プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1195 令和4年3月18日

皮膚組織修復における瘢痕抑制性microRNA146b-5pを世界で初めて同定

 東邦大学医学部病理学講座の赤坂喜清教授らの研究グループは、ラット実験系を用いて皮膚傷痕の瘢痕を小さくするmicroRNA146b-5pを世界で初めて明らかにしました。皮膚の傷口は目立たない瘢痕になりますが、ケロイドや肥厚性瘢痕では逆に瘢痕が大きくなり、消退しません。本研究ではmicroRNA146b-5pによりラット皮膚傷痕の瘢痕が小さくなる新知見を明らかにしました。本研究の成果は、皮膚の傷痕における瘢痕線維化の抑制メカニズムを解明するのみならず、傷害された臓器で生じる線維化による機能不全の予防にも繋がることが期待されます。
 本研究は、米国の科学雑誌「Journal of Investigative Dermatology」に2021年12月18日オンラインに掲載されました。
 本研究は東京理科大学薬学部薬学科の花輪剛久教授、河野弥生講師と田中大貴大学院生、東京大学大学院医学研究科老年看護学の真田弘美教授と峰松健夫特任准教授との共同研究です。

発表者名

藤澤 千恵(東邦大学医学部研究推進室 講師)
深澤 由里(東邦大学医学部病理学講座 講師)
岡根谷 哲哉(東邦大学大学院医学研究科 医学専攻 博士課程4年)
円谷 佳代(東邦大学医学部病理学講座 技術員)
一色 琢磨(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 講師)
三上 哲夫(東邦大学医学部病理学講座 教授)
赤坂 喜清(東邦大学医学部病理学講座、東邦大学大学院医学研究科先端医科学研究センター組織修復・病態制御学研究室 教授)

発表のポイント

  • miRNA146b-5pはPDGFRα(注1)発現抑制から瘢痕形成を抑制して皮膚傷痕の瘢痕を小さくすることを初めて明らかにしました。
  • 脂肪組織による新たな瘢痕抑制メカニズムとしてmiRNA146b-5pによる脂肪間質細胞におけるPDGFRα発現抑制が示されました。
  • miRNA146b-5pは皮膚瘢痕形成のメカニズム解明のみならず、直接投与により傷害臓器で生じる線維化を抑制して線維化臓器における機能不全の予防につながることが期待されます。

発表概要

 東邦大学医学部病理学講座の赤坂喜清教授らの研究グループはBasic fibroblast growth factor(bFGF)(注2)が皮膚の傷痕を小さくすることを動物実験から報告してきました。今回はbFGFで処理したラットの皮膚線維芽細胞を網羅的な解析により、選定したmiRNA146b-5pがラット皮膚潰瘍における瘢痕抑制から皮膚傷痕の瘢痕を小さくすることを明らかにしました。そのメカニズムとしてmiRNA146b-5pは皮膚創部で発現するPDGFRαによる瘢痕線維化能を抑制することで傷痕を小さくすることがわかりました。この過程でmiRNA146b-5pは脂肪間質細胞に発現するPDGFRα発現を抑制することにより、脂肪組織におけるPDGFRαの瘢痕線維化能を抑制すると考えられました。本研究の成果は皮膚創部における脂肪組織を介した瘢痕線維化のメカニズム解明に役立つのみならず、miRNA146b-5p投与により侵襲を受けた臓器で起きる瘢痕線維化を抑制し臓器線維化で生じる機能不全の改善に繋がることが期待されます。

