プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1141 令和3年7月1日

ロスムンド・トムソン症候群の原因遺伝子産物RecQ4が DNA修復経路の選択に関与する可能性を報告
~ ロスムンド・トムソン症候群の病態解明に寄与 ~

 東邦大学薬学部分子生物学教室の多田周右教授・津山崇講師の研究グループは、ロスムンド・トムソン症候群で変異が見られるRecQ4(注1)タンパク質がDNA修復経路の選択に関与する可能性を示すとともに、ロスムンド・トムソン症候群の病態に迫る知見を報告しました。ロスムンド・トムソン症候群は早期老化症状や高発がん性を示す遺伝病であり、DNA修復の機能不全が病因の一つであると考えられています。本研究結果はDNA修復におけるRecQ4の役割だけでなく、ロスムンド・トムソン症候群の病因の解明にも貢献し、老化や発がんについての分子的な理解につながることが期待されます。この成果は6月30日に雑誌「Gene」に掲載されました。

発表者名

多田 周右(東邦大学薬学部分子生物学教室 教授)
津山 崇(東邦大学薬学部分子生物学教室 講師)

発表のポイント

  • ロスムンド・トムソン症候群の原因遺伝子産物RecQ4のN末側断片が、主要なDNA二本鎖切断修復経路である非相同末端結合修復を阻害することを見出しました。
  • RecQ4のN末側断片が、非相同末端結合修復に必須なタンパク質であるKu70のDNA二本鎖切断末端への結合を阻害し、この阻害は相同組換え修復に関与するセリン/スレオニンキナーゼのひとつ、ATMの酵素活性に依存することを見出しました。
  • ロスムンド・トムソン症候群の患者細胞では、RecQ4のN末側領域のみが機能していると推測されており、本論文の知見は、DNA二本鎖切断修復におけるRecQ4の役割だけでなく、ロスムンド・トムソン症候群の病因の解明にも貢献し、老化や発がんについての分子的な理解につながることが期待されます。

発表概要

 放射線や抗がん剤で生じるDNA二本鎖切断(DNA double-strand break: DSB)(注2)は最も重篤なDNA損傷であり、主に非相同末端結合修復と相同組換え修復の2つの修復経路のいずれかで修復されます。細胞にはこの2つの修復経路を状況に応じて使い分ける機能が備わっていると考えられ、近年その経路選択機構が注目を集めています。一方、早期老化症状や高発がん性を呈するロスムンド・トムソン症候群で変異が起こっているRecQ4タンパク質は、DSB修復経路で機能することが示されていましたが、その機能の詳細は明らかとなっていませんでした。東邦大学薬学部分子生物学教室の多田周右教授・津山崇講師の研究グループは、細胞(アフリカツメガエル卵)抽出液中でDSB修復系を再現することのできる実験系を確立し、これを用いた解析により、非相同末端結合修復と相同組換え修復の経路選択にRecQ4が関与することを示唆する結果を得ました。本研究結果はDNA修復におけるRecQ4の役割の解明だけでなく、ロスムンド・トムソン症候群の病態、さらには老化や発がんに対する分子的な理解につながることも期待されます。

