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プレスリリース 発行No.1220 令和4年7月7日

DHAがシュワン細胞の酸化ストレス誘導細胞死を抑制することを発見
~DHAのオートファジー制御による糖尿病性神経障害の新たな予防効果の可能性を示唆 ~

 東邦大学薬学部の巽康彰准教授(元:愛知学院大学薬学部准教授)と愛知学院大学薬学部の加藤宏一教授らの研究グループは、ドコサヘキサエン酸(DHA)が、ラットシュワン細胞(注1)において酸化ストレスにより誘導されるオートファジー(注2)を制御することで細胞死を軽減することを明らかにしました。今後さらなる研究の遂行により、糖尿病性神経障害の発症・進展に対するDHAの新たな予防効果が期待されます。この成果は2022年4月15日に雑誌「International Journal of Molecular Sciences」にて公開されました。

発表者名

巽 康彰 (東邦大学薬学部病態生化学研究室 准教授)
桧貝 孝慈(東邦大学薬学部病態生化学研究室 教授)
加藤 宏一(愛知学院大学薬学部薬物治療学講座 教授)

発表のポイント

  • 研究グループは、DHAが抗酸化酵素を誘導し、シュワン細胞を酸化ストレスから保護することを以前報告していますが、酸化ストレスと密接に関係しているオートファジーに対するDHAの作用については明らかになっていませんでした。
  • 本研究では、DHAを前投与することにより酸化ストレスによって誘導されるオートファジーを抑制し、細胞死を軽減するメカニズムの一端を明らかにしました。
  • 本研究の結果は、DHAがこれまで報告されている抗酸化酵素の誘導に加え、オートファジーを制御することで、糖尿病性神経障害の発症・進展に対するDHAによる予防効果の可能性が期待されます。

発表概要

 東邦大学薬学部の巽康彰准教授と愛知学院大学薬学部の加藤宏一教授らの研究グループは、ドコサヘキサエン酸(DHA)が抗酸化酵素を誘導し、酸化ストレス誘導細胞死からシュワン細胞を保護することを以前報告しましたが、糖尿病性神経障害の主要な原因の一つである酸化ストレスと密接に関係していると考えられているオートファジーと酸化ストレス誘導細胞死の関係については、明らかになっていませんでした。そこで本研究では、ラット不死化シュワン細胞株を用い、酸化ストレス誘導細胞死に対するDHAとオートファジーの関係について検討を行いました。その結果、DHAを前投与することにより酸化ストレス誘導細胞死を抑制し、そのメカニズムとして、酸化ストレスにより誘導されたオートファジーシグナルを抑制することを明らかにしました。これらの知見は、DHAがこれまでに報告した抗酸化酵素の誘導に加え、酸化ストレスにより誘導されたオートファジーを制御することでシュワン細胞の細胞死を抑制する可能性が示唆しています。

