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プレスリリース 発行No.1115 令和3年1月21日

40年の長期研究が明らかにした伊豆諸島の進化生物学
~ ヘビの捕食圧と温暖化が促したトカゲの体温上昇 ~

 香港大学と東北大学、東邦大学らの研究グループは、伊豆諸島に生息するオカダトカゲを調査し、捕食者であるシマヘビがいる島嶼では活動時の体温が高くなり、脚の形態も長くなっていることを発見しました。また近年進行する地球温暖化に伴い、オカダトカゲの活動時の体温が上昇していることも突き止めました。
 これらの成果は、2021年1月6日付で生態学分野の学術専門誌「Ecology Letters」に掲載されました。

発表者名

Félix Landry Yuan(Division of Ecology & Biodiversity, School of Biological Sciences, The University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China; PhD Student)
伊藤 舜(東北大学大学院生命科学研究科; 博士後期課程大学院生)
Toby P. N. Tsang(Division of Ecology & Biodiversity, School of Biological Sciences, The University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China; Postdoctoral Fellows)
栗山 武夫(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所; 准教授)
山崎 楓(研究当時:東邦大学理学部生物学科; 学部生)
Timothy C. Bonebrake(Division of Ecology & Biodiversity, School of Biological Sciences, The University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China; Associate Professor)
長谷川 雅美(東邦大学理学部生物学科; 教授)

発表のポイント

  • 捕食者であるシマヘビが生息する島嶼では、活動時のオカダトカゲの体温が高くなる上、後脚がより長くなることを突き止めました。
  • オカダトカゲの体温は、近年急速に進行する地球温暖化に伴い、およそ40年間で1.3℃上昇していました。
  • オカダトカゲの体温は捕食圧に大きく依存しており、捕食者の存在が体温を上昇させていることから、温暖化は、このような外温性動物の捕食-被食の関係性の変化をさらに加速させる可能性があります。

発表概要

 被食者の捕食回避がうまく機能するかどうかは、被食者のみならず、捕食者の熱収支に関連する生理的・行動的応答にも依存しています。研究グループは、1981年から2019年にかけてのおよそ40年間にわたり、伊豆諸島にて、捕食者であるシマヘビの在不在が、被食者であるオカダトカゲの生理的・熱的応答と形態的応答に与える影響を野外調査によって調べてきました。それによると、シマヘビがいる島のオカダトカゲは、シマヘビがいない島のオカダトカゲに比べて40年前と現在のどちらにおいてもおよそ2.9℃高い体温を示していました。加えて、オカダトカゲがシマヘビから逃げる時の速度に、後脚の長さが中心的な役割を担っており、シマヘビのいる島では後脚の長さに正の自然選択が働いていることがわかりました。また、オカダトカゲの体温は、40年前と比べて1.3℃上昇していることが明らかになりました。これらの結果は、シマヘビがいる島のオカダトカゲは、常に体温を高く維持した上、より速く走ることができる形態に進化することで、シマヘビの捕食を回避してきたことを物語っています。しかし近年急激に加速する気候変動を考慮すると、さらなる温暖化は、外気温に依存した捕食-被食者間の関係性を取り返しのつかないほど劇的に変化させてしまう可能性を示しています。

