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プレスリリース 発行No.1178 令和4年1月6日

コロナ禍の中で出産した女性は心理不安が増大
新型コロナウイルス感染症流行前後の約4千人の調査から明らかに

 済生会横浜市東部病院、及び東邦大学らの研究グループは、厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業である「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究」(研究代表者 根本隆洋)において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行中における産後女性のメンタルヘルスの変化を明らかにしました。

 この研究成果は、2021年12月28日に国際学術誌「BMC Pregnancy and Childbirth」に掲載されました。

 本研究事業では、地域特性に対応したメンタルヘルスとそのケアシステムの在り方について、全国4か所における調査や実践活動を通じてその検討を続け、「メイシス」(MEICIS: Mental health and Early Intervention in the Community-based Integrated care System)とその活動プロジェクトを名付けています(https://meicis.jp/)。

発表者名

田久保 陽司 (済生会横浜市東部病院精神科 医員)
辻野 尚久  (済生会横浜市東部病院精神科 部長)
相川 祐里  (済生会横浜市東部病院精神科 公認心理師)
吹谷 和代  (済生会横浜市東部病院精神科 公認心理師)
岩井 桃子  (東邦大学医学部精神神経医学講座 公認心理師)
内野 敬   (東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)
伊藤 めぐむ (済生会横浜市東部病院産婦人科 産科部長)
秋葉 靖雄  (済生会横浜市東部病院産婦人科 レディースセンター長)
水野 雅文  (東京都立松沢病院 院長)
根本 隆洋  (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)

発表のポイント

  • COVID-19流行前後に済生会横浜市東部病院で出産された女性を対象として、「産後エジンバラうつ病質問票」と「赤ちゃんの気持ち質問票」の得点を比較しました。
  • 「COVID-19流行中群」では心理不安が著しく増大しており、妊産婦はコロナ禍でのストレス反応に伴って心理的過覚醒状態となっていることが示唆されました。
  • コロナ感染への心配や社会的サポートの不足が、不安の要因となっている可能性があり、本知見を踏まえて、WebやICT(情報通信技術)を活用した、メンタルヘルスの地域包括ケアシステムの構築が望まれます。

発表概要

 COVID-19流行前(2017年4月から2020年12月)と流行中に済生会横浜市東部病院の産婦人科で出産された女性を対象として、産後一か月健診時の産後エジンバラうつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale: 以下、EPDS)と赤ちゃんの気持ち質問票(Mother-to-Infant Bonding Scale: 以下、MIBS)の得点を調査しました。

 COVID-19流行中に、EPDSの不安に関連する項目の得点は有意に上昇し(図1)、一方、アンヘドニア(快楽消失)と抑うつの得点は有意に低下していました(図2、図3)。この結果から、コロナ禍の妊産婦は高い不安を抱えていることが明らかになりました。抑うつとアンヘドニアの得点は低下していましたが、これは必ずしも抑うつとアンヘドニアが軽微であることを意味しているのではなく、ストレス反応に伴う心理的過覚醒状態(注1)を反映している可能性が考えられます。本研究の結果から、感染への不安の軽減を含めた、コロナ禍を踏まえた妊産婦のメンタルヘルスに対応したケアが重要であり、WebやICT(情報通信技術)を活用した地域包括ケアシステムの構築とその普及啓発が望まれます。

発表内容

 日本において、COVID-19パンデミックが周産期女性のメンタルヘルスに与えた影響を詳細に調査した報告はほとんどありませんでした。そこで、済生会横浜市東部病院で出産した女性を対象とした、産後一か月健診時の産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)と赤ちゃんの気持ち質問票(MIBS)に関する継続的データベースを用いて、その影響を調査しました。出産時期を日本初のコロナ感染事例が発生した2020年1月16日を境として、「COVID-19流行前群」の2017年、2018年、2019年の3群と「COVID-19流行中群」の計4群に分け、EPDSとMIBSの得点をこれらの4群で比較しました。

 EPDSとMIBSの全項目の平均総得点については、4群間で統計学的に有意な差は認められませんでした。また、EPDSとMIBSのカットオフを上回った割合(産後うつ病とボンディング不全が示唆される割合)も、4群間で有意な差は認められませんでした。しかし、より具体的な内容を示す下位項目の平均得点を4群間で比較したところ、COVID-19流行中群は、EPDSの不安に関連する項目得点に有意な上昇が認められ(図1)、一方、アンヘドニアと抑うつに関連する項目得点は有意に低下していました(図2、図3)。このことから、ストレスや潜在的な脅威に対する防御反応としての心理的過覚醒状態にあることが示唆されました。本研究から、COVID-19パンデミックが産後女性のメンタルヘルスに与える影響は少なくないといえ、種々の精神疾患の発症を考慮し、その予防に努めたり、発症後においてはその予後を改善したりすることが望まれます。一方で、種々の要因で援助希求が困難になり、介入の遅れに繋がることが懸念されます。

 妊産婦は心理社会的にも大きな変化が生じる時期であることから、不安や抑うつなどが出現しやすく、本研究の結果から、COVID-19流行中はそれ以前と比較してさらに不安が増大していることが明らかになりました。不安の増大は必ずしも精神疾患の罹患を意味するものではなく、コロナ禍関連の種々の要因によるサポート不足などによって、「育児の方法がわからない」など現実的な問題に直面したことによる可能性もあります。これらの不安を解消するためには医療レベルの対応だけでなく、地域での保健や福祉、行政レベルでの対応も検討していく必要があり、まさに地域包括的なケアとサポートが求められるところですが、当事者とその家族にとって、適切な相談機関を見つけることは容易ではありません。そこでMEICISにおいては、地域相談機関検索サイト「MEICISメンタル相談室」ウェブサイトを作成し、産後の女性のセルフチェックと人工知能の自動回答によって、ニーズを絞り込めるシステムの開発も試みています。本研究の結果から、コロナ禍に対応した妊産婦ケアの重要性が示され、リモート環境を考慮しWebやICT(情報通信技術)を活用した地域包括ケアシステムの構築と普及啓発が必要であると考えられます。

用語解説

(注1)心理的過覚醒状態
ストレスシステムが介在しておこる潜在的な脅威に対しての防御反応

発表雑誌

    雑誌名
    「BMC Pregnancy and Childbirth」(2021年12月28日)

    雑誌URL
    https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com

    論文タイトル
    Psychological impacts of the COVID-19 pandemic on one-month postpartum mothers in a metropolitan area of Japan

    著者
    Youji Takubo, Naohisa Tsujino*, Yuri Aikawa, Kazuyo Fukiya, Momoko Iwai, Takashi Uchino, Megumu Ito, Yasuo Akiba, Masafumi Mizuno, Takahiro Nemoto(*責任著者)

    DOI番号
    10.1186/s12884-021-04331-1

    論文URL
    https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-021-04331-1

添付資料

図1.産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)の不安項目の平均得点の変化

図2.産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)のアンヘドニア項目の平均得点の変化

図3.産後エジンバラうつ病質問票(EPDS)の抑うつ項目の平均得点の変化

解析対象人数2017年:706人、2018 年:1142人、2019年:996人、2020 年:1095人

以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学医学部精神神経医学講座
教授 根本 隆洋

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表) 
Email: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。

【報道に関するお問い合わせ】
済生会横浜市東部病院 広報推進室

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