プレスリリース 発行No.1135 令和3年6月3日
精神病発症危険状態(ARMS)群の血清メタボロミクス解析
~ 健常者と濃度が異なる生体内物質を複数発見 ~
~ 健常者と濃度が異なる生体内物質を複数発見 ~
東邦大学薬学部薬品分析学教室の福島健教授と医学部精神神経医学講座の辻野尚久講師、田形弘実助教らの研究グループは、文書による本研究への参加同意を取得した精神病発症危険状態(ARMS)群(24名)ならびに健常対照群(23名)の血清30 µLずつを使用して、高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計により血清メタボロミクス解析を行い、ARMS群の血清では、幾つかの生体内物質の濃度が健常者に比べて異なることを発見しました。これにより、ARMSや統合失調症の病態解明に向けて新たな研究への展開が期待されます。この成果は、2021年3月28日に雑誌「Early Intervention in Psychiatry」にて公開されました。
発表者名
福島 健(東邦大学薬学部 薬品分析学教室 教授)
植草 秀介(東邦大学薬学部 臨床薬学研究室 助教)
辻野 尚久(東邦大学医学部 精神神経医学講座 講師)
田形 弘実(東邦大学医学部 精神神経医学講座 助教)
植草 秀介(東邦大学薬学部 臨床薬学研究室 助教)
辻野 尚久(東邦大学医学部 精神神経医学講座 講師)
田形 弘実(東邦大学医学部 精神神経医学講座 助教)
発表のポイント
- ARMSの血清を使ってメタボロミクス解析を行った結果、ARMS血清中イノシン濃度の上昇、タウリン濃度の減少、乳酸濃度の減少、グルタミン酸濃度の上昇などが分かりました。
- ARMSの血清メタボロミクス解析の試みは初の成果です。
- 将来的には、本研究結果が統合失調症発症前の段階における、より副作用の少ない予防的な介入方法の開発に役立つ可能性があります。
発表概要
幻覚や妄想(陽性症状)、感情鈍麻や引きこもり(陰性症状)、認知機能障害などを発現する統合失調症は、発症後できるだけ早い時期に適切な治療介入することで予後の改善に繋がります。さらに、発症する以前の精神病発症危険状態(At-risk mental state; ARMS)から治療介入することで予後が改善することが知られています。しかし、精神疾患は症候を中心に診断されるため、高血圧や糖尿病のような数値で表される客観的な指標がなく、症状が軽微な時点での早期発見や治療介入が困難でした。
そこで、東邦大学薬学部薬品分析学教室の福島健教授と植草秀介氏(当時 博士課程学生)、医学部精神神経医学講座の辻野尚久講師、田形弘実助教らの研究グループは、ARMS段階での生体内物質濃度の特徴を明らかにすることで、その早期介入におけるより有効な治療方法に繋がる可能性を考えました。ARMS群ならびに健常対照群の血清30 µLずつを使用して、高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計(注1)を使って、血清メタボロミクス(注2)解析を行い、ARMS群の血清では、幾つかの内因性物質の濃度がARMSの段階で健常者とは異なっていることを見出しました。これにより、不明な点が多いARMSの病態解明に関する研究が加速し、将来的には本研究結果が統合失調症発症前の段階における、より副作用の少ない予防的な介入方法の開発に役立つことが期待されます。
そこで、東邦大学薬学部薬品分析学教室の福島健教授と植草秀介氏(当時 博士課程学生)、医学部精神神経医学講座の辻野尚久講師、田形弘実助教らの研究グループは、ARMS段階での生体内物質濃度の特徴を明らかにすることで、その早期介入におけるより有効な治療方法に繋がる可能性を考えました。ARMS群ならびに健常対照群の血清30 µLずつを使用して、高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計(注1)を使って、血清メタボロミクス(注2)解析を行い、ARMS群の血清では、幾つかの内因性物質の濃度がARMSの段階で健常者とは異なっていることを見出しました。これにより、不明な点が多いARMSの病態解明に関する研究が加速し、将来的には本研究結果が統合失調症発症前の段階における、より副作用の少ない予防的な介入方法の開発に役立つことが期待されます。
発表内容
研究グループは、これまで報告がなかった精神病発症危険状態(ARMS)群における病態生理の特徴を見出す目的で、本研究内容について文書による研究参加同意を取得したARMS群(24名)ならびに健常対照群(23名)(男女比はほぼ1:1)の血清30 µLずつを使用して、低分子代謝物を網羅的に解析するノンターゲットメタボロミクスを検討しました。被験者は前夜21時以降食事せず、朝食前の8時~9時の空腹時に採血しました。
