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プレスリリース 発行No.1203 令和4年5月10日

ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)が
プロスタノイドによる胃の収縮反応を強力かつ即時的に抑制することを発見
—DHA・EPAは胃の運動異常を改善する可能性がある—

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、魚油に豊富に含有されるドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)が胃の過剰収縮の原因となるプロスタノイド(注1)による胃底平滑筋の収縮反応を強力かつ即時的に抑制することを見出しました。また、その抑制機序には、DHA・EPAによるプロスタノイドTP受容体(注2)及び電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)に対する抑制効果が関与する可能性を明らかにしました。この研究成果は、雑誌「Pharmacology Research & Perspectives」に2022年4月24日に掲載されました。

発表者名

徐 可悦 (東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程3年)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • DHA及びEPAは魚油に豊富に含有され、多くの薬理作用を有することから健康食品やサプリメントの成分として注目されています。しかしながら、胃の運動機能に対する効果はほとんど研究されていませんでした。
  • 本研究では、DHA及びEPAがプロスタノイドによる胃底平滑筋の収縮反応を強力かつ即時的に抑制することを見出し、その抑制機序には、DHA・EPAによるプロスタノイドTP受容体及びVDCCに対する抑制効果が関与する可能性を明らかにしました。
  • 本結果は、DHA及びEPAがプロスタノイドの過剰産生に伴う胃の運動機能の過剰亢進を即時的に改善する可能性を示します。

発表概要

 DHA及びEPAは、魚油に豊富に含まれるn-3多価不飽和脂肪酸です。DHA及びEPAは、心血管疾患や脂質異常症などの多くの疾患に対して有益な効果をもたらすことが報告されています。これらの疾患に対するDHA及びEPAの有益な効果のメカニズムは完全には解明されていませんが、DHA及びEPAの長期摂取に起因するプロスタノイド産生の抑制が重要な役割を果たすことが示唆されています。特に胃においては、その運動機能は多くのプロスタノイドにより影響を受けることが報告されており、プロスタノイドの過剰産生は胃の運動機能異常を引き起こすことが示唆されています。DHA及びEPAを含む魚油を長期間摂取すると、胃でのプロスタノイド産生が大幅に減少することが報告されており、DHA及びEPAの長期摂取は、過剰産生されたプロスタノイドによって誘発される胃の運動機能異常を改善することが期待されます。しかしながら、プロスタノイドにより誘発される胃底平滑筋の収縮反応に対するDHA及びEPAの即時的効果については、これまでのところ、検討されていませんでした。そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、モルモットから摘出した胃底平滑筋の各種プロスタノイドによる収縮反応に対するDHA及びEPAの効果及びその作用機序を薬理学的・生化学的に検討しました。その結果、DHA及びEPAが検討したすべてのプロスタノイドによる収縮反応を抑制することを見出しました。また、その抑制機序には、DHA及びEPAによるプロスタノイドTP受容体及びVDCCに対する抑制効果が関与する可能性を明らかにしました。これらの知見は、DHA及びEPAがプロスタノイドの過剰産生に伴う胃の運動機能異常を即時的に改善する可能性を示します。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注3)を用いてモルモットから摘出した胃底平滑筋での5つのプロスタノイド(プロスタグランジン(PG)A2、PGD2、PGE2、PGF、PGI2)とU46619(トロンボキサン(TX)A2誘導体)により誘発される収縮反応に対するDHA、EPAの抑制効果を検討するとともに、その効果を植物油脂に多く含有されるリノール酸(LA)の抑制効果と比較しました。DHA及びEPAは、検討したすべてのプロスタノイド及びU46619によって誘発される収縮反応を有意に抑制しました。一方、LAは、DHA及びEPAと比べるとその抑制効果は弱く、PGD2とU46619によって誘発される収縮のみを有意に抑制しました。DHA及びEPAの作用点を推定するため、RT-qPCR法(注4)を用いて、胃底平滑筋に発現する収縮性プロスタノイド受容体(TP、FP、EP1、EP3)のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を比較したところ、プロスタノイドTP受容体及びEP3受容体のmRNAの発現量が多いことを見出しました。そこで、各種プロスタノイド及びU46619による収縮反応に対する選択的TP受容体拮抗薬(SQ 29,548)及び選択的EP3受容体拮抗薬(L-798,106)の効果を検討し、それらの効果とDHA及びEPAの効果との間の相関を調べました。その結果、DHA及びEPAによる抑制効果と選択的TP受容体拮抗薬による抑制効果の間には、正の相関が認められましたが、選択的EP3受容体拮抗薬による抑制効果との間には正の相関が認められませんでした。よって、DHA及びEPAのプロスタノイドによる収縮反応に対する抑制効果には、TP受容体に対する拮抗作用が重要な役割を果たすことが明らかになりました。また、DHA及びEPAのTP受容体以外の作用点を推定するため、高カリウム溶液により誘発されたVDCCを介した収縮反応に対するこれらの脂肪酸の効果についても検討したところ、DHA及びEPAはVDCCを介した収縮反応に対しても有意な抑制効果を示しました。そこで、各種プロスタノイド及びU46619による収縮反応にVDCCが関与する可能性を検討するため、これらの収縮反応に対するVDCC抑制薬(ベラパミル)の効果を検討したところ、いずれの収縮反応もVDCC抑制薬により抑制されました。これらの知見は、TP受容体とVDCCが胃底平滑筋のプロスタノイド誘発性収縮を即時的に抑制する際のDHAとEPAの標的となることを示します。

発表雑誌

    雑誌名
    「Pharmacology Research & Perspectives」(2022年4月24日) 10巻3号、e00952

    論文タイトル
    Docosahexaenoic acid and eicosapentaenoic acid strongly inhibit prostanoid TP receptor-dependent contractions of guinea pig gastric fundus smooth muscle

    著者
    Keyue Xu, Miyuki Shimizu, Chika Murai, Miki Fujisawa, Daichi Ito, Noboru Saitoh, Yutaka Nakagome, Mio Yamashita, Azusa Murata, Shunya Oikawa, Guanghan Ou, Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1002/prp2.952

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1002/prp2.952

用語解説

(注1)プロスタノイド
プロスタグランジン(PG)類とトロンボキサン(TX)類からなる生理活性脂質の総称。具体的には、PGA2、PGD2、PGE2、PGF、PGI2、TXA2などがある。消化管の生理機能の調節などに関わるだけでなく、炎症、疼痛、発熱、血小板凝集などの病態生理機能に関わることが知られている。

(注2)プロスタノイドTP受容体
プロスタノイドのうち、トロンボキサン(TX)A2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。

(注3)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注4)RT-qPCR法
定量的逆転写PCR法。組織や細胞での遺伝子(メッセンジャーRNA(mRNA))発現レベルを定量的に評価することができる。ウイルスの検査にも用いられる。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

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東邦大学薬学部薬理学教室
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E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

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