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プレスリリース 発行No.1174 令和3年12月2日

ケルセチンは筋小胞体カルシウムポンプ活性化により心筋弛緩を促進し、
糖尿病で生じる心筋弛緩機能障害を改善する

 東邦大学薬学部薬物学教室の田中光教授、濵口正悟講師らの研究グループは、ケルセチンが筋小胞体カルシウムポンプ(注1)の活性化により心筋弛緩(注2)を促進し、糖尿病で生じる心筋弛緩機能障害(注3)に対して改善作用を示すことを明らかにしました。この研究成果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」にてFeatured Articleとして推薦され、2021年12月1日に掲載されました。

発表者名

濵口 正悟 (東邦大学薬学部薬物学教室 講師)
行方 衣由紀(東邦大学薬学部薬物学教室 准教授)
田中 光  (東邦大学薬学部薬物学教室 教授)

発表のポイント

  • 本研究では、果物や野菜に含まれる成分ケルセチンの心筋弛緩機能障害に対する改善作用を、糖尿病マウスを用いて明らかにしました。
  • ケルセチンには、心筋弛緩において重要な役割を果たす筋小胞体カルシウムポンプに作用することによって、心筋弛緩機能を促進する働きがあると考えられました。
  • 今後、ケルセチンや関連化合物の薬理学的特性や臨床応用の可能性をさらに検討することで、新たな治療薬の開発につながることが期待されます。

発表概要

 心筋弛緩機能障害は高血圧や冠動脈疾患、糖尿病などに伴う心不全の原因となる主要な心臓疾患です。しかし、心筋弛緩機能障害をターゲットとした治療薬はいまだ存在しません。ケルセチンは果物や野菜に含まれるフラボノイドで、抗酸化作用や抗ウイルス作用、抗癌作用などが報告されています。しかし、心筋の弛緩機能に対するケルセチンの効果に関しては十分な検討が行われていませんでした。東邦大学薬学部薬物学教室の田中光教授、濵口正悟講師らの研究グループは、糖尿病マウスから摘出した心筋組織において、ケルセチンが心筋弛緩を促進すること、これが筋小胞体カルシウムポンプの活性化によるものであることを明らかにしました。この知見は、ケルセチンを含めた天然物由来の新しい治療薬の開発につながることが期待されます。

発表内容

 研究グループは、インスリン放出を担う膵臓β細胞を特異的に障害するストレプトゾトシンを用いて糖尿病マウスを作製し、マウスから摘出した心筋組織の弛緩機能に対するケルセチンの影響を検討しました。正常群と糖尿病群の弛緩時間を比較すると、糖尿病群において弛緩時間が延長しており、弛緩機能障害が引き起こされていることが確認されました。このような心筋組織に対してケルセチン(10µM、30µM)を処置すると、正常群、糖尿病群共に弛緩時間が濃度依存的に短縮しました。さらにケルセチンが弛緩時間の短縮をもたらす細胞内機序を明らかにする目的で、心筋弛緩に重要な役割を果たすトランスポーターであるナトリウムカルシウム交換機構と筋小胞体カルシウムポンプに着目し、それぞれの阻害薬を用いて検討しました。その結果、このケルセチンの弛緩時間短縮作用はナトリウムカルシウム交換機構の阻害薬であるSEA0400 (10µM)の前処置では抑制されず、筋小胞体カルシウムポンプの阻害薬であるcyclopiazonic acid (3µM)の前処置によって抑制されました。以上の結果から、ケルセチンは、筋小胞体カルシウムポンプの活性化を介して心筋弛緩を促進すること、糖尿病による心筋弛緩機能障害を改善しうることが明らかとなりました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Biological and Pharmaceutical Bulletin」Vol. 44, No.12, (2021), 1894-1897

    論文タイトル
    Positive Lusitropic Effect of Quercetin on Isolated Ventricular Myocardia from Normal and Streptozotocin-Induced Diabetic Mice

    著者
    Shogo Hamaguchi*, Kohei Abe, Momoka Komatsu, Jun Kainuma, Iyuki Namekata, and Hikaru Tanaka

    DOI番号
    10.1248/bpb.b21-00580

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1248/bpb.b21-00580

用語解説

(注1)筋小胞体カルシウムポンプ
収縮時に高まったカルシウムを筋小胞体内に回収するトランスポーターで、細胞質内のカルシウム濃度を下げることで心筋弛緩を引き起こす役割を果たす。

(注2)心筋弛緩
心臓は収縮弛緩を絶えず繰り返しており、弛緩時に血液を心臓内に蓄え、収縮によって蓄えた血液を全身に送り出すことでポンプ機能を果たしている。

(注3)心筋弛緩機能障害
弛緩機能が障害されると、全身に送り出すための血液を十分に蓄えられなくなり、結果として送り出す血液量が減少するため、心不全につながる。

添付資料

図1. 本研究成果の概略図
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部 薬物学教室
講師 濵口正悟

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TEL: 047-472-2106
FAX: 047-472-2113
E-mail: shogo.hamaguchi[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/shinkin/index.html

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