発表内容

 放射線照射や一部の化学療法剤はDNA二本鎖切断(DSB)を誘発しますが、これが適切に修復されないと細胞死や染色体構造異常などが引き起こされます。DSBは主に切断末端を直接結合する非相同末端結合(non-homologous end joining: NHEJ)と、相同DNAを修復時の鋳型として用いる相同組換え(homologous recombination: HR)の2つの修復経路のいずれかで修復されます。NHEJでは、まずKu70/Ku80複合体(Ku)が切断末端を認識して結合し、DNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)を呼び込むことで切断されたDNA末端を連結する反応が開始されます。一方HRでは、まず種々のヌクレアーゼにより切断末端の一方のDNA鎖が削り込まれ、一本鎖DNAが生成されます。ここにRad51が結合することで、相同なDNA鎖を検索してDNA二本鎖の組み合わせを部分的に組換え、切断されていないDNA鎖を鋳型にしたDNA合成が行われます。これら2つの経路は相互に拮抗しますが、細胞は損傷の種類や修復時の細胞周期のステージに応じて適切な経路を選択する機能を有しています。
 一方、早期老化症状や高発がん性を示す遺伝病であるロスムンド・トムソン症候群で変異がみられるタンパク質として、DNAヘリカーゼであるRecQ4が同定されています。これまでの報告から、RecQ4がNHEJやHRを促進することが示されていましたが、その意義についてはほとんど明らかとなっていませんでした。
 研究グループは、アフリカツメガエル卵の抽出液を用いてRecQ4のDSB修復における機能について解析を行いました。まず、線状化したプラスミドDNAの卵抽出液中での環状化反応を検出することでNHEJの効率を評価できる新規実験系を確立し、この実験系を用いてNHEJの促進に必要なRecQ4の機能領域を同定することを試みました。このために、RecQ4をN末側領域、中央のDNAヘリカーゼ領域、C末側領域の3つの機能ドメインに分け、それぞれの組換えタンパク質を卵抽出液に添加したときにNHEJの効率に与える影響について調べました。その結果、N末側領域の断片を添加したときにNHEJの効率が有意に低下しました。次に、RecQ4のN末側断片がどのようにしてNHEJを阻害しているのかについて情報を得るため、DSB修復に関連するタンパク質のクロマチン結合に対するRecQ4のN末側領域の影響について調べました。卵抽出液に精子核クロマチンと制限酵素を添加して反応させることで、制限酵素の作用で生じたDSBに応じて、卵抽出液中のさまざまなタンパク質がクロマチンに結合します。その後クロマチンを単離し、このクロマチン上に結合した卵抽出液中のタンパク質を検出します。この実験により、RecQ4のほか、NHEJに関与するKu70、HRに関与するRad51のクロマチン上への結合が観察されました。ここに、RecQ4のN末側断片を添加するとKu70のクロマチン結合の減少と、Rad51のクロマチン結合の増加が観察されました。また、組換えタンパク質を用いた実験により、RecQ4のN末側領域とKu70が直接結合することが確認できました。RecQ4がNHEJを促進することはすでに報告されていましたが、今回の結果は、RecQ4によるNHEJの促進にはKu70との結合だけでなく、DNAヘリカーゼ領域やC末側領域による何らかの働きが必要であること、N末側領域だけが機能する場合には、Ku70との結合を通じてNHEJを阻害し、その一方でHRを促進することを示唆しています。
 DSBの修復には、DNA-PKやATMなどのPI3キナーゼ関連キナーゼ(PIKK)が関与することが報告されています。そこで、PIKKの関与を探る目的から、PIKK阻害剤であるWortmanninをこの実験系に添加してみました。その結果、N末側断片によるKu70のクロマチン結合の抑制が、Wortmanninの添加によって解除されました。さらに、この作用がDNA-PKとATMのどちらによるものなのかを特定するため、それぞれの酵素に対する特異的な阻害剤を用いて検討したところ、ATMを阻害したときにN末側断片によるKu70のクロマチン結合の抑制が解除される結果が得られました。このことから、RecQ4のN末側領域によるNHEJの阻害にATMが関与することが示唆されました。
 HRでは、相同な鋳型DNA鎖として複製後の姉妹DNAを利用することが多く、このため細胞周期のS期以降のDSB修復によく用いられます。一方、Kuは細胞内での発現量が一般に多く、DNA末端への親和性がきわめて高いため、細胞周期のステージによらずDSBで断裂したDNA末端に即座に結合することが知られています。KuのDNA末端への結合はHRの開始を妨げるため、HRを行うにはKuをDNA末端から取り除く必要があります。つまり、DSBによる断裂末端へのKuの結合は、DSB修復経路の選択において重要な要因の一つとなります。本研究において、RecQ4のN末側領域がKu70とRad51のクロマチン結合に影響を及ぼすことが示されました。このことより、RecQ4がN末側領域を介してKuのクロマチン結合を制御することにより、DSB修復経路の選択に関与する可能性が示されました。また、このRecQ4の作用が正常に働くためには、N末側領域以外の領域が必要となることが推測されました。
 ロスムンド・トムソン症候群の患者細胞では、RecQ4のN末側領域のみが機能していると考えられており、本研究で得られた知見は、DNA二本鎖切断修復におけるRecQ4の役割だけでなく、ロスムンド・トムソン症候群の病因の解明、さらには老化や発がんについての分子的な理解につながることが期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Gene」Volume 787, 2021, page 145647.

    論文タイトル
    N-terminal region of RecQ4 inhibits non-homologous end joining and chromatin association of the Ku heterodimer in Xenopus egg extracts

    著者
    Takashi Tsuyama, Kumiko Fujita, Ryosuke Sasaki, Shiori Hamanaka, Yuki Sotoyama, Akira Ogawa, Kana Kusuzaki, Yutaro Azuma, Shusuke Tada* (*責任著者)

    DOI番号
    10.1016/j.gene.2021.145647.

    アブストラクトURL
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33845136/

用語解説

(注1)RecQ4
RecQ4は、DNA二本鎖を一本鎖に巻き戻す酵素であるDNAヘリカーゼのひとつで、DNAの複製や修復などで様々な機能を果たしています。RecQ4の変異は、高発がん性や早期老化症状を示す種々の遺伝病の原因となります。

(注2)DNA二本鎖切断(DNA double-strand break: DSB)
DNA二本鎖のうち、両方のDNA鎖が同時に切断されるDNA傷害で、放射線照射やある種のがん化学療法剤によって引き起こされます。DSBは最も重篤なDNA傷害で、細胞内に一カ所でも修復されずに残っていると細胞死を引き起こします。

添付資料

図1. RecQ4のN末側領域はDSB修復経路の選択に関与する

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部分子生物学教室
教授 多田 周右

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1469 FAX: 047-472-1485
E-mail:s.tada[@]toho-u.ac.jp
URL:https://www.toho-u.ac.jp/phar/labo/rinka.html

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
Email: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。

関連リンク

  • 英文プレスリリース(press release)はこちら
※外部サイトに接続されます。