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プレスリリース 発行No.1185 令和4年2月2日

ドコサへキサエン酸(DHA)が気管平滑筋の
プロスタノイドTP受容体を介した収縮反応を強力に抑制することを発見
—DHAの気管支喘息に対する改善効果のメカニズムの一端を明らかに—

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、ドコサヘキサエン酸(DHA)が気管平滑筋のプロスタノイドTP受容体(注1)を介した収縮を選択的かつ強力に抑制することを明らかにしました。この研究成果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に2022年2月1日に掲載されました。

発表者名

小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • ドコサヘキサエン酸(DHA)の長期的な摂取は炎症性物質の産生を抑制することにより、気管支喘息を改善する可能性が示唆されていますが、気管平滑筋の収縮反応に対するDHAの即時的な効果については検討されていませんでした。
  • 本研究では、DHAがアセチルコリン(ACh)やヒスタミン、ロイコトリエンD4(LTD4)による収縮反応には影響を与えずに、トロンボキサンA2(TXA2)(注2)の安定誘導体であるU46619やプロスタグランジンF(PGF)(注2)による気管平滑筋の収縮反応を強力かつ即時的に抑制することを明らかにしました。
  • 本結果は、DHAがこれまでに報告されている抗炎症作用に加え、TXA2やPGFによる気管/気管支平滑筋の過収縮を即時的に抑制することで、これらの炎症性物質の増加に関連する気管支喘息を改善する可能性を示唆しています。

発表概要

 ドコサヘキサエン酸(DHA)は、魚油に含まれるn-3多価不飽和脂肪酸であり、健康食品成分としても注目されています。DHAの長期的な摂取は、炎症性物質の産生を抑制することにより、気管支喘息を改善する可能性が報告されています。しかしながら、気管平滑筋の収縮反応に対する即時的な効果については、これまでのところ研究されていませんでした。そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授、小原圭将講師、吉岡健人助教らの研究グループは、気管平滑筋の収縮反応に対するDHAの即時的な効果を明らかにするため、モルモットから摘出した気管平滑筋の収縮反応に対するDHAの効果を検討しました。その結果、DHAがアセチルコリン(ACh)やヒスタミン、ロイコトリエンD4(LTD4)による収縮反応には影響を与えずに、トロンボキサンA2(TXA2)の安定誘導体であるU46619やプロスタグランジンF(PGF)による気管平滑筋の収縮反応を強力かつ即時的に抑制することを明らかにしました。これらの知見は、DHAがこれまでに報告されている抗炎症作用に加え、TXA2やPGFによる気管/気管支平滑筋の過収縮を即時的に抑制することで、これらの炎症性物質の増加に関連する気管支喘息を改善する可能性を示唆しています(図1)。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注3)を用いてモルモットから摘出した気管平滑筋の収縮反応に対するDHAの抑制効果を検討しました。DHA(3 × 10−5 M)は、低濃度のU46619(10−8 M)及びPGF(5 × 10−7 M)によって誘発される気管平滑筋の収縮反応を強力に抑制しました。また、U46619(10−8 M)及びPGF(5 × 10−7 M)による気管平滑筋の収縮反応は、プロスタノイドTP受容体拮抗薬であるSQ 29,548(10−6 M)によって有意に抑制されました。一方、より高い濃度のU46619(10−7 M)及びPGF(10−5 M)に対しては影響を与えませんでした。これらの結果を裏付けるように、DHA(4 × 10−5 M/6 × 10−5 M)は、U46619(10−9–10−6 M)及びPGF(10−8–10−5 M)の濃度応答曲線を濃度依存的に気管平滑筋の収縮反応を抑制しました。ただし、U46619/PGFに対するDHAのシルトプロット解析(注4)の回帰直線の傾きは1より大きいものであり、DHAの抑制効果には、プロスタノイドTP受容体拮抗作用に加えて、それ以外の機序が関与する可能性も示唆されました。対照的に、DHA(4 × 10−5 M)は、ACh(10−8–10−4 M)やヒスタミン(10−8–10−4 M)、LTD4(10−11–10−7 M)によって誘発される収縮反応に対しては有意な抑制効果を示しませんでした。これらの結果は、DHAがTXA2やPGFなどのプロスタノイドによって引き起こされる気管/気管支平滑筋の過収縮を抑制することで、これらのプロスタノイドの増加に関連する気管支喘息に対する治療薬となる可能性を示唆しています。

発表雑誌

    雑誌名
    「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2022年2月1日) 45巻2号、240–244

    論文タイトル
    Docosahexaenoic acid selectively suppresses U46619- and PGF-induced contractions in guinea pig tracheal smooth muscles

    著者
    Keisuke Obara, Rikako Inaba, Mirai Kawakita, Montserrat De Dios Regadera, Tomomi Uetake, Azusa Murata, Nanako Nishioka, Kota Kuroki, Kento Yoshioka, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1248/bpb.b21-00905

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1248/bpb.b21-00905

用語解説

(注1)プロスタノイドTP受容体
トロンボキサンA2(TXA2)に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドTP受容体に対する拮抗薬が喘息治療薬として臨床適応されている。

(注2)トロンボキサンA2(TXA2)、プロスタグランジンF(PGF
炎症時に産生されるプロスタノイド。気管支喘息患者や喘息発作時にこれらの産生が増加することが報告されている。

(注3)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注4)シルトプロット解析
競合的拮抗薬の効力を算出するための方法。拮抗薬の阻害様式が競合的である場合、その回帰直線の傾きは1となる。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学薬学部薬理学教室
講師 小原 圭将

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 
FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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