発表内容

 研究グループは、糖尿病性神経障害におけるオートファジーと酸化ストレスによる細胞死との関係を明らかにする目的でラット不死化フィッシャーラットシュワン細胞1(IFRS1)を用い、酸化ストレス誘導細胞死に対するDHAとオートファジーの関係について検討を行いました。酸化ストレス誘導剤であるtert-butyl hydroperoxide (tBHP)を3時間処理することにより、IFRS1細胞の細胞生存率はtBHPの濃度依存的に低下しました。10μMのDHAを12時間前処置行うことにより、tBHPにより低下する細胞生存率が有意に抑制され細胞が保護されました。この時の細胞形態は50μMのtBHPで3時間処置をすると細胞が縮小し細胞数も減少しました。しかしながら、10μMのDHAを12時間前処置することにより、tBHPによる細胞障害から保護されました。さらにDHAが活性酸素の産生を抑制するかどうかについて検討したところ、50μMのtBHPで30分処置することで細胞内の活性酸素が誘導され、10μMのDHAを12時間前処置行うことにより、tBHPにより誘導された活性酸素の産生を有意に抑制しました。続いてtBHP誘導細胞死におけるオートファジーシグナルを解析するために、オートファジーマーカーであるmicrotubule-associated protein 1 light chain 3 (LC3)-IIとLC3-Iタンパク質比(LC3-II/LC3-Iタンパク質比)とp62タンパク質の発現をウエスタンブロッティング法(注3)により評価しました。tBHPは濃度依存的にLC3-II/LC3-Iタンパク質比を増加させ、p62タンパク質は減少しました。さらにオートファゴソーム(注4)分解を阻害するクロロキン存在下でtBHPを処置することにより50μMのtBHPでLC3-II/LC3-Iタンパク質比が有意に増加しました。これらの結果は、50μMのtBHPによって誘導される酸化ストレスが、オートファジー開始の最初のステップであるオートファゴソーム形成を促進していることを示唆するものでした。またDHAがtBHPによって誘導されるオートファジーシグナルをどのように変化させるのかについてさらに検討を行いました。50μMのtBHPによりLC3-II/LC3-Iタンパク質比、AMP-activated protein kinase(AMPK)のThr172のリン酸化とUNC51-like kinase(ULK1)のSer317のリン酸化は増加し、p62のタンパク質発現は減少しました。この変化は、10μMのDHAを12時間前処置行うことにより、有意に抑制されました。この結果より、DHAの前処置はtBHP誘導によるオートファジーシグナルを抑制することが示唆されました。また、DHAがオートファゴソームとオートリソソーム(注5)に関与するかについて形態学的に検討した結果、50μMのtBHPにより誘導されたオートファゴソームは、10 μMのDHAを12時間前処置行うことによりコントロールレベルまで抑制されました。しかし、オートリソソームはDHAの前処置によっても部分的にしか抑制されませんでした。今回の結果は、DHAの前処置が糖尿病性神経障害のモデル細胞であるシュワン細胞において酸化ストレス誘導細胞死の予防または軽減に有用である事が示されました。しかし、DHAの糖尿病性神経障害に対する予防については、さらなる動物実験および糖尿病性神経障害を有する糖尿病患者での臨床試験で検証される必要があります。

発表雑誌

    雑誌名
    「International Journal of Molecular Sciences」(2022年4月15日) 23巻8号、4405

    論文タイトル
    Docosahexaenoic Acid Suppresses Oxidative Stress-Induced Autophagy and Cell Death via the AMPK-Dependent Signaling Pathway in Immortalized Fischer Rat Schwann Cells 1

    著者
    Yasuaki Tatsumi, Ayako Kato, Naoko Niimi, Hideji Yako, Tatsuhito Himeno, Masaki Kondo, Shin Tsunekawa, Yoshiro Kato, Hideki Kamiya, Jiro Nakamura, Koji Higai, Kazunori Sango, Koichi Kato

    DOI番号
    10.3390/ijms23084405

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.3390/ijms23084405

用語解説

(注1)シュワン細胞
末梢神経から伸びる長い突起(軸索)の周囲を取り囲む構造体(髄鞘)を形成・維持する細胞のこと。

(注2)オートファジー
細胞が自らの成分を分解する作用(自食作用)のことで、具体的には、細胞内の不要となった成分やオルガネラを膜で取り囲みリソソームにより分解する作用のこと。近年では、オートファジーの制御不全は、がん、神経変性疾患、糖尿病など様々な疾患に関与していることが報告されています。

(注3)ウエスタンブロッティング法
細胞から抽出したタンパク質混合物を電気泳動で分離し、膜に転写し、抗体を用い特定のタンパク質を検出する方法。

(注4)オートファゴソーム
細胞質で隔離膜が形成され、細胞内の不要になった成分やオルガネラを取り囲む2重膜構造を作る過程のこと。

(注5)オートリソソーム
オートファゴソームに続いてその外膜に消化オルガネラであるリソソームが融合し内膜に包み込まれた成分やオルガネラを消化する過程のこと。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

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東邦大学薬学部病態生化学研究室 准教授 巽 康彰

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