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プレスリリース 発行No.1187 令和4年2月14日

ナノレベルで厚さを制御した自立型COF膜の作製に成功 
~将来的なCO2分離技術への貢献に期待~

ポイント

  • 真空蒸着法を応用して、ナノメートルレベルで厚さを制御したCOF膜を合成することに成功。
  • CO2透過性が高い要因はゲート効果ではなくCOFとCO2の間に働く分子間力であると解明。
  • 合成法のさらなる精密化により、より高機能なCOF膜の作製に期待。

概要

 北海道大学大学院総合化学院修士課程の加藤 将貴氏、同大学院工学研究院の島田 敏宏教授と東邦大学理学部化学科の柳瀬 隆講師らの研究グループは、交互蒸着法と呼んでいる新たな蒸着重合法*1を利用してナノメートルレベルで厚さを制御した共有結合性有機構造体 (COF)*2膜の合成に成功しました。この手法では前駆体となる2つの分子の比率を精密に制御して蒸着することにより、耐薬品性・機械的強度の高い堅牢なCOF膜を作製できます。また、合成したCOF膜は容易に基板から剥がすことが可能で、自立膜として利用できるメリットもあります。本研究で作製したCOF膜はナノメートルサイズの微細孔を数多く有するため、この性質を利用すると混合ガスを分離することが可能となります。
 本研究では合成したCOF膜を二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)の分離に応用しました。すると、CO2の透過量はN2の4倍以上で高い選択性を確認することができ、CO2が効果的に分離されることを明らかにしました。この選択性の高さがゲート効果ではなく、COF膜の微細孔部分に存在するカルボニル基とCO2の間に働く分子間力によるものであると量子化学計算を用いて解明しました。
 なお、本研究成果は、2022年2月2日(水)公開のACS Applied Nano Materials誌にオンライン掲載されました。

作製した自立膜 (左) 、COF膜がCO2とN2を分離するイメージ図 (右)

背景

 分子レベルの微細孔を有するCOFは、ガス分離や触媒、電池の電極材料といった産業技術への応用が期待されています。そして、前駆体である分子をデザインすることで最終的に出来るCOF膜の性能や機能を制御できることから、これまでに様々なCOFが合成されてきました。
 しかしながら、従来は溶液系での合成がほとんどで、その結果として、得られるCOFが粉体となってしまうという欠点があります。COFをガス分離へと応用するためには薄膜にする必要があります。従来法では、合成したCOFの粉体を高分子マトリックスと複合化することにより薄膜を形成していましたが、粒界の生成や複合化率の低さが要因となってCOF本来の機能が低下するという問題がありました。そこで、本研究では自立型COF膜の新規合成法の開発を目指しました。

研究手法

 本研究では新たに開発した交互蒸着装置を用いて、前駆体であるTAPB*3とNTCDA*4の蒸着量をリアルタイムでモニターしながらCOF膜の作製を行いました(図1)。1度に蒸着する前駆体の厚さをオングストロームレベルで制御し、TAPBとNTCDAを交互に25-100回蒸着することで100-200nmの厚さを有するCOF膜を作製しました。熱処理によりイミド結合形成反応を完全に進行させることで強固なネットワーク構造を形成しました。得られたCOF膜の結合状態や微細構造を赤外分光(FTIR)*5や電子顕微鏡(STEM)*6を用いて評価しました。また、水溶性の塩化カリウムを基板に用いてCOF膜を作製し、その後に水で処理することによりCOF膜を剝離し、自立膜を得ました。このようにして作製した自立型COF膜を用いて、CO2とN2の透過性能及び選択性を評価しました。

研究成果

 独自に考案した交互蒸着法を用いてナノメートルレベルで厚さを制御した自立型COF膜の作製に成功しました。TAPBとNTCDA蒸着の繰り返し回数を変えることで膜厚を制御できるため、用途に応じた厚さの膜を作製することが可能となりました。さらに、高真空下での合成であるため、溶液系での合成と比較して清浄なCOF膜が得られるという利点があります。蒸着後に熱処理を施した膜をFTIRで解析したところ、前駆体由来のピークは完全に消失しており、イミド結合の形成が完全に進行していることが明らかになりました。
 また、STEMを用いてCOF膜の微細構造を観察したところ、COF特有の微細孔とネットワーク構造を確認できたことからも良質なCOF膜が得られたことを確認しました(図2)。さらに、塩酸やTHFといった腐食性・溶解性の高い液体への耐性を調べたところ、24時間の浸漬ではほとんど変化がなく高い耐薬品性を有することも確認できました。加えて、塩化カリウム基板から剥離して別の基板やグリッドに移すことが可能なほど高い機械的強度を有していることも明らかになりました。
 このCOF膜を用いてCO2/N2の透過性能を評価したところ、CO2をN2の4倍以上選択的に透過することが判明しました。量子化学計算により、そのメカニズムを検討したところCO2はイミド結合が持つカルボニル基と強く相互作用し、その結果として微細孔を選択的に通過すると明らかになりました(図3)。
 本研究結果はCOFのデザインを最適化することで、分離膜の性能をより向上できることを示唆しています。

今後への期待

 地球温暖化を防止するためには、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制する必要があります。そのためには大気中のCO2を回収して貯蔵・資源利用する必要があります。COF膜を用いると圧力差を利用するだけで大気中からCO2を選択的に回収でき、将来に渡って懸念されている地球温暖化の防止に貢献すると考えられます。

謝辞

 本研究の一部はJST-A-STEP及び文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の支援を受けて行われました。

論文情報

    論文名
    Free-Standing Nanometer-Thick Covalent Organic Framework Films for Separating CO2 and N2 (二酸化炭素と窒素を分離するナノメートル厚さの自立型COF膜)

    著者名
    加藤将貴1,大多 亮2,遠堂敬史2,柳瀬 隆3,長浜太郎2,島田敏宏2
    1北海道大学大学院総合化学院,2北海道大学大学院工学研究院,3東邦大学理学部化学科)

    雑誌名
    ACS Applied Nano Materials(ナノ材料学の専門誌)

    DOI番号
    10.1021/acsanm.1c04048

    公表日
    2022年2月2日(水)(オンライン公開)

参考図

原料1;TAPB, 原料2;NTCDA

図1.開発した交互蒸着法の模式図

図2. 直接観察されたCOFの微細構造

図3. コンピュータシュミレーションの結果

用語解説

*1 蒸着重合法
原料の加熱により、基材上に直接高分子膜を作製する手法。

*2 共有結合性有機構造体(COF)
2005年に新しく発見された有機材料。1メートルの1億分の1以下の微細な網目状構造を有する。

*3 TAPB
1,3,5-トリス-(4アミノフェニル)ベンゼン、3つのアミノ基がNTCDAの無水カルボン酸と結合してネットワーク構造を形成する。

*4 NTCDA
ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2つの無水カルボン酸がTAPBのアミノ基と結合してネットワーク構造を形成する。

*5 赤外分光 (FTIR)
赤外線を用いて、物質の特性を分析する手法。

*6 電子顕微鏡 (STEM)
正式名称は走査透過電子顕微鏡。物質の極小構造を直接観察できる強力な手法。

お問い合わせ先

【お問い合わせ先】
北海道大学大学院工学研究院 教授 島田 敏宏(しまだとしひろ)

TEL:011-706-6576  FAX:011-706-6576  E-mail:shimadat[@]eng.hokudai.ac.jp
URL:https://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kotai/

東邦大学理学部化学科 講師 柳瀬 隆(やなせたかし)
TEL:047-472-4186  E-mail:takashi.yanase[@]sci.toho-u.ac.jp
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/chem/inorganic/

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