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プレスリリース 発行No.1150 令和3年8月6日

モンゴルの薬用植物から新種の放線菌を発見

 東邦大学薬学部微生物学教室の安齊洋次郎教授らの研究グループは、 モンゴル国立大学、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターとの共同研究で、新種の希少放線菌Actinocatenispora comari (アクチノカテニスポラ コマリ)NUM-2625T(図1)を発見しました。モンゴル自生の薬用植物Comarum salesowianum(コマルム サレソウィアヌム 図2)から分離された本菌株は、Actinocatenispora 属としては初めての植物からの分離となります。
 抗生物質などの医薬品の生産菌である放線菌の新種の発見は新たな創薬資源として期待されます。

 この成果は、2021年7月9日に 雑誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」にて公開されました。

発表者名

安齊 洋次郎(東邦大学薬学部微生物学教室 教授)
加藤 文男(東邦大学名誉教授)
福本 敦(東邦大学薬学部微生物学教室 講師)
飯坂 洋平(東邦大学薬学部微生物学教室 助教)
Javzan Batkhuu(モンゴル国立大学)
Bekh-Ochir Davaapurev(モンゴル国立大学)
Natsagdorj Oyunbileg(モンゴル国立大学)
田村 朋彦(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)
浜田 盛之(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)
Baljinova Tsetseg(モンゴル科学アカデミー)

発表のポイント

  • モンゴル自生の薬用植物Comarum salesowianumから希少放線菌の新種 Actinocatenispora comari NUM-2625Tを発見しました。
  • Actinocatenispora comari NUM-2625TActinocatenispora 属としては初めて植物から分離された放線菌です。
  • 新種発見の報告が少ないモンゴルからの新種の放線菌の発見は生物多様性に関する研究や新たな有用物質の探索研究に繋がることが期待されます。

発表概要

 土壌や植物など自然界に広く分布する放線菌(注1)は抗生物質などの有用物質の生産菌です。
東邦大学薬学部微生物学教室の安齊洋次郎教授らの研究グループは、学術交流協定(MOU)締結校であるモンゴル国立大学のJavzan Batkhuu教授らの研究グループと放線菌を用いた有用物質の探索研究をすすめており、その研究の一貫であるモンゴル自生の薬用植物に内生する放線菌の分離実験において、黄色いコロニーを形成するNUM-2625をComarum salesowianumから分離しました。さらに、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターの田村朋彦博士らと共にNUM-2625と既存菌種のゲノム配列などの比較を行い、このNUM-2625が希少放線菌 Actinocatenispora 属の新種であることを明らかにしました。Actinocatenispora 属はこれまでに3菌種の報告例がありますが、それらはいずれも土壌から分離された菌であり、NUM-2625は植物内から分離された初めてのActinocatenispora 属の菌種となります。モンゴルからの放線菌の新種の報告は少なく、この研究成果は生物多様性に関する研究や新たな有用物質の探索研究に繋がることが期待されます。

発表内容

 バラ科植物であるComarum salesowianumは中央アジアからカシミール、中国大陸西部、モンゴルに分布する薬用植物で、グラム陽性細菌に対する抗菌活性を有することが知られています。モンゴルのGovi-Altai県で採集されたComarum salesowianumの地上部を細かく刻み、植物内に生育する菌を分離するために70%エタノールと6%次亜塩素酸ナトリウム液で表面殺菌した小片をすりつぶし、その懸濁液を放線菌の選択培地であるフミン酸-ビタミン寒天培地に塗布して、28℃、3週間、培養したところ、黄色いコロニーが出現しました。
黄色いコロニーの菌株NUM-2625の分類学的な位置を判定するために16S rRNA 遺伝子(注2)の塩基配列を解読し、インターネットによるBLAST検索の結果、希少放線菌Actinocatenispora属の既存3菌種と高い相同性(97.7 - 99.4%)を示しました。さらに、関連菌種との16S rRNA 遺伝子の塩基配列を用いた近隣結合法による分子系統解析において、NUM-2625がActinocatenispora属の菌種であることが強く示唆されました(図3)。

 続いて、NUM-2625とActinocatenispora属の既存3菌種について、ゲノム配列情報を用いた比較を行った結果、Digital DNA–DNA hybridization (dDDH) ではNUM-2625と他の3菌種との相同性が23.3 – 44.7%(基準値:70%以下の場合は別種と判断される)、average nucleotide identity (ANI) 値は79.58 - 91.56%(基準値:95%以下の場合は別種と判断される)となり、NUM-2625は既存の3菌種とは別の種speciesとして区分されました。
 また、培養性状(図4)や菌体成分などの他の比較実験もゲノム配列の比較結果を支持するものとなり、NUM-2625がActinocatenispora属の新種であることが明らかになりました。
 NUM-2625はComarum属植物から分離されたことよりActinocatenispora comariと命名し、その基準種をActinocatenispora comari NUM-2625Tとしました。
 
 今回、新種の放線菌として発表したActinocatenispora comari NUM-2625Tからは有用物質の生産は確認されていませんが、放線菌は多様な物質の生産が特徴であり、その中には現在の医療に欠かすことのできない抗菌薬、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬などがあります。
一方、薬剤耐性菌の増加、新型コロナウイルス感染症などの新興感染症の発生が問題視される中、新薬開発の状況は十分とは言えません。今回の新種の希少放線菌の発見は、未開の地における生物多様性に関する研究だけでなく、新たな有用物質の探索研究、そして、新薬の開発へと繋がることが期待されます。

 本研究は、独立行政法人国際協力機構JICAによるモンゴル工学系高等教育支援事業M-JEEDの支援を受けて実施されました。本研究が本邦とモンゴル国との国際交流のさらなる発展にも寄与することが望まれます。

発表雑誌

    雑誌名
    「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」(2021年7月9日)

    論文タイトル
    Actinocatenispora comari sp. nov., an endophytic actinomycete isolated from aerial parts of Comarum salesowianum

    著者
    Oyunbileg N, Iizaka Y, Hamada M, Davaapurev B-O, Fukumoto A, Tsetseg B, Kato F, Tamura T*, Batkhuu J*, Anzai Y*(*責任著者)

    DOI
    10.1099/ijsem.0.004861

    アブストラクトURL
    https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijsem.0.004861

用語解説

(注1)放線菌
細菌の一分類群であるグラム陽性細菌に属し、細長い菌糸の伸長と胞子形成の形態的特徴とする細菌であり、多様な物質の生産も放線菌の特徴です。なお、現在の放線菌の分類は16S rRNA 遺伝子の塩基配列による分子系統分類に基づいているため、系統的に近縁な球菌などの菌群も放線菌に含まれます。また、希少放線菌は、放線菌のうちのStreptomyces属以外の非典型的放線菌を示します。

(注2)16S rRNA遺伝子
リボソームRNAである16S rRNAは細菌(原核生物)のリボソームの30Sサブユニットを構成するRNAであり、このRNAの塩基配列をコードする遺伝子を16S rRNA遺伝子と呼びます。

添付資料

図1.Actinocatenispora comari NUM-2625Tの走査型電子顕微鏡写真
図2.薬用植物Comarum salesowianum
図3.16S rRNA 遺伝子の塩基配列を用いた近隣結合法による系統樹
図4.Actinocatenispora comari NUM-2625Tおよび関連菌種の培養性状
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部微生物学教室
教授 安齊 洋次郎

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