プレスリリース 発行No.1154 令和3年9月7日
モデルシミュレーションでの効果検証を実施
− 新たなニューロフィードバック法の臨床応用に期待 −
概要
研究の背景
現在、脳波やfMRI(functional magnetic resonance imaging)などの脳生理学的指標を用いたADHDの神経ネットワーク特性の解明を目指した研究が進められる一方、数理的な神経ネットワークモデルでADHDの神経ダイナミクスを記述し、そのモデルからADHDの神経基盤を解明しようとする試みが進んでいます。
例えば、Baghdadiらはシミュレーションモデルとして、興奮性および抑制性ニューロン集団で構築される前頭野と感覚野の神経ネットワークをモデル化し、前頭野から感覚野への神経経路の結合が弱まった場合に、前頭野の神経活動がカオス-カオス間欠性(Chaos-Chaos Intermittency: CCI)状態に遷移することを示しました[4]。このCCI状態は前頭野の神経活動が2つの活動状態をカオス的に遷移するものであり、このモデル(以降ではBaghdadiモデルと呼ぶ)により生成された挙動は、実際のADHD患者における注意機能障害と高い整合性を示します[4、5、6]。
研究内容
今後の展望
用語の説明
脳を構成する神経細胞(ニューロン)間の情報伝達を担うシナプスが、繰り返しの学習や訓練によって機能強化される機構のことです。
(2)カオス共鳴
現在までに行われた確率共鳴(stochastic resonance)や確率促進理論(stochastic facilitation theory)の膨大な研究成果から、脳は、時空間的な神経活動のゆらぎを積極的に利用することで脳機能を実現していることが分かっています。私たちの研究では、脳の内的なダイナミクスによって生成されるゆらぎを脳におけるカオスとして捉えています[10]。しかし、多くの精神疾患ではゆらぎの最適化が十分に機能しない状態となっており、今回のADHDの神経ダイナミクスを記述したBaghdadiモデルも最適化されていないカオス挙動を示しています。本研究では、RRO法によりカオス挙動を残しつつ、基準信号に同期しやすいカオス共鳴状態に遷移させて正常な神経ダイナミクスを実現させています。
引用文献
[2] Sigurdardottir, H. L., et al. "Association of norepinephrine transporter methylation with in vivo NET expression and hyperactivity–impulsivity symptoms in ADHD measured with PET." Molecular psychiatry 26.3 (2021): 1009-1018.
[3] Van Doren, Jessica, et al. "Sustained effects of neurofeedback in ADHD: a systematic review and meta-analysis." European child & adolescent psychiatry 28.3 (2019): 293-305.
[4] Baghdadi, Golnaz, et al. "A chaotic model of sustaining attention problem in attention deficit disorder." Communications in Nonlinear Science and Numerical Simulation 20.1 (2015): 174-185.
[5] Gonen-Yaacovi, Gil, et al. "Increased ongoing neural variability in ADHD." Cortex 81 (2016): 50-63.
[6] Michelini, Giorgia, et al. "Shared and disorder-specific event-related brain oscillatory markers of attentional dysfunction in ADHD and bipolar disorder." Brain topography 31.4 (2018): 672-689.
[7] Nobukawa, Sou, and Natsusaku Shibata. "Controlling chaotic resonance using external feedback signals in neural systems." Scientific reports 9.1 (2019): 1-9.
[8] Vandewalle, Gilles, et al. "Daytime light exposure dynamically enhances brain responses." Current Biology 16.16 (2006): 1616-1621.
[9] Newman, Daniel P., et al. "Ocular exposure to blue-enriched light has an asymmetric influence on neural activity and spatial attention." Scientific reports 6.1 (2016): 1-11.
[10] Nobukawa, Sou, and Haruhiko Nishimura. "Synchronization of chaos in neural systems." Frontiers in Applied Mathematics and Statistics 6 (2020): 19.
原著論文情報
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雑誌名
Frontiers in Computational Neuroscience(公開日: 9月1日)
論文題目
An Approach for Stabilizing Abnormal Neural Activity in ADHD Using Chaotic Resonance
著者
Sou Nobukawa, Nobuhiko Wagatsuma, Haruhiko Nishimura, Hirotaka Doho and Tetsuya Takahashi
URL
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fncom.2021.726641/
研究経費
添付資料
図1 ADHDの神経ダイナミクスを再現するBaghdadiモデルへの軌道領域減少法(RRO法)の適用。
図2 RRO法によって実現されたカオス共鳴状態。適度なRROフィードバック強度によって、正常な神経活動(基準信号)との相関がピーク(図上部の点線部分)となる。すなわち、ADHDの乱れた前頭野の神経ダイナミクスが正常なダイナミクスに近づくことが確認できる。
お問い合わせ先
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我妻 伸彦(ワガツマ ノブヒコ)
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