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プレスリリース 発行No.1244 令和4年10月21日

ジンチョウゲ科植物ミツマタから抗HIV活性物質を発見

 東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、ジンチョウゲ科ミツマタ属植物のミツマタ(三椏:Edgeworthia chrysantha)がヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製を阻害する物質を含むことを初めて発見しました。今後さらなる研究の遂行により、優れた抗HIV活性をもつ新規HIV感染症治療薬の創製に活用できる創薬シーズの発見が期待されます。この研究成果は、2022年9月28日にアメリカ化学会(ACS)の学術誌「Journal of Natural Products」にて公開されました。また、本成果はACSの64以上の査読付きジャーナルに掲載された論文の中から、世界的に著名な編集者が1日につき1つの優れた論文を選出する「ACS Editors' Choice」に選ばれました(図1)。

発表者名

浅田 善久(元東邦大学薬学部訪問研究員)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
師岡 美喜(東邦大学薬学部卒業生)
小池 一男(東邦大学 名誉教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)

発表のポイント

  • ジンチョウゲ科植物のミツマタに大環状ダフナン型ジテルペノイドが含まれることを発見し、それらが強い抗HIV活性を有することを明らかにしました。
  • ミツマタに含まれる抗HIV活性ジテルペノイドは、これまでにない珍しい大環状構造を有するジテルペノイドであることを明らかにしました。
  • 今後ジンチョウゲ科植物に含まれる抗HIV活性ジテルペノイドの更なる解明により、新しいHIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。

発表概要

 ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しています。この科の植物には抗がん、抗HIVなどの優れた生物活性を有するジテルペノイドが特徴的に含まれています。その中でも、大環状ダフナン型ジテルペノイド(注1)はHIV潜伏感染細胞を駆除する優れた抗HIV活性を有し、既存の抗HIV薬とは異なる新たなHIV感染症治療薬の候補化合物として注目されています。ミツマタ(Edgeworthia chrysantha)はジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木で、樹皮に強い繊維を持つことから日本では古くより和紙や紙幣用紙の原料として用いられてきました。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、ミツマタからこれまでにない特徴的な大環状構造を有する5種の大環状ダフナン型ジテルペノイドを単離精製し、それらの抗HIV活性を明らかにしました。今回得られた研究成果により、ジンチョウゲ科植物に含まれる大環状ダフナン型ジテルペノイドと抗HIV活性の構造活性相関に関する知見が深まり、新しいHIV感染症治療薬の創薬シーズの発見につながることが期待されます。

発表内容

 ジンチョウゲ科植物に限定的に含まれている大環状ダフナン型ジテルペノイドは、5/7/6員環構造を持つダフナン骨格の1位アルキル基がオルトエステル(注2)結合を介して形成した大環状構造を有することを特徴とします。大環状ダフナン型ジテルペノイドは多環式およびマクロ環に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有することから、天然物化学における構造研究の魅力的なターゲットとして注目されています。さらに、大環状ダフナン型ジテルペノイドはエイズを引き起こすHIVの複製を阻害するだけでなく、潜伏期HIVを再活性化する二重作用を示すことが報告されています。そのため、大環状ダフナン型ジテルペノイドは現在のHIV感染症治療で問題となっているHIV潜伏感染細胞を駆除する作用が期待されており、既存の抗HIV薬と異なる作用機序を有する新たなHIV感染症治療薬の候補化合物として注目されています。
 ミツマタ(Edgeworthia chrysantha)は、ジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木で、主に中国の四川省、河南省、河北省、広西省、広東省などに分布し、日本にも自生しています。樹皮に強い繊維を持つことから、日本では古くより和紙や紙幣用紙の原料として用いられており、兵庫県、徳島県、岡山県、京都府を中心に栽培されています。中国伝統医学においては蕾および根が薬用され、角膜白斑などの眼病の治療に用いられています。これまでの化学成分研究においては、クマリン、フラボノイド、ステロイドおよびジテルペノイドの単離が報告されていますが、本植物に含まれる抗HIV活性ジテルペノイドに着目した研究は初めてのものとなります。
 本研究では中国河南省にて採取したミツマタの花蕾を使用し、乾燥した花蕾についてメタノールを用いて成分を抽出しました。得られたメタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにオクタデシルシリル(ODS)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、 5種の大環状ダフナン型ジテルペノイドを単離しました(図2)。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析により化学構造を決定しました。これらの化合物は、炭素数14の不飽和脂肪族鎖で構成された珍しい大環状構造を有する新しいタイプの大環状ダフナン型ジテルペノイドでした。さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、3種の化合物が強い抗HIV活性を示しました。これまでジンチョウゲ科植物より単離された大環状ダフナン型ジテルペノイドはほとんどが炭素数10の脂肪族鎖が大環状構造を形成しており、化学構造の多様性が乏しいため、再環状環部分と抗HIV活性に関する構造活性相関についてはあまり議論することができませんでした。今回ミツマタより単離した化合物の抗HIV活性評価の結果から、抗HIV活性の発現において大環状環部分の構造変化は許容されることが示唆され、これまで明らかにできなかった大環状環部分の構造活性相関について新たな知見を得ることができました。
 HIV感染症は発見から30年以上経った今でも依然として世界における公衆衛生上の大きな問題となっています。既存の抗HIV薬による多剤併用療法(ART)では潜伏期のHIVを体内から完全に駆除出来ないため、生涯にわたって抗ウイルス薬の継続服用が必要となります。そのため、 HIV感染症の根治を目指した新規抗HIV薬の創製は急務とされています。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Journal of Natural Products」(2022年9月28日)

論文タイトル
Anti-HIV Macrocyclic Daphnane Orthoesters with an Unusual Macrocyclic Ring from Edgeworthia chrysantha

著者
Yoshihisa Asada, Kouharu Otsuki, Miki Morooka, Li Huang, Chin-Ho Chen, Kazuo Koike, Wei Li*

DOI番号
10.1021/acs.jnatprod.2c00618

アブストラクトURL
https://doi.org/10.1021/acs.jnatprod.2c00618

用語解説

(注1)大環状ダフナン型ジテルペノイド
ジテルペノイドは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペノイドのうち、5/7/6員環構造にイソプロペニル基を特徴として持つ化合物はダフナン型ジテルペノイドと称される。さらにダフナン型ジテルペノイドのうち、オルトエステル結合を介して脂肪族鎖がダフナン骨格の5員環部分と結合した大環状構造を有する化合物群を大環状ダフナン型ジテルペノイド(macrocyclic daphnane orthoester)と呼ぶ。

(注2)オルトエステル(orthoester)
同じ炭素の上に3個のアルコキシ基(酸素原子が結合したアルキル基; RO-)が結合している化合物のこと。

添付資料

図1.本研究成果が掲載されたACS Editors' Choiceのウェブサイト (クリックするとサイトへ移動します)

図2. ミツマタより単離した大環状ダフナン型ジテルペノイド

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李巍

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161
FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/

【本ニュースリリースの発信元】
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