発表内容

 爬虫類をはじめとした外温性動物は、体温や生理学的応答が周囲の温熱環境に依存しています。被食者が捕食の脅威から生き延びるためには、捕食者を上回る俊敏な動きによって逃げる必要があります。それゆえ外温性の被食者は、最適なパフォーマンスを達成するための最適な体温を常に維持しています。これらに加えて、最大のパフォーマンスを発揮できるように逃走に効率的な形態へ進化させる自然選択が作用します。
 本研究グループが研究を行った伊豆諸島は、島の形成から100万年未満の比較的若い島々で構成され、全体的に種数が少ない単純化された島のシステムを有していることがその特徴です。そのため進化生物学者が最初にガラパゴスに注目した理由とは対照的に、種間の関係性を直接研究するのに、類まれな貴重な環境を提供しています。そしてこれら全ての伊豆諸島の島々では、オカダトカゲが生息しています。一方で、捕食者であるシマヘビはほとんどの島に生息していますが、全ての島に生息しているわけではありません。そのためオカダトカゲの個体群は、シマヘビによる捕食を受けている個体群と受けていない個体群とで、それぞれ異なる進化的動態を遂げてきました。
 本研究グループでは、1980年初頭に東邦大学の長谷川雅美教授がシマヘビのいる島といない島で、オカダトカゲの行動が異なることを発見して以来、オカダトカゲの行動観察とデータ収集を開始しました。ほぼ毎年欠かすことのないオカダトカゲの体温や形態の測定の結果、観測開始から今日までに伊豆諸島の年間気温は1℃以上上昇し、それに伴ってオカダトカゲの体温も同じくらい上昇していることがわかりました。
 長谷川教授による入念な体温測定に加えて、2018年と2019年には、香港大学のFélix Landry Yuan博士課程学生が携帯用のレーストラック、三脚、カメラを複数の島に運び、150匹以上のオカダトカゲが走る速度を異なる温度で測定しました。そしてこれらを統計解析した結果、シマヘビがいる島のオカダトカゲは、いない島のものと比べて、体温が2.9 ℃ 高いことが明らかになりました。一方でシマヘビがいる島のオカダトカゲが最大速度で走ることができる体温は、いない島のものよりも1.6 ℃ 低いことがわかりました。これらに加えて、東北大学の伊藤舜博士後期課程学生が、長谷川教授らがこれまでに集めた計測データを使い、階層ベイズモデル¹)を構築し、シマヘビがいる島では、体温のみならず後脚の形態も異なることを示し、その形質には自然選択としてシマヘビの捕食が働いていることを明らかにしました。
 このように伊豆諸島は、捕食者が被食者の行動、形態、生理に直接影響を与えるメカニズムを解明する上で、非常にシンプルな捕食-被食関係を提供し、島嶼の進化生物学的価値を実証している好例であると言えます。一方で、気候変動に対する被食者の応答がどのような影響を受けているのかを明らかにするには、長期的な研究が必要であるとも言えます。
 現在、地球規模で急速に気候変動が進行しています。それに伴いオカダトカゲの体温はシマヘビの在不在に関わらず上昇し続けており、シマヘビのいる島々では捕食者-被食者の関係がこれまでとは異なるものになり、予期せぬ影響をもたらす可能性が予想されます。さらに、捕食者は被食者の体温に大きな影響を及ぼすため、捕食者の有無は温暖化に対する被食者の脆弱性に対して、島ごとで異なる影響を及ぼす可能性があります。今後、進行する温暖化により、生物間の関係がいかに影響を受けて変化していくのかを、我々は注視していく必要があると言えます。

用語解説

1)原因と結果が何段階ものステップを踏んで起きるような現象の因果関係を解析することを可能にする有力な統計学的手法の1つ。個体差や個体群間の差、変数間の相関関係を加味した上で、ある要因が別の要因を通して間接的に働いているのかどうかを判断できるだけでなく、その効果の大きさをより明瞭に評価できる手法。

発表雑誌

    雑誌名
    Ecology Letters(2021年1月6日)

    論文タイトル
    Predator presence and recent climatic warming raise body temperatures of island lizards

    著者
    Félix Landry Yuan*, Shun Ito*, Toby P. N. Tsang, Takeo Kuriyama, Kaede Yamasaki, Timothy C. Bonebrake, Masami Hasegawa
    *These authors contributed equally to the manuscript.

    DOI番号
    10.1111/ele.13671

    アブストラクトURL
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ele.13671

添付資料

図1.八丈小島のオカダトカゲ
森林内で木漏れ日のあたる地面で日光浴を行って体温を維持している様子。
(撮影2018年5月18日 ©長谷川雅美)
図2.神津島のシマヘビ
日の当たる草地で餌を探しに徘徊するオカダトカゲを待ち伏せし、追いかけて捕食する。
(撮影2013年5月5日 ©長谷川雅美)
図3.伊豆諸島の島々
シマヘビのいる神津島から見た三宅島(左:ヘビがいない島)と御蔵島(右:シマヘビがいる島)。オカダトカゲはすべての島に生息している。
(撮影2019年4月29日 ©長谷川雅美)
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物学科 
教授・長谷川雅美

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL/FAX: 047-472-1162
E-mail: mhase[@]bio.sci.toho-u.ac.jp

東北大学大学院生命科学研究科
大学院生・伊藤舜

〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
TEL: 022-795-7560
E-mail: shun.ito.s6[@]dc.tohoku.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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