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プレスリリース 発行No.1197 令和4年4月14日

「新規フェルロイルグリセロール」をジンチョウゲ科アオガンピ属植物から発見
~ フェルラ酸の溶解度向上の誘導体としての活用に期待 ~

 東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学薬学部との国際共同研究により、ジンチョウゲ科アオガンピ属植物が新規フェルロイルグリセロールを含む新たな植物資源であることを初めて発見しました。今後さらなる研究の遂行により、天然由来フェルロイルグリセロールの医薬品や化粧品、食品など幅広い領域での活用が期待されます。この成果は2022年3月30日に日本生薬学会の英文誌「Journal of Natural Medicines」にて公開されました。

発表者名

張 米(東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程2年)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
小池 一男(東邦大学 名誉教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)

発表のポイント

  • ジンチョウゲ科アオガンピ属植物Wikstroemia pilosa(以下、W. pilosa)から新規フェルロイルグリセロールを発見しました。
  • Q-Exactive Orbitrap四重極質量分析計を用いた高分解能精密質量定量分析により、10種のアオガンピ属植物に含まれるフェルロイルグリセロールの含量を明らかにしました。
  • 天然由来フェルロイルグリセロールの報告は少なく、ジンチョウゲ科アオガンピ属植物がフェルロイルグリセロールを含む新たな植物資源であることを初めて報告しました。

発表概要

 フェルラ酸は植物中に広く分布し、紫外線吸収作用や抗酸化作用など多様な生物活性を持つことが知られています。しかしながら水および油への溶解度は低く、その利用は限られています。グリセロール骨格にフェルラ酸がエステル結合したフェルロイルグリセロールは、フェルラ酸の溶解度の向上が期待される誘導体の一つですが、天然由来のフェルロイルグリセロールの報告は少なく、その詳細な分布についてはほとんど知られてきませんでした。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学との国際共同研究により、ジンチョウゲ科アオガンピ属植物W. pilosaから新規フェルロイルグリセロールである1-feruloyl-3-hexadecanoyl glycerolを単離精製し、さらに10種のアオガンピ属植物における1-feruloyl-3-hexadecanoyl glycerolの含量を明らかにしました。

発表内容

 フェルラ酸は芳香族有機酸の一種であり、植物中に広く分布し、紫外線吸収作用や抗酸化作用、抗ウイルス活性、抗腫瘍効果など多様な生物活性を持つことが知られています。そのため、食品、化粧品および製薬業界において大いに注目されている化学物質です。しかしながら水および油への溶解度は低く、その利用は限られており、更なる利用のための課題として、この溶解度の改善が挙げられています。そこで、フェルラ酸の誘導体化により親水性また親油性を高めることが、機能性成分として広く利用されることに繋がることとして期待されています。
 グリセロール骨格にフェルラ酸がエステル結合したフェルロイルグリセロールは、フェルラ酸の溶解度の向上が期待される誘導体の一つですが、これまで天然由来のフェルロイルグリセロールの報告は少なく、植物からはジンチョウゲ科ジンコウ属Aquilaria malaccensis、ヤナギ科ポプラ属Populas lasiocarpa、ギョリュウ科ギョリュウ属Tamarix niloticaなど限られた種からしか単離されていません。
 ジンチョウゲ科アオガンピ属植物の一種であるW. pilosaは、主に中国の雲南省に分布する常緑低木で、中国では多毛蕘花(タモウジョウカ)と呼ばれています。これまでにW. pilosaに関する研究は報告されておらず、本研究ではジンチョウゲ科アオガンピ属植物に着目した生物活性ジテルペノイドの探索研究の一環として、初めて本植物について化学成分研究を行いました。
 本研究では、中国雲南省にて採取したW. pilosaの全木を乾燥した後、細かく刻み、95%エタノールを用いて成分を抽出しました。得られた抽出エキスについては、オクタデシルシリル(ODS)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた分離精製により、新規フェルロイルグリセロール1-feruloyl-3-hexadecanoyl glycerolを単離しました(図1)。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析により化学構造を決定しました。
 今回アオガンピ属植物に初めて新規フェルロイルグリセロールを含むことを発見したことから、単離した1-feruloyl-3-hexadecanoyl glycerolを標準品としてQ-Exactive Orbitrap四重極質量分析計による高分解能精密質量定量(注1)分析を行いました。分析対象としてはW. pilosaを含む中国雲南省または四川省にて採取した10種のアオガンピ属植物を使用しました。分析の結果、10種のアオガンピ属植物すべてから1-feruloyl-3-hexadecanoyl glycerolが検出され、その含量は1.29–50.96 mg/kgの範囲でした。
 フェルラ酸は強い抗酸化作用を持つことから酸化防止剤として使用されてきました。近年、認知症予防効果や高血圧予防効果、美白効果など様々な作用を示す機能性成分としても注目されています。フェルロイルグリセロールはフェルラ酸の溶解性を向上させる誘導体の一種であることより、今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、天然由来フェルロイルグリセロールの医薬品や化粧品、食品など幅広い領域での活用が期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Natural Medicines」(2022年3月30日)

    論文タイトル
    A feruloylated acylglycerol isolated from Wikstroemia pilosa and its distribution in ten plants of Wikstroemia species

    著者
    Mi Zhang, Kouharu Otsuki, Shizuka Kato, Yuito Ikuma, Takashi Kikuchi, Ning Li, Kazuo Koike, Wei Li*

    DOI番号
    10.1007/s11418-022-01621-6

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1007/s11418-022-01621-6

用語解説

(注1)高分解能精密質量定量
高分解能精密質量データを利用した定量法。一般的なトリプル四重極質量分析計によるSRM(Selected Reaction Monitoring; 選択反応モニタリング)を用いた定量分析に比べて、簡単なメソッド作成により高い選択性での分析が可能である。

添付資料

図1. Wikstroemia pilosaおよび単離した新規フェルロイルグリセロールの化学構造

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李 巍

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