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プレスリリース 発行No.1122 令和3年3月1日

酸素に富む地球環境の持続期間は約10億年

 東邦大学理学部生命圏環境科学科の尾﨑和海講師とジョージア工科大学の日米研究チームは、酸素に富む地球環境の持続期間が残り約10億年であることを明らかにしました。

研究成果のポイント

  • 将来の太陽進化の結果として地球表層環境が徐々に貧酸素化していくことを明らかにしました。
  • 大気中の酸素濃度は約10億年後を境に大きく低下すると予測され、酸素呼吸を行う多細胞生物の生存が困難になると考えられます。
  • 現在の富酸素な環境が永続的に維持されるものではないことを初めて明らかにしたものであり、太陽系外の生命探査に対して重要な問題提起を行うものです。

発表概要

 地球の酸素(O2)に富む大気は、生命が惑星環境に多大な影響を及ぼしていることを表す最も顕著な例となっています。しかしながら、このような環境が今後どれくらいの期間にわたって維持されるのかという問題はこれまで定量的に評価されていませんでした。研究チームは、地質学的時間スケールで大気中の酸素量を規定するプロセスを包括的に考慮した数値モデルを開発し、未来の地球環境変化を予測するための数値実験を行いました。
 その結果、太陽光度の増大によって引き起こされる温暖化と大気中二酸化炭素濃度の低下によって生命圏の一次生産が低下することで、徐々に貧酸素化が進行することが分かりました。とくに、約10億年後を境に急速に酸素の乏しい状態へ遷移すると予測され、これ以降は酸素呼吸を行う多細胞生物の生存は困難になると考えられます。

 本研究成果は、現在のような酸素に富んだ地球環境が永続的に続くものではないことを初めて定量的に明らかにしたものであり、太陽系外の生命探査計画にも影響を与える重要な成果です。
 本研究成果は、Nature Geoscience誌の電子版に3月2日に掲載されました。

発表者名

尾﨑 和海 (東邦大学理学部生命圏環境科学科 講師)

発表内容

 現在の地球の大気海洋中には酸素(O2)が豊富に含まれており、豊かな生態系が形成されています。酸素に富む地球表層環境が実現していることは、生命が惑星全体の環境に大きく影響していることを示す最も顕著な例となっており、地球以外の惑星での生命存否を示すシグナル(バイオシグネチャー;注1)としても注目されています。現在と同レベルの酸素濃度はおよそ4.5~4.3億年前(古生代オルドビス紀からシルル紀にかけて)に実現したと考えられています。しかしながら、このような環境がいつまで維持されるのかということはよく分かっていません。この問題は地球生命圏の存続期間に関わるだけでなく、太陽系外での“第2の地球”探査を行う上でも重要な研究課題となっています。
 酸素は主に藻類や陸上植物による光合成によって生成されますが、地質学的な時間スケールでの大気海洋中の酸素量は、光合成以外のさまざまな生物地球化学的作用(たとえば水中や土壌中での有機物分解や硫化鉄の沈殿、岩石の風化作用や火山性還元ガスの流入など)によって影響されます。研究チームは、酸素量を規定している地球表層圏の物質循環過程を包括的に考慮した数値モデルを構築し、酸素に富んだ地球環境の持続期間を明らかにするための数値実験を行いました。数値モデルには地球外要因(恒星進化の理論から予測される太陽光度変化)と地球内要因(火成活動の変化や生態系の応答など)が考慮されており、40万を超える多数の実験を行うことで富酸素な地球環境の持続期間を統計的に推定しました。
 その結果、太陽光度の増大に起因した温暖化と大気中二酸化炭素濃度の低下によって生態系の一次生産が低下することで、徐々に貧酸素化が進行することがわかりました(図1a青線)。具体的には、現在の10%以上の酸素濃度が維持される期間は残り10.5±1.6億年と推定され、その後急速に無酸素条件へ遷移すると予測されました(図1b)。パスツール点(注2)と呼ばれる現在の1%の酸素濃度の持続期間は10.8±1.4億年と推定され、これ以降は好気性の多細胞生物の生存は困難となります。また、無酸素化に伴いオゾン層の消失、大気中二酸化炭素濃度とメタン濃度の急増、気温の急増が生じ、生態系の一次生産が激減すると予測されました(図2)。
 数値モデルの結果は、長期的な貧酸素化が究極的には太陽進化によって駆動されていることを示しています。このことは、太陽光度を一定とした場合の計算では貧酸素化の長期トレンドが生じないことから明らかです(図1a灰色線)。一方、急激な酸素濃度の低下が起きるタイミングは、地球表層(大気—海洋—地殻)と地球内部(マントル)の間での物質循環を介した相互作用によって影響されることも分かりました(図3)。地球内部からの還元力の供給率が大きい場合(マントルからの還元物質の流入や沈み込み帯での酸化物質の沈み込みが大きい場合)ほど、酸素に富む地球環境の持続期間は短くなると予想されます。