発表内容

(1)研究の背景
 最近、創傷治癒における組織修復メカニズムの研究が注目されています。 その理由は傷害臓器で再生と瘢痕形成の両輪で修復が進行しますが、その修復パターンは再生に比べて瘢痕形成の方が遙かに多いからです。よって多くの傷害臓器が辿る瘢痕形成を抑制することは傷害臓器で発生する臓器線維化による機能不全の予防に貢献すると考えられています。
 研究グループはbFGFによる皮膚潰瘍の瘢痕抑制を動物実験から報告してきました。想定されるメカニズムとしてはbFGF投与創部から誘導される瘢痕抑制に有効な分子が直接的に瘢痕形成を抑制すると仮定してきました。これまで非翻訳RNAであるmicroRNA(miRNA)は標的遺伝子の翻訳異常から多くの蛋白発現を抑制することが報告されています。そこでbFGF投与で誘導される瘢痕抑制に有効な分子としてmiRNAの関与を仮定し、bFGF処理した皮膚線維芽細胞の網羅的解析から瘢痕抑制に重要なmiRNAの同定に迫りました。
 研究グループが網羅的解析から注目したのはラットのmiRNA146b-5pです。ヒト造血細胞ではmiRNA146b-5pの標的分子としてPlatelet-derived growth factor receptor α(PDGFRα)が報告されています。PDGFRαは白血球の遊走能や血管新生能を促進する一方、線維芽細胞には細胞外基質の産生を亢進して瘢痕線維化を促進することが示されています。ラットの皮膚線維芽細胞でもmiRNA146b-5pがPDGFRαを標的にするならば、PDGFRα発現抑制から瘢痕形成を抑制することが推測されていましたが、未だ明らかにされていませんでした。そこでラット皮膚線維芽細胞でもPDGFRαがmiRNA146b-5pの標的分子であると仮定し、その標的抑制から瘢痕線維化を抑制するだろうとの仮説を立てました。その上でラットmiRNA146b-5pによる瘢痕抑制効果を検証し、皮膚組織の修復におけるmiRNA146b-5pによる新たな瘢痕抑制メカニズムを解明することを試みました。
(2)研究の概要
a. miRNA146b-5pの選定:
ラット皮膚線維芽細胞のアレイ解析からbFGF投与により発現上昇するラットmiRNA146b-5pを選定しました。可視化解析から、α-smooth muscle actin(α‐SMA)陽性の筋線維芽細胞(注3)ではmiRNA146b-5pの発現がないことから成熟した瘢痕形成細胞には発現がないことがわかりました。

b. PDGFRαはmiRNA146b-5pの標的分子:
バイオインフォーマティック検索から、PDGFRα 3′-UTRにmiRNA146b-5pの結合部位の候補を2箇所明らかにしました。これら部位におけるmiRNA146b-5pによるルシフェラーゼ活性の低下を認めました。さらにmiRNA146b-5p inhibitorあるいはmimicを導入したラット皮膚線維芽細胞では、PDGFRαタンパク質発現が増加と減少がそれぞれ確認されました。以上からPDGFRαはmiRNA146b-5pの標的分子であり、miRNA146b-5pはPDGFRαの発現抑制からPDGFRαによる瘢痕線維化能を抑制可能と推定しました。

c. miRNA146b-5pによる瘢痕抑制と標的細胞:
miRNA146b-5p mimicやinhibitorを投与したラット皮膚潰瘍では10日目で瘢痕線維化の減少と増加をそれぞれ認めました。したがってmiRNA146b-5pは、皮膚創部の瘢痕線維化を抑制することが明らかとなりました。さらにmimic投与した皮膚潰瘍部の脂肪組織の間質細胞に、CD81とmiRNA146b-5pの共発現が認められました。これからCD81陽性Exosome(注4)を介して脂肪組織の間質細胞に取り込まれたmiRNA146b-5pがPDGFRα発現を抑制して瘢痕線維化の抑制に関与していると考えました。
(3)今後の展望
 ラット皮膚潰瘍部の可視化解析からCD81陽性ExosomeとmiRNA146b-5pを共発現する脂肪組織の間質細胞がmiRNA146b-5pの標的細胞であることが分かりました。マウス皮膚潰瘍では脂肪組織の前駆細胞が筋線維芽細胞に分化して線維化を促進することが報告されています。さらに脂肪細胞の前駆細胞に発現するPDGFRαは筋線維芽細胞への分化を促進することが報告されています。したがってmiRNA146b-5pは、脂肪組織の前駆細胞に発現するPDGFRαの発現を抑制し、筋線維芽細胞への分化を抑制することで筋線維芽細胞による瘢痕線維化を抑制すると考えられました。内臓脂肪症候群(Metabolic syndrome)における過剰に肥大し線維化した脂肪組織では、侵襲を受けた際に脂肪組織の修復が遅延することが示されています。この過程で脂肪組織細胞から筋線維芽細胞への分化に障害が起きていることが示唆されており、miRNA146b-5pを投与することで脂肪組織の修復異常の改善が期待できるかもしれません。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Investigative Dermatology」(オンライン版: 2021年12月18日)

