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プレスリリース 発行No.1164 令和3年10月26日

ジンチョウゲ科アオガンピ属植物から抗HIV活性物質を発見

 東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンター、ノースカロライナ大学薬学部との国際共同研究により、ジンチョウゲ科アオガンピ属植物Wikstroemia lamatsoensisがヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製を阻害する物質を含むことを初めて発見しました。今後さらなる研究の遂行により、優れた抗HIV活性をもつ新規HIV感染症治療薬の創製に活用できる創薬シーズの発見が期待されます。この成果は2021年8月17日にアメリカ化学会の学術誌「Journal of Natural Products」にて公開されました。また、本成果は掲載号のカバーイラストにも選出されました。

発表者名

張 米(東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程1年)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
小池 一男(東邦大学 名誉教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)

発表のポイント

  • ジンチョウゲ科アオガンピ属植物Wikstroemia lamatsoensisにチグリアン型ジテルペノイドが含まれることを発見し、それらが強い抗HIV活性を有することを明らかにしました。
  • これまでに研究されていないWikstroemia lamatsoensisについて、抗HIV活性物質を含むことを初めて報告しました。
  • 今後アオガンピ属植物に含まれる生物活性ジテルペノイドの更なる解明により、新しいHIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。

発表概要

 ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しています。この科の植物には抗がん、抗HIVなどの優れた生物活性を有するチグリアン型やダフナン型ジテルペノイド(注1)が特徴的に含まれています。ジンチョウゲ科の属の一つである、アオガンピ(Wikstroemia)属植物は約70種が知られていますが、そのうち数種の植物についてしか研究は行われていません。中でもジテルペノイドに関する研究はほとんどありません。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学、米国のデューク大学メディカルセンター、ノースカロライナ大学薬学部との国際共同研究により、ジンチョウゲ科アオガンピ属植物Wikstroemia lamatsoensisから新規化合物2種を含む計8種のチグリアン型ジテルペノイドを単離精製し、それらの抗HIV活性を明らかにしました。今回得られた知見により、今後アオガンピ属植物の生物活性ジテルペノイドのさらなる解明、そして新しいHIV感染症治療薬の創薬シーズ(注2)の発見が期待されます。

発表内容

 ジンチョウゲ科植物には、多環性あるいはマクロ環構造を持つ骨格に高度酸化された官能基またはアシル基を有するチグリアン型やダフナン型ジテルペノイドが特徴的に含まれています。これらジテルペノイドは、抗がん、抗HIV、抗炎症および鎮痛などの優れた生物活性を有することがこれまでに報告されています。ジンチョウゲ科アオガンピ(Wikstroemia)属植物は東アジア、マレーシア、オーストラリア、ハワイに分布しています。その一種であるWikstroemia lamatsoensisは主に中国の雲南省に分布しており、中国では金絲桃蕘花(キンシトウジョウカ)と呼ばれています。標高2600-3200mにある河谷に生育する低木で、芳香のある黄色い花を咲かせるのが特徴です。これまでにW. lamatsoensisに関する研究は報告されておらず、本植物に含まれる生物活性ジテルペノイドに着目した化学成分研究は初めてのものとなります。
中国雲南省にて採取したW. lamatsoensisの全木を乾燥した後、細かく刻み、95%エタノールを用いて成分を抽出しました。抽出エキスについてまず液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いた成分分析を行い、8種のジテルペノイドと推定されるピークを検出しました。そのうち5本のピークについては精密質量分析による組成式推定および同属植物であるW. scytophyllaから単離したジテルペノイド標準品との保持時間の比較によりいずれもチグリアン型ジテルペノイドであると推定しました。残りの3本のピークについては今までに単離したことのないジテルペノイド成分であったため、LC-MS分析の結果に基づいて単離精製を行いました。
 W. lamatsoensisの抽出エキスを、オクタデシルシリル(ODS)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により2種の新規化合物(図1, 化合物1, 2)を含む計8種のチグリアン型ジテルペノイドを単離しました(図2)。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析により平面構造および相対配置を決定し、電子円二色性(ECD)スペクトルの測定により絶対配置を決定しました。さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、3種の化合物が強い抗HIV活性を示し、チグリアンのB環構造が抗HIV活性の発現に大きく影響することが明らかになりました。特に、B環に6(7)-ene構造を有するチグリアンは抗HIV活性に最も有効であることが示されました。
 HIV感染症は発見から30年以上経った今でも依然として世界における公衆衛生上の大きな問題となっています。既存の抗HIV薬による多剤併用療法(ART)では潜伏期のHIVを体内から完全に駆除出来ないため、生涯に渡って抗ウイルス薬の継続服用が必要となります。そのため、HIV感染症の根治を目指した新規抗HIV薬の創製は急務とされています。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Natural Products」(2021年8月17日)
    2021年84巻8号、2366–2373

    論文タイトル
    LC-MS Identification, Isolation, and Structural Elucidation of Anti-HIV Tigliane Diterpenoids from Wikstroemia lamatsoensis

    著者
    Mi Zhang, Kouharu Otsuki, Takashi Kikuchi, Zi-Song Bai, Di Zhou, Li Huang, Chin-Ho Chen, Susan L. Morris-Natschke, Kuo-Hsiung Lee, Ning Li*, Kazuo Koike, Wei Li*

    DOI番号
    10.1021/acs.jnatprod.1c00570

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1021/acs.jnatprod.1c00570

用語解説

(注1)ジテルペノイド
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。

(注2)創薬シーズ
新薬の開発において、治療に有効な新規物質のことを指す。新薬の種といえる物質のこと。

添付資料

図1. Wikstroemia lamatsoensisより単離したチグリアン型ジテルペノイド

図2. Journal of Natural Products誌に掲載されたカバーイラスト
(今回の研究で使用した植物および単離した化合物の構造式)

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李 巍

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