プレスリリース 発行No.1189 令和4年2月21日
~ 魚類に隠されたホルモン分子の進化と機能分化が明らかに ~
発表者名
片山 侑駿(東邦大学理学部 非常勤講師、岡山大学理学部付属牛窓臨海実験所 特任助教)
齋藤 あみ(東邦大学大学院理学研究科 生物分子科学専攻 博士前期課程1年)
恒岡 洋右(東邦大学医学部解剖学講座微細形態学分野 准教授)
御輿 真穂(岡山大学学術研究院自然科学学域 助教)
椋田 崇生(鳥取大学医学部医学科解剖学講座 准教授)
東 森生(自治医科大学医学部薬理学講座 講師)
日下部 誠(静岡大学理学部創造理学コース 准教授)
竹井 祥郎(東京大学大気海洋研究所 名誉教授)
発表のポイント
- ニホンウナギから新しいナトリウム利尿ペプチド(CNP4b)を発見した。
- ナトリウム利尿ペプチドの分子進化と機能分化の関係性を明らかにした。
- 蛍光標識ショートヘアピンDNAを用いたin situ hybridization chain reaction法を魚類で初めて確立した。
発表概要
発表内容
ニホンウナギのゲノムデータベースを用いてCNP遺伝子を探索したところ、未知のCNP遺伝子断片が見つかりました。本研究では、まず、この情報をもとにウナギ脳組織から新規CNP遺伝子のクローニングを行い、その全長構造を決定しました。その遺伝子配列を用いて系統樹解析とシンテニー(構造類似性)解析を行ったところ、今回見つかった新規CNPは、既存のCNP4遺伝子のパラログ(注2)であることがわかり、CNP4bと命名しました。これまで脊椎動物においてCNP4遺伝子の重複は確認されていませんが、ウナギのCNP4b遺伝子の発見により真骨魚類の進化の過程で起こった全ゲノム重複後でCNP4遺伝子が2つに分化したことがわかりました。興味深いことに、このCNP4bに相当する遺伝子は、メダカやフグなどのスズキ目(スズキ科)ではすでに偽遺伝子化しており、コイ目のゼブラフィッシュにおいては、遺伝子(CNP4-likeと命名)は存在するものの機能していないことがわかりました(図1)。つまり、真骨魚類の中でも特に原始的なカライワシ目のニホンウナギを研究材料に用いることで初めてその遺伝子の存在を明らかにすることができました。
新技術:in situ hybridization chain reactionを用いたmRNA検出法を魚類で初めて確立
本研究では、既存のCNP4とCNP4b の脳内局在を明らかにするため、新しいmRNA検出技術である蛍光標識ショートヘアピンDNAを用いたin situ hybridization chain reaction法を確立しました。この手法は東邦大学医学部の恒岡洋右准教授が開発した新しいmRNA検出法で、これまで困難とされてきたmRNAの多重染色が可能となるだけでなく、検出probeの特異性が高くCNP4とCNP4bのように構造が類似している分子に対してもそれぞれ検出することができるものです(Tsuneoka and Funato, 2020)。この手法を用いて、CNP4を発現するニューロンとCNP4bを発現するニューロンが全く別のニューロンであることがわかりました(図2)。この技術は、動物種に制限されることなくmRNAを検出することができるため、今後、多くの研究で用いられることが期待されます。
CNP4とCNP4bは脳機能を分担している
研究グループは、CNP4とCNP4bの中枢機能を調べるために、上記の新規mRNA検出法であるin situ hybridization chain reaction法を用いて、CNP4とCNP4bの発現部位を特定することに成功しました。CNP4は終脳(ヒトでは大脳に相当)に発現し、CNP4bは延髄に発現していました。つまり、それぞれ別の脳機能を有することが示唆されました。また、CNP4bが偽遺伝子化した魚種(メダカ・ゼブラフィッシュ)を用いて、CNP4遺伝子の脳内発現分布を調べたところ、CNP4は終脳と延髄の両方に発現していることがわかりました。つまり、CNP4が1種類しかない真骨魚類では、CNP4bの偽遺伝子化により、終脳と延髄の機能が統合されたことがわかりました。このように日本人に馴染み深いウナギの研究から、魚類の分子進化と機能分化の関係性を示す重要なデータを得ることができました。
CNP4bはウナギの鰓(えら)や食道の機能を調節する
延髄に発現するCNP4bニューロンの特徴を調べたところ、CNP4bニューロンはアセチルコリンを神経伝達物質に用いるコリン作動性の運動神経であることがわかりました。延髄のコリン作動性運動神経は、ウナギの鰓や食道の筋肉を支配していることから、CNP4bが末梢組織においてウナギの鰓呼吸や嚥下の調節に関与していることが示唆され、脳に発現するCNPが末梢の筋肉調節にも関わっていることを初めて明らかにしました。
発表雑誌
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雑誌名
「Cell and Tissue Research」(2022年2月16日オンライン掲載)
論文タイトル
Gene duplication of C-type natriuretic peptide-4 (CNP4) in teleost lineage elicits subfunctionalization of ancestral CNP
著者
Yukitoshi Katayama, Ami Saito, Maho Ogoshi, Yousuke Tsuneoka, Takao Mukuda, Morio Azuma, Makoto Kusakabe, Yoshio Takei, Takehiro Tsukada
DOI番号
10.1007/s00441-022-03596-y
論文URL
https://rdcu.be/cHaNe
用語説明
かつては遺伝子として遺伝子産物(特に、タンパク質)をコードしていたが、進化の過程でその機能が失われた遺伝子をいう。
(注2)パラログ
遺伝子重複によって生じた相同性を持つ二つの遺伝子。
添付資料
(図1)真骨魚類におけるナトリウム利尿ペプチドファミリーの系譜。CNP4bは今のところカライワシ目のウナギで保存されていることがわかっているが、他の魚種では偽遺伝子化されている。R:全ゲノム重複。真骨魚類では、他の脊椎動物よりも1回全ゲノム重複が多いと考えられている。
(図2)ウナギでは、CNP4とCNP4bは脳機能を分担している。蛍光標識ショートヘアピンDNAを用いたin situ hybridization chain reaction法を用いてCNP4とCNP4bを発現するニューロン(矢頭)を検出した。CNP4は終脳の視索前核(左)、CNP4bは延髄の運動神経(右)に発現していた。
参考文献
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部 生物分子科学科
准教授 塚田 岳大
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1714
E-mail: takehirotsukada[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/biomol/tsukada/index.html
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