血清30 µLを使って簡単な前処理操作を施した血清試料を、超高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計(UHPLC-HRMS)により分析することで、血清に含まれる様々な低分子化合物の種類ならびにその濃度の情報を、インターネットに接続されたデータベースを通じて知ることができます。ARMS群ならびに健常対照群からのそれぞれ血清試料の膨大な数のデータを、部分最小2乗モデルを使った判別分析であるOrthogonal partial least squares-discriminant analysis(OPLS-DA)(図1)、変数の重要度を示すVariable importance for projection(VIP)等により、統計解析を行いました。その結果、得られた血清中生体内物質の種類と濃度のデータに基づき、ARMS群と健常対照群が良好に2つの群として分離されました。
次に、血清中生体内物質の中で、どの物質の濃度がARMS群と健常対照群の分離に寄与しているのかを視覚的に表すためにボルケーノ・プロット(注3)を取りました(図2)。その結果、生体内物質のイノシン(注4)、乳酸、タウリン(注5)およびグルタミン酸の血清中濃度の変動が、ARMS群と健常対照群の分離に寄与していることが分かりました。ARMS群血清における乳酸濃度の減少ならびにグルタミン酸濃度の上昇は、事前に乳酸やグルタミン酸をそれぞれ別の分析方法によって調べていた結果と同様の結果でした。今回、ノンターゲットメタボロミクスの手法を行ったことで、新たにARMS群血清ではイノシン濃度が上昇している一方で、タウリン濃度は減少していることが分かりました(図3)。
今回は、コロナ禍の影響もあり症例数を増やすことができませんでしたが、今後、症例数が増えるにしたがって、上述したメタボロミクス解析によって、今回の実験で見出された物質以外にもARMSの特徴を示す物質の発見が期待できます。
将来的には、まだ不明な点が多いARMSの病態生理に関する研究が加速し、本研究結果が、統合失調症発症前の段階におけるより副作用の少ない予防的な介入方法の開発に役立つ可能性があります。
血清30 µLを使って簡単な前処理操作を施した血清試料を、超高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計(UHPLC-HRMS)により分析することで、血清に含まれる様々な低分子化合物の種類ならびにその濃度の情報を、インターネットに接続されたデータベースを通じて知ることができます。ARMS群ならびに健常対照群からのそれぞれ血清試料の膨大な数のデータを、部分最小2乗モデルを使った判別分析であるOrthogonal partial least squares-discriminant analysis(OPLS-DA)(図1)、変数の重要度を示すVariable importance for projection(VIP)等により、統計解析を行いました。その結果、得られた血清中生体内物質の種類と濃度のデータに基づき、ARMS群と健常対照群が良好に2つの群として分離されました。
次に、血清中生体内物質の中で、どの物質の濃度がARMS群と健常対照群の分離に寄与しているのかを視覚的に表すためにボルケーノ・プロット(注3)を取りました(図2)。その結果、生体内物質のイノシン(注4)、乳酸、タウリン(注5)およびグルタミン酸の血清中濃度の変動が、ARMS群と健常対照群の分離に寄与していることが分かりました。ARMS群血清における乳酸濃度の減少ならびにグルタミン酸濃度の上昇は、事前に乳酸やグルタミン酸をそれぞれ別の分析方法によって調べていた結果と同様の結果でした。今回、ノンターゲットメタボロミクスの手法を行ったことで、新たにARMS群血清ではイノシン濃度が上昇している一方で、タウリン濃度は減少していることが分かりました(図3)。
今回は、コロナ禍の影響もあり症例数を増やすことができませんでしたが、今後、症例数が増えるにしたがって、上述したメタボロミクス解析によって、今回の実験で見出された物質以外にもARMSの特徴を示す物質の発見が期待できます。
将来的には、まだ不明な点が多いARMSの病態生理に関する研究が加速し、本研究結果が、統合失調症発症前の段階におけるより副作用の少ない予防的な介入方法の開発に役立つ可能性があります。
発表雑誌
-
雑誌名
