域で本吸虫の生活史が新たに成立し、定着してしまう可能性が高いと考えられます。今のところ、淀川水系や利根川水系の一部の地域以外ではこの寄生虫が報告されていませんが、感染を広げないためにも、宿主を国内の別の場所に放流したり、海外の生物を国内に放流したりすることは避けるべきなのです。

発表雑誌

    雑誌名
    「Diseases of Aquatic Organisms」(オンライン版:2022年11月17日)

    論文タイトル
    Invasion of the fish parasite Prosorhynchoides ozakii (Trematoda:Bucephalidae) into Lake Kasumigaura and the surrounding rivers of eastern Japan

    著者
    Makito Hayashi, Yoshihiko Sano, Takanori Ishikawa, Tomiji Hagiwara, Mizuki Sasaki, Minoru Nakao, Misako Urabe, Tsukasa Waki

    DOI番号
    https://doi.org/10.3354/dao03698

    アブストラクトURL
    https://www.int-res.com/prepress/d03698.html

添付資料

図1.利根川水系における尾崎腹口吸虫の生活史
イラスト:林蒔人・脇司。イラストモデル協力:関根百悠。

図2.チャネルキャットフィッシュから得られた尾崎腹口吸虫の成虫
撮影:林蒔人。
図3.カワヒバリガイとスポロシスト幼虫
A:カワヒバリガイ。B:カワヒバリガイから取り出したスポロシスト幼虫。C:未感染カワヒバリガイの軟体部。D:感染カワヒバリガイ。黄色いスポロシストが観察できる。
撮影:林蒔人・脇司。
図4. 感染したモツゴの尾鰭
赤丸内部の白い点の集合は、多数感染したメタセルカリア幼虫を示す。
撮影:林蒔人。

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
准教授 脇 司

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1653 
E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/index.html

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