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プレスリリース 発行No.1128 令和3年4月19日

新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎の肺切除検体の解析
~後遺症のメカニズム解明に向けて~

 新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」⦅注1⦆)は後遺症や感染中の手術での高い死亡率など、未解明の領域が数多くみられます。東邦大学医学部外科学講座呼吸器外科学分野の伊豫田明教授・坂井貴志助教らの研究グループは、COVID-19肺炎治療後の肺癌患者に対して、適切な待機期間を設けることで安全に肺切除を施行することに成功しました。また、切除した肺を病理学的、免疫学的に解析した結果、感染から期間を経ていても肺には線維化や炎症細胞浸潤、血栓症など肺炎による変化が残っていたことを発見しました。この発見は、現在のところ原因不明とされている、COVID-19肺炎治療後の後遺症のメカニズム解明に繋がることが期待されます。
 この成果は2021年4月3日に General Thoracic and Cardiovascular Surgeryにて発表され、また、5月21日の日本呼吸器外科学会学術集会で今回の症例を含めた取り組みが発表されます。

発表者名

坂井 貴志(東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野 助教)
伊豫田 明(東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野 教授)
本間 栄 (東邦大学医学部びまん性肺疾患研究先端統合講座 教授(寄付講座))
舘田 一博(東邦大学医学部微生物・感染症学講座 教授)
岸 一馬 (東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 教授)
三好 嗣臣(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 助教)
若山 恵 (東邦大学医学部病院病理学講座 講師)
青木 弘太郎(東邦大学医学部微生物・感染症学講座 助教)
東 陽子 (東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野 講師)

発表のポイント

  • COVID-19肺炎治療後の肺癌患者に対し安全に手術が施行された
  • COVID-19肺炎治療後の肺の病理学的特徴における初めての報告である
  • COVID-19肺炎治療後の後遺症のメカニズム解明に繋がることが期待される

発表概要

 COVID-19感染の病態や治療方法は少しずつ明らかとなっていますが、未だに収束の目途は立たず、感染後の後遺症など、未解明の領域が数多くみられます。また、COVID-19感染中の患者に対する胸部外科手術の高い死亡率が報告されており、ガイドラインでは、コロナ禍においては緊急ではない胸部外科手術は待機的もしくは代替治療が提案されています。今回、研究グループは、COVID-19肺炎治療後の肺癌患者に対して、適切な待機期間を設けることにより安全に肺切除を行うことに成功しました。また、切除した肺を病理学的、免疫学的に解析することにより、感染性がなく安全に手術が出来る一方で、COVID-19肺炎治療後も血栓・線維化など特徴的な病理組織像が長期間残存していることを発見しました。今後これらの症例を集積することにより、胸部手術が必要な患者に対する適切な治療時期の指針の作成だけでなく、後遺症のメカニズム解明に役立つと考えられます。

発表内容

 COVID-19感染急性期における呼吸器外科手術は高い周術期死亡率が報告されているため、コロナ禍において、欧米のガイドラインでは緊急ではない呼吸器外科手術は待機的もしくは代替治療が提案されています。しかし、感染者数は未だに収束の兆しはみられず、今後はパンデミックに備えつつも予定手術を計画していく必要があります。また、COVID-19感染後の患者に対する呼吸器外科手術の増加が予想されるため、予防と対策、至適な手術時期について一定の見解が必要です。
 COVID-19感染の病態は少しずつではありますが明らかとなっており、治療方法やワクチンの開発が進んでいます。しかし、感染後の後遺症など未解明の部分が数多く残されており、早急な解明が必要とされています。
 今回、東邦大学医療センター大森病院では、COVID-19肺炎発症時に偶然発見された肺癌患者に対して手術を施行した症例を経験しました。患者は発熱と呼吸困難を主訴に入院し、CTで両側肺炎を認めたため酸素投与、アビガン、吸入ステロイドを用いて加療を行い改善しました。退院後に肺癌に対する治療を検討しましたが、COVID-19感染後の呼吸器外科手術における手術時期などの明確な指針はみられず、感染症科、呼吸器内科、麻酔科など関連診療科の協力のもと治療計画の立案と周術期管理を行いました。患者の全身状態、呼吸機能、PCR、画像所見などを詳細に検討し、退院後3か月間の待機期間を置くことにより、感染の蔓延、合併症なく手術を成功させることが出来ました。
 また、切除した肺を病理診断科、呼吸器内科とともに詳細に解析したところ、 COVID-19肺炎加療後は症状や画像所見上では肺炎像はほぼ消失していたにもかかわらず、血栓・線維化など特徴的な病理組織像が長期間残存していることが発見されました。一方で、切除検体にPCRを施行し陰性が確認されました。
 これらの結果から、患者の呼吸機能や全身状態を含めた総合的な判断のもと、適切な待機期間を置くことで、患者・医療従事者ともに安全に手術を施行することが出来ることが示唆されました。また、肺炎治療後も線維化や炎症、血栓症など、呼吸困難などの原因となりうる病理組織像が長期間残存していることを発見したことは、COVID-19治療後の後遺症のメカニズム解明に寄与する可能性が示唆されました。

発表雑誌

    雑誌名
    「General Thoracic and Cardiovascular Surgery」(オンライン版:2021年4月3日)

    論文タイトル
    Elective Lung Resection after Treatment for COVID-19 Pneumonia

    著者
    Takashi Sakai, Yoko Azuma, Kotaro Aoki, Megumi Wakayama, Shion Miyoshi, Kazuma Kishi, Kazuhiro Tateda, Sakae Homma, Akira Iyoda*

    DOI番号
    10.1007/s11748-021-01630-4

    アブストラクトURL
    http://link.springer.com/article/10.1007/s11748-021-01630-4

用語解説

(注1)COVID-19
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019)

添付資料

【切除した肺の病理学的特徴】
(A、B)胸膜直下に広範に指摘された線維化(A:HE染色、B:EVG染色)(C、D)肺胞中隔の一部にも同様の線維化がみられた(C:HE染色、D:EVG染色)(E)所々に確認された好中球、リンパ球、形質細胞、好酸球など種々の炎症細胞浸潤(F)肺の末梢血管内に指摘された器質化血栓像(EVG染色)
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野
教授 伊豫田 明

〒143-8541 大田区大森西6-11-1
TEL: 03-3762-4151(内線: 6550)
FAX: 03-3766-3551
E-mail: aiyoda[@]med.toho-u.ac.jp
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/resp_surgery/

【本ニュースリリースの発信元】
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