「Early Intervention in Psychiatry」(2021年3月)
論文タイトル
Increased inosine levels in drug-free individuals with at-risk mental state: A serum metabolomics study
著者
Uekusa S, Onozato M, Umino M, Sakamoto T, Ichiba H, Tsujino N, Funatogawa T, Tagata H, Nemoto T, Mizuno M, Fukushima T*(*責任著者)
DOI番号
10.1111/eip.13148
論文URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eip.13148
用語解説
(注1)高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計(UHPLC-HRMS)
分子そのものをイオン化し、プラス(+)またはマイナス(-)の電荷をもたせて、その質量と電荷の比(質量電荷比)によって分離する装置。メタボロミクス解析を行うには、異なる分子同士を僅かな質量電荷比の違いでも識別できる高分解能質量分析計が必要。
(注2)メタボロミクス
体の中に存在している多くの生体内物質(主に低分子量の化合物)を一斉に網羅的に調べる研究手法。
(注3)ボルケーノ・プロット
個々の物質について、横軸にlog2 FC、縦軸に –log10 q-valueをプロットしたグラフ。
横軸はどのくらい差があるのかを示す指標、縦軸は大きい –log10 q-valueほど統計学的な違いがあることを意味するため、グラフの上隅に位置する物質ほど、2つの群間で異なっていること示している。
(注4)イノシン
ヒポキサンチンと五炭糖リボースが結合した生体内物質で、ヌクレオシドの1つである。生体内でつくられていて、肉類に多く含まれている。
(注5)タウリン
炭素が2つ結合したエタンの2つの炭素に、それぞれ塩基性の一級アミノ基と強酸性のスルホン酸基が結合した生体内物質。体にとっては良い作用(コレステロールを下げる等)が知られていて、疲労回復の栄養ドリンク成分としても加えられている。
分子そのものをイオン化し、プラス(+)またはマイナス(-)の電荷をもたせて、その質量と電荷の比(質量電荷比)によって分離する装置。メタボロミクス解析を行うには、異なる分子同士を僅かな質量電荷比の違いでも識別できる高分解能質量分析計が必要。
(注2)メタボロミクス
体の中に存在している多くの生体内物質(主に低分子量の化合物)を一斉に網羅的に調べる研究手法。
(注3)ボルケーノ・プロット
個々の物質について、横軸にlog2 FC、縦軸に –log10 q-valueをプロットしたグラフ。
横軸はどのくらい差があるのかを示す指標、縦軸は大きい –log10 q-valueほど統計学的な違いがあることを意味するため、グラフの上隅に位置する物質ほど、2つの群間で異なっていること示している。
(注4)イノシン
ヒポキサンチンと五炭糖リボースが結合した生体内物質で、ヌクレオシドの1つである。生体内でつくられていて、肉類に多く含まれている。
(注5)タウリン
炭素が2つ結合したエタンの2つの炭素に、それぞれ塩基性の一級アミノ基と強酸性のスルホン酸基が結合した生体内物質。体にとっては良い作用(コレステロールを下げる等)が知られていて、疲労回復の栄養ドリンク成分としても加えられている。
添付資料
[ (a)の図は、プラス(+)の電荷をもつ生体内物質、(b)の図はマイナス(-)の電荷をもつ生体内物質のボルケーノ・プロットで、(a)の図では、1がグルタミン酸、2がタウリン、4がイノシン、 (b)の図では1が乳酸、3がイノシン ]
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部 薬品分析学教室
教授 福島 健
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1504 FAX: 047-472-1504
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/phar/Analchem/index.html
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL:www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
関連リンク
- 英文プレスリリース(press release)はこちら