 本研究成果で得られた酸素に富む地球環境の持続期間の推定値には、1億年以上の大きな不確定性が残っています。不確定性を小さくするためには生態系の応答特性や進化、地球内部との物質循環の素過程などについてさらなる理解が必要です。しかしながら、現在のような酸素に富む地球環境が永続的に続くものではないことが初めて定量的に示されたことは重要な研究成果といえます。本研究結果に基づくと、現在の10%以上の酸素濃度が維持される全期間は約15億年間(約5億年前から10億年後まで)と見積もられます。地球環境がハビタブルな(生命生存に適した)状態にある期間は最大でおよそ74億年間(およそ44億年前から30億年後)と考えられることから、富酸素な地球環境は全ハビタブル期間の約20%を占めるに過ぎないということになります(図4)。酸素は太陽系外惑星での生命探査で最も注目されるバイオシグネチャーですが、本研究成果は、地球のような惑星においても貧-無酸素な状態が歴史の大半を占める可能性を示しています。将来のバイオシグネチャー探査においては、酸素以外の指標でも生命存否を判断できるようなフレームワーク構築を考える必要があるでしょう。

発表雑誌

    雑誌名
    Nature Geoscience」(2021年3月2日)

    論文タイトル
    The future lifespan of Earth’s oxygenated atmosphere

    著者
    Ozaki, K.* and Reinhard, C. T.

    DOI番号
    10.1038/s41561-021-00693-5

    論文URL
    https://dx.doi.org/10.1038/s41561-021-00693-5

添付資料

図1.大気中酸素濃度の進化シナリオ(a)と富酸素大気の持続期間(b)
モデルが含む不確定性を考慮したモンテカルロシミュレーション(注3)の結果。
地球大気は徐々に貧酸素化すると予想された(a青線)。一方、太陽光度を一定とした場合は、将来20億年間にわたって現在と同等レベルに維持される(灰色線)。
(b)パスツール点(現在の1%の酸素濃度)以上の富酸素な大気の持続期間についての確率密度分布。持続期間は10.8±1.4 億年と推定された。
図2.地球表層環境の進化シナリオ
(a)境界条件として与えた太陽光度。現在値を1としている。(b)大気組成、(c)地表面平均気温、(d)全球の純一次生産の予測結果。
大気中二酸化炭素濃度は太陽光度増大に起因した温暖化と陸域化学風化の促進によって億年スケールで低下すると予想される。温暖化と大気中二酸化炭素濃度の低下が生態系の一次生産力の低下を招くことで徐々に貧酸素化が進行し、約10億年後を境に急速に無酸素条件へと遷移する。この遷移に伴って大気中メタン濃度や気温の急増と一次生産の激減が生じ、これ以降の時代は好気性の多細胞生物の生存は困難となると考えられる。大気組成は痕跡量の酸素と高濃度のメタンを含む還元的な組成となり、大気中には炭化水素のもや(ヘイズ)(注4)が形成される可能性がある。
図3.富酸素大気の持続期間
マントルから地球表層への還元ガスの流入や沈み込み帯での酸化的物質の沈み込みが多い場合など、地球内部からの還元力流入が卓越する状況ほど酸化的な地球環境の持続期間は短くなる。不確定性を小さくするためには、固体地球と地球表層環境の相互作用に関わる素過程(たとえば沈み込み帯での酸化還元収支)についてさらなる知見が必要である。
図4.地球のハビタブル期間を通じた地球環境変遷
(a)太陽定数、(b)生物生産の制限要因、(c)全球の純一次生産、(d)大気中二酸化炭素(CO2)濃度、(e)大気中酸素(O2)濃度、(f)大気中メタン(CH4)濃度。
地球における生命生存可能期間のうち約20%だけが好気性の多細胞生物の生存可能な状態にあると考えられる。

用語解説

(注1)バイオシグネチャー
生物活動を示すシグナルの総称。生物由来の有機物や分子化石、生物がつくり出す物理的構造(たとえばストロマトライト)や化学的シグナル(たとえば同位体比記録)、生物源気体の大気中存在量、および高度な通信技術の存在を示唆する電波信号などが含まれる。本研究では生物源気体としての分子状酸素に着目している。

(注2)パスツール点
嫌気的代謝から好気的代謝に切り替わる酸素濃度の閾値を指す。
対象とする生物によって異なるものの、大気中の酸素濃度として現在の1%程度とされる。通性嫌気性細菌の解糖系が酸素によって阻害される効果(パスツール効果)を発見したルイ・パスツール(Louis Pasteur: 1822-1895)に因む。

(注3)モンテカルロシミュレーション
乱数を用いた多数回の数値シミュレーションを行う手法のこと。本研究では40万通り以上のパラメータ値のランダムな組み合わせについて数値実験を行い、富酸素な地球環境の持続期間について統計的な検討を行った。

(注4)ヘイズ
有機物エアロゾル。酸素に乏しい大気中で太陽紫外線等によって炭化水素分子が重合して形成される。土星の衛星であるタイタンの大気中に存在することが知られ、地球上でも太古代(40億年前から25億年前)の間に一時的に形成されていた可能性がある。太陽光を反射することで惑星の気候状態に大きく影響すると考えられている。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
講師 尾﨑 和海(おざき かずみ)

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-5299  
E-mail: kazumi.ozaki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL:https://ozaki.env.sci.toho-u.ac.jp/

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