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プレスリリース 発行No.1218 令和4年6月30日

統合失調症患者における社会認知に関する認識度や主観的困難感を明らかに
-統合失調症治療におけるunmet medical needs-

 東邦大学医学部精神神経医学講座 根本隆洋 教授、北海道大学大学院医学研究院精神医学教室 橋本直樹 准教授、東京大学大学院総合文化研究科ギフテッド創成寄付講座 池澤聰 特任准教授、国立精神・神経医療研究センター 病院 臨床研究・教育研修部門 情報管理解析部 大久保亮 客員研究員らの共同研究グループは、日本医療研究開発機構(AMED)による研究開発課題(参考1)において、統合失調症患者における社会認知(相手の顔や声色から感情を読み取る能力や相手の意図を推測する能力など:注1)についての認識度や実生活で抱えている主観的な困難感を、インターネット調査にて明らかにしました。
 本成果が2022年 6月 30日に国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されました。

発表者名

内野 敬 (東邦大学医学部精神神経医学講座/医療法人財団厚生協会東京足立病院 医員)
大久保 亮(国立精神・神経医療研究センター病院 臨床研究・教育研修部門 情報管理解析部 客員研究員)
田久保 陽司(東邦大学医学部精神神経医学講座/済生会横浜市東部病院 医員)
青木 瑛子(東邦大学医学部精神神経医学講座 研究補助員)
和田 泉 (東邦大学医学部精神神経医学講座 公認心理師)
橋本 直樹(北海道大学大学院医学研究院精神医学教室 准教授)
池澤 聰 (東京大学大学院総合文化研究科ギフテッド創成寄付講座 特任准教授)
根本 隆洋(東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)

発表のポイント

  • 統合失調症患者においては、対人関係の基礎となる能力である社会認知の低下が、仕事や学業など社会生活における困難につながっていることが知られており、社会認知を改善させる取り組みへの注目が高まっています。
  • 調査の結果、統合失調症患者のうち、「社会認知」という言葉を知っていた人は23.0%で、実際に社会認知に関して治療を受けたことがある人は3.9%と非常に少ない一方で、社会認知が社会生活と関連していると自覚する人は64.8%と多くいました。
  • 統合失調症患者は、健常対照者よりも社会認知に関する困難感を強く持っており、その困難感は、就学就労や対人関係などの社会生活における機能に強く影響していました。
  • 本研究から、統合失調症患者における社会認知を改善させる取り組みは、統合失調症治療におけるunmet medical needs(需要はあるがいまだ十分に提供されていない治療)であると考えられます。

発表内容

 多くの統合失調症患者において社会生活における困難が広く認められており、これを改善することが統合失調症治療における重要な課題の一つとなっています。これまで、社会生活に影響を与える要因として様々なものが報告されてきましたが、近年、その有力な候補として対人関係の基礎となる能力である「社会認知」に注目が集まっています。社会認知には、相手の顔や声色から感情を読み取る能力や、相手の意図を推測する能力などが含まれます。これまでに社会認知の能力の程度を評価する方法や社会認知の能力を改善させる方法が開発され、日本でもその方法の確立に向けた研究が進んでいます。しかしながら、統合失調症患者が実際の生活の中で、社会認知をどのように認識しているかについてはほとんど知られていません。今回、統合失調症患者における社会認知についての認識や、実生活で抱えている主観的な困難感を明らかにすることを目的とした調査を行いました(東邦大学医学部倫理委員会 研究課題番号A20074)。
 232名の統合失調症患者、および494名の健常対照者を対象に、インターネットによるアンケート調査を行いました。調査にあたっては、社会認知に関する主観的な困難感を評価する方法として、ASCo(Self-Assessment of Social Cognition Impairments)およびOSCARS(Observable Social Cognition Rating Scale)というアンケートの日本語版を作成しました。また、「社会認知に関する認識尺度(KEA-SC:Survey questionnaire on Knowledge, Experience, and Awareness of Social Cognition)」というアンケートを新たに開発しました。社会機能については、SFS(Social Functioning Scale)というアンケートを用いて評価をしました。
 その結果、統合失調症患者および健常対照者のいずれも、「社会認知」という言葉自体を知っている割合は25%未満でした(統合失調症患者23.0%、健常対照者24.5%)。また、これまでに社会認知について治療を受けたことがある割合は5%未満にとどまりました(統合失調症患者3.9%、健常対照者0.8%)。一方で、「社会認知が社会生活と関連する」と回答した割合は、いずれも50%を超えていました(統合失調症患者64.8%、健常対照者51.2%)。また、統合失調症患者は健常対照者に比べて、社会認知の主な4つの能力の全てにおいて、強い困難感を認めており、社会認知の困難感が強いほど、就学就労や対人関係などの社会生活における機能が低いという関連が認められました。ただし、これらはインターネット調査による結果であり、その解釈には注意が必要となります。
 結論として、統合失調症患者は社会認知に関して強い主観的な困難感を持っており、それが社会生活と関連していると認識していました。しかし、社会認知という言葉自体や認識は広まっておらず、社会認知の能力を測定したり治療を受けたりすることは通常の医療現場では普及していないことが示唆されました。これは、統合失調症治療におけるunmet medical needs(需要はあるがいまだ十分に提供されていない治療)であると考えられます。これまで開発されてきた社会認知に対する治療は、社会生活での困難を顕著に改善させるとまでは言えず、より一層効果的な治療法の開発が重要な課題であると同時に、それをどのように普及させていくかについても検討をする必要があると考えられました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Psychiatry and Clinical Neurosciences」(2022年6月30日)

    論文タイトル
    Perceptions of and subjective difficulties with social cognition in schizophrenia from an internet survey: Knowledge, clinical experiences, and awareness of association with social functioning

    著者
    Takashi Uchino, Ryo Okubo, Youji Takubo, Akiko Aoki, Izumi Wada, Naoki Hashimoto, Satoru Ikezawa, Takahiro Nemoto*(*責任著者)

    DOI番号
    10.1111/pcn.13435

    アブストラクトURL
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.13435
以上

参考

1、日本医療研究開発機構(AMED)による研究開発課題
事業名:障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)
研究開発課題名:社会認知機能に関する新たな検査バッテリーの開発
課題管理番号:20dk0307092h0001
研究開発代表者:大久保亮
分担研究開発課題名:社会認知機能障害に関するニーズ調査
研究開発分担者:根本隆洋

用語解説

(注1)社会認知
他者の意図や感情を理解する人間としての能力を含む、対人関係の基礎となる精神活動と定義され、たとえば、相手の顔や声色から感情を読み取ったり、相手の意図を推測したりする際に関連する脳の機能を指す。主な機能として、情動処理、心の理論、社会知覚、原因帰属バイアスの4領域が報告されている。

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 根本隆洋

〒143-8540 東京都大田区大森西 5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: Takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp

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