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プレスリリース 発行No.1194 令和4年3月17日

サイバニクス治療で筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の歩行機能が改善

 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 森岡 治美助教(任期)、平山 剛久講師、狩野 修教授、同医学部リハビリテーション医学研究室の海老原 覚教授らのグループは、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)(注1)の治療に、装着型サイボーグの医療用HAL®下肢タイプ(以下、HAL)(注2)が有効であることを報告しました。

 ALSは、治療薬などによって進行の抑制はみられても、筋力低下が改善することはない進行性の神経変性疾患です。HALは、2016年にALSを含めた8つの神経・筋疾患の運動機能維持を目的に本邦で保険適用になりましたが、ALSに対する効果は十分に証明されていませんでした。本研究では、ALS患者の歩行機能が、1~2ヶ月のHAL治療により改善することが示されました。

 この研究成果は、「Journal of Clinical Neuroscience」のオンライン版に2022年3月11日に公開されました。

発表者名

森岡 治美(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教(任期))
平山 剛久(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 講師)
海老原 覚(東邦大学医学部リハビリテーション医学研究室 教授)
狩野 修(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 教授)

発表のポイント

  • ALSに対するサイバニクス治療が歩行機能の改善に有効であることを示した。
  • ALSの進行抑制を示した治療薬はあるが、運動症状を改善させた治療法はない。
  • 歩行機能を維持、改善することにより、ALS患者のQOLも改善することが期待される。

発表概要

 研究グループは、筋力低下が改善することはない進行性の神経変性疾患であるALS患者の歩行機能改善に、装着型サイボーグ医療用HAL®下肢タイプによる治療が有効であることを示しました。

発表内容

 ALSは脳・脊髄などの運動ニューロンが障害される進行性の神経変性疾患です。運動ニューロンが障害されるため、四肢を動かす、飲み込む、話す、呼吸する筋肉がやせ、筋力低下を引き起こします。予後が3~5年と短いうえに、進行を止める治療法がないため、“難病中の難病”という呼ばれ方もされています。治療薬としてリルゾール、エダラボンが保険適用となっていますが、筋力低下や、やせを改善するわけではないので、患者さんは効果を実感しにくいです。
 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野では2018年より、ALSの歩行機能改善を目的とした治療に医療用HALを導入しました(図1)。本邦では、2016年4月にALSを含む神経・筋疾患(全8疾患)に対し、保険適用になりましたが、臨床治験でもALS患者は24症例中1例のみであったため、ALSに対する効果を証明するために、さらなる研究成果が待ち望まれていました。

 本研究では2019年1月から12月までに当院でALSと診断された患者で、10m以上安全に自立歩行はできないものの、介助または歩行補助具を使用して10m以上歩行が可能な患者11名を対象としました。評価方法として、HAL治療1クール(全9回、頻度2-3回/週、1-2か月間。実施時間:装着や休憩を除き20-40分)の前後で2分間歩行距離、10m歩行テスト(速度、歩幅、歩行率を評価)、ALSの運動機能評価尺度(ALSFRS-R)、Barthel Index(BI)、機能的自立度(FIM)、努力性肺活量を観察し、解析しました。その結果、平均歩行距離は治療前の73.87mから治療後89.94m(p=0.004)に伸びました。また、10m歩行の歩行率の平均値も、治療前の1.71から治療後1.81(p=0.04)へと改善しました(図2)。なお有意差は観察されなかったものの10m歩行における速度や歩幅も改善傾向を示し、ALSFRS-RやBI、FIMは維持される傾向を示しました。歩行機能障害はALS患者のADLやQOLを低下させます。継続的なHAL治療により、歩行機能をさらに維持、改善できる可能性もあり、今後の研究成果が待たれます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Clinical Neuroscience」(2022年3月11日)  

    論文タイトル
    Robot-assisted training using Hybrid Assistive Limb ameliorates gait ability in patients with amyotrophic lateral sclerosis

    著者
    Harumi Morioka, Takehisa Hirayama, Tatsuki Sugisawa, Kiyoko Murata, Mari Shibukawa, Junya Ebina, Masahiro Sawada, Sayori Hanashiro, Junpei Nagasawa, Masaru Yanagihashi, Masayuki Uchi, Kiyokazu Kawabe, Naohiro Washizawa, Satoru Ebihara, Takashi Nakajima, Osamu Kano*

    DOI番号
    10.1016/j.jocn.2022.02.032

    論文URL
    https://doi.org/10.1016/j.jocn.2022.02.032

用語解説

(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSは、脳・脊髄や末梢の運動神経が障害され、手足や発語、嚥下や呼吸に関する筋力が急激に障害される原因不明の神経変性疾患です。発症の平均年齢は60歳前後で、本邦の患者数は約1万人(世界では推計40万人)で厚労省の指定難病にもなっています。予後は非常に短く、気管切開を伴う人工呼吸器を用いなければ生存期間は3~5年とされています。ALSの治療薬はリルゾールとエダラボンのみで、進行を抑制する可能性は示唆されていますが、進行を止めることはできていません。

(注2)Hybrid Assistive Limb (HAL®)
HALは、人と人工物が融合し、装着するだけで人をサイボーグ化する技術です。脳→脊髄→運動神経→筋肉へと伝達される動作意思を反映した生体電位信号を検出して身体を動作させ、これと同期して人体の感覚神経系の情報が筋紡錘→感覚神経→脊髄→脳へと戻りながら、動作と神経系のループをリアルタイムで相互にフィードバックさせるインタラクティブ・バイオフィードバックのループが構成されることで、人と人工物であるHALが機能的に一体化することを実現します。新たな医療技術、新たな人支援技術として展開される世界初の革新技術です。

添付資料

図1.HAL治療中のALS患者
図2. ALS患者における歩行機能へのHAL治療の効果
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
教授 狩野 修

〒143-8541 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151  FAX: 03-3768-2566
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