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プレスリリース 発行No.1152 令和3年8月19日

ドコサヘキサエン酸(DHA)はプロスタノイドTP受容体を抑制することで
冠動脈および脳底動脈の収縮反応を即時的に抑制する

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、魚油に多く含有されるドコサヘキサエン酸(DHA)が冠動脈および脳底動脈のプロスタノイドTP受容体(注1)を介した収縮反応を即時的かつ強力に抑制することを見出しました。この研究成果は、雑誌「European Journal of Pharmacology」に掲載予定(2021年10月5日)です。なお、オンライン版には2021年7月28日に先行公開されております。

発表者名

吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • DHAは、長期摂取により抗炎症作用を発揮し循環器系疾患による死亡リスクを低下させることが知られています。しかし、れん縮の多発部位でありCa拮抗薬などの治療薬の標的部位でもある冠動脈や脳動脈などの機能性血管ではDHAの即時的な作用に関する研究がほとんどされていませんでした。
  • 本研究では、DHAがブタ冠動脈および脳底動脈のプロスタノイドTP受容体を介した収縮反応を選択的かつ強力に抑制することを見出し、ヒトのプロスタノイドTP受容体を発現させた細胞を用いた実験においても、DHAがプロスタノイドTP受容体を介した細胞応答を選択的に抑制することを明らかにしました。
  • プロスタノイドTP受容体は冠動脈や脳動脈の異常収縮と関連する可能性が指摘されています。本研究結果は、DHAがプロスタノイドTP受容体シグナリングを即時的かつ選択的に抑制することで、トロンボキサンA2や収縮性プロスタグランジン類が誘発因子となって発生する冠動脈や脳動脈の異常収縮、さらにこれに起因する循環器系疾患を予防できる可能性を示しています。

発表概要

 ドコサヘキサエン酸(DHA)は、魚油に豊富に含有されるn-3多価不飽和脂肪酸であり、健康食品やサプリメントの成分としても比較的認知度の高いものです。DHAの長期摂取は、高血圧症をはじめとする循環器系疾患に対して予防効果を示すことが古くから報告されていました。DHAの長期摂取による予防効果は、一般には、プロスタノイドなどの炎症性物質の産生抑制によってもたらされると説明されてきました。しかし、血管の緊張性に対するDHAの即時的な効果に関しては十分な検討が行われていませんでした。今回、東邦大学薬学部薬理学教室の吉岡健人助教、小原圭将講師、田中芳夫教授らの研究グループは、狭心症や脳血管れん縮などの循環器系疾患の発症部位である冠動脈および脳底動脈において、DHAがプロスタノイド類による収縮反応を選択的かつ強力に抑制することを見出し、これがプロスタノイドTP受容体に対する抑制作用によるものであることを解明しました。今回の研究結果は、DHAの摂取が冠動脈や脳底動脈の異常収縮を契機とする循環器系疾患に対して有効な予防効果を発揮する可能性を示すとともに、DHAの循環器系保護効果の一部にプロスタノイドTP受容体に対する抑制効果が関与する可能性を初めて明らかにしたものです。

発表内容

 東邦大学薬学部薬理学教室の研究グループは、マグヌス法(注2)を用いて、ブタ心臓および脳から摘出した冠動脈・脳底動脈の収縮反応に対するドコサヘキサエン酸(DHA)の抑制効果を検討しました。その結果、DHAが、U46619(プロスタノイドの一つであるトロンボキサンA2の合成類似体)、プロスタグランジン(PG)Fにより誘発される冠動脈・脳底動脈の収縮反応を濃度依存的かつ即時的に抑制することを見出しました。また、U46619及びPGFにより誘発される冠動脈・脳底動脈の収縮反応がプロスタノイドTP受容体の選択的拮抗薬(SQ 29,548)により強力に抑制されること、DHAがTP受容体を介さない収縮反応、例えば、高カリウムによる脱分極性収縮反応やアセチルコリンやヒスタミンによる収縮反応に対してはほとんど抑制効果を示さなかったことから、DHAによる抑制効果がTP受容体を介した収縮反応に対して選択的に発揮されることを突き止めました。そして、この推測の妥当性とヒトの受容体での再現性を検証する目的で、ヒトのプロスタノイドTP受容体を遺伝子組み換え技術により強制的に発現させた細胞を作製し、DHAの抑制効果を細胞内Ca2+の濃度変化を指標として検討しました。その結果、ヒトのプロスタノイドTP受容体を強制発現させた細胞においても、DHAがU46619及びPGFによって引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇を強力に抑制することを明らかにしました。一方、驚くべきことに、ヒトのプロスタノイドFP受容体(注3)を強制発現させた細胞では、DHAはPGFによって引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇をほとんど抑制しませんでした。以上の結果から、DHAはTP受容体およびTP受容体シグナリング経路を標的としてこれを選択的に抑制することにより、プロスタノイドによってもたらされる冠動脈や脳動脈の収縮を抑制すること、そしてこれがヒトにおいても成立する可能性が強く示されました。
 プロスタノイドTP受容体は血小板の凝集のほか血管の異常収縮にも深く関わると考えられています。例えば、狭心症患者ではプロスタノイドTP受容体を刺激する最も代表的なプロスタノイドであるトロンボキサンA2の代謝物(トロンボキサンB2)の冠動脈循環血中の濃度が増加していることや、急性心筋梗塞の患者では冠動脈のプロスタノイドTP受容体の発現量が増加していることが報告されています。さらに、くも膜下出血後の患者ではトロンボキサンA2が脳血管の異常収縮に関与する可能性が指摘されています。したがって、DHAがTP受容体に対して選択的に抑制作用を示すことを見出した本研究結果は、DHAがトロンボキサンA2やPGFが原因となって引き起こされる冠動脈や脳動脈の異常収縮を抑制し、これを契機とする循環器系疾患を予防する可能性を示すものであるのと同時に、疫学調査や臨床試験によって示されてきた様々な循環器疾患に対するDHAの有効性の機序の一端を示しています。

発表雑誌

    雑誌名
    「European Journal of Pharmacology」(2021年10月5日)
      908巻、174371

    論文タイトル
    Docosahexaenoic acid inhibits U46619- and prostaglandin F-induced pig coronary and basilar artery contractions by inhibiting prostanoid TP receptors

    著者
    Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Shunya Oikawa, Kohei Uemura, Akina Yamaguchi, Kazuki Fujisawa, Hitomi Hanazawa, Miki Fujiwara, Taison Endoh, Taichi Suzuki, Montserrat De Dios Regadera, Daichi Ito, Guanghan Ou, Keyue Xu, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1016/j.ejphar.2021.174371

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1016/j.ejphar.2021.174371

用語解説

(注1)プロスタノイドTP受容体
プロスタノイドのうち、トロンボキサンA2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。

(注2)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注3)プロスタノイドFP受容体
プロスタノイドのうち、プロスタグランジンFに対して比較的高い親和性を示す受容体。

添付資料

図1.本研究成果の概略図
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
助教 吉岡 健人

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