    論文タイトル
    The role for miRNA146b-5p in the attenuation of dermal fibrosis and angiogenesis by targeting PDGFRα in skin wounds

    著者
    Chie Fujisawa , Makoto Hamanoue , Yayoi Kawano , Daiki Murata , Yuri Akishima-Fukasawa , Tetsuya Okaneya , Takeo Minematsu , Hiromi Sanada , Kayo Tsuburaya , Takuma Isshiki , Tetuo Mikami , Takehisa Hanawa, Yoshikiyo Akasaka * (*責任筆者)

    DOI番号
    10.1016/j.jid.2021.11.037

    論文URL
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022202X21026191

用語解説

(注1)PDGFRα
血小板由来成長因子受容体α(Platelet-derived growth factor receptor α: PDGFRα)は血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor: PDGF)の受容体でありPDGFのシグナルを伝達する。PDGFは胎児の成長や血管新生にも関与していると考えられている。PDGFRαは白血球の遊走能や血管新生能を促進する一方、線維芽細胞には細胞外基質の産生を亢進して瘢痕線維化を促進することが示されている。

(注2)bFGF
塩基性線維芽細胞増殖因子(Basic fibroblast growth factor : bFGF)は修復期の線維芽細胞に作用し増殖能を促進し、血管内皮細胞にも作用して血管形成能を促進することが示されている。また皮膚の表皮細胞の走化能を促進し早期の創閉鎖を誘導することが示されている。

(注3)筋線維芽細胞
損傷組織の修復・再生・恒常性維持のために、組織の線維芽細胞が分化した細胞。α-SMA陽性、収縮能をもち、各種細胞外マトリックスを分泌し、創傷治癒機転における瘢痕組織の形成を促進する。
(修復過程で線維芽細胞はαアクチンを発現する強い収縮能をもつ筋線維芽細胞(myofibroblast)へと分化する。筋線維芽細胞は肉芽組織を収縮させ、細胞外基質の産生を促進し修復組織の瘢痕線維化を促進する。)

(注4)Exosome
生体内で細胞外に放出される直径約30〜100ナノメートル程度の超小型の膜小胞。細胞外小胞のひとつ。リソソームと同様、脂質二重層からなり、血液、尿、羊水などの体液中に存在する。細胞間に生理活性分子を輸送し、細胞間の情報伝達に重要な役割を担っている。

添付資料

図1. miRNA146b-5p は皮膚創部の瘢痕線維化を抑制する
miRNA146b-5p は脂肪間質細胞に発現する PDGFRα を標的にしてPDGFRα の発現を抑制する。その結果、α-SMA陽性の筋線維芽細胞への分化を抑制し、同細胞が有する瘢痕線維化能を低下させる。
Y. Akasaka et al. The role for miRNA146b-5p in the attenuation of dermal fibrosis and angiogenesis by targeting PDGFRα in skin wounds (https://doi.org/10.1016/j.jid.2021.11.037)より許可を得て転載

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部病理学講座
教授 赤坂喜清

〒143-8541 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151  FAX: 03-3768-2566
E-mail: akasakay[@]toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/pathology/index.html

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp 
URL:www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。