プレスリリース 発行No.1088 令和2年8月26日
「社交不安症状」が統合失調症患者の社会機能やQOLに及ぼす影響を明らかに
~ 大規模サンプルの長期観察研究において縦断的に検討 ~
~ 大規模サンプルの長期観察研究において縦断的に検討 ~
東邦大学医学部精神神経医学講座の根本 隆洋准教授らの研究グループは、大塚製薬株式会社との共同研究において、社交不安症状の変化が統合失調症患者の社会機能やQOLに及ぼす影響を長期観察研究・縦断的調査により明らかにしました。
この成果は、2020年8月15日に国際学術誌「Journal of Psychiatric Research」に掲載されました。
この成果は、2020年8月15日に国際学術誌「Journal of Psychiatric Research」に掲載されました。
発表者名
根本 隆洋 (東邦大学医学部精神神経医学講座 准教授)
内野 敬 (東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)
相川 さやか(東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)
松尾 悟志 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
間宮 教之 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
柴崎 佳幸 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
和田 葉 (東邦大学医学部精神神経医学講座 臨床心理士)
山口 大樹 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
片桐 直之 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
辻野 尚久 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
宇佐美 智浩(大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
水野 雅文 (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)
内野 敬 (東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)
相川 さやか(東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)
松尾 悟志 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
間宮 教之 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
柴崎 佳幸 (大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
和田 葉 (東邦大学医学部精神神経医学講座 臨床心理士)
山口 大樹 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
片桐 直之 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
辻野 尚久 (東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
宇佐美 智浩(大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部)
水野 雅文 (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)
発表のポイント
- 社交不安症状の変化が統合失調症患者の社会機能やQOLの変化に深く結びついていました。
- 本研究は統合失調症における社交不安症状を大規模かつ縦断的・前向きに調査した世界初の研究です。
- 社交不安症状を標的とした治療法の開発により、依然として困難な統合失調症患者の社会参加が促進されると期待されます。
発表概要
統合失調症において日常生活や対人関係に関する社会機能の障害が、患者の社会参加を妨げQOLを低下させています。しかし、依然としてそれらに対する有効な治療法に乏しいのが現状で、社会機能障害を決定する因子の探索が重ねられてきました。研究グループは、対人緊張やその回避といった社交不安症状に注目し、先行研究として行った横断的研究によって社交不安症状と社会機能障害の相関を明らかにし、さらに、社交不安症状が社会機能における「能力」と「実行状況」の乖離に関与していることも報告しました。
本研究では、118名の統合失調症患者を対象に平均観察期間が約700日間の長期的調査を行い、患者の社交不安症状の変化に応じて社会機能やQOLも変化することを明らかにしました。この結果から、統合失調症の社交不安を標的症状とした薬物療法や心理社会的な治療法の開発により、患者の社会復帰や社会参加が促進される可能性が示唆され、新たな治療的アプローチとして期待されます。
本研究では、118名の統合失調症患者を対象に平均観察期間が約700日間の長期的調査を行い、患者の社交不安症状の変化に応じて社会機能やQOLも変化することを明らかにしました。この結果から、統合失調症の社交不安を標的症状とした薬物療法や心理社会的な治療法の開発により、患者の社会復帰や社会参加が促進される可能性が示唆され、新たな治療的アプローチとして期待されます。
発表内容
統合失調症は幻覚や妄想などの陽性症状や、意欲低下などの陰性症状を主徴とし、その生涯罹患率は約1%といわれ、10代後半から20代の若者に好発する精神疾患として知られています。わが国の対人恐怖症の概念に近い社交不安症は、対人場面への恐れや回避行動に特徴づけられ、その症状は統合失調症患者においても高率に合併することが知られています。また、陽性・陰性症状、認知機能、リカバリーなど様々な臨床的指標との関連が報告されています。
研究グループは先行研究において、207名の統合失調症患者を対象に横断的研究を行い、半数以上に社交不安症状がみられること、及びその重症度と精神病未治療期間や社会機能との間に有意な相関がみられることを明らかにしました(Aikawa et al., Psychiatry Res, 2018)。さらに、社交不安症状が社会機能に関する「能力」と「実行状況」の乖離に関係していることも報告しました(Nemoto et al., Psychiarty Clin Neurosci, 2019)。これらを踏まえ、対象患者を長期にわたり縦断的に観察調査することにより、社交不安症状の変化が社会機能やQOLをはじめとする様々な臨床的指標に、如何に影響を及ぼすのかについて本研究で検討しました。
先行研究に参加した患者207名のうち、第2回目の追跡調査に同意した118名(男性57名、女性61名)が本研究の対象となりました。初回評価時における平均年齢は29.9歳、平均罹病期間は7.3年でした。初回時に引き続いて、追跡調査においても社交不安症状、総合精神症状、病識、神経認知機能、社会認知、社会機能、QOLなど、症状や機能を評価尺度や神経心理検査を用いて広範囲に測定しました。
初回時から追跡時評価までの平均間隔期間は695.8日でした。重回帰分析(注1)において、社会機能尺度得点の変化量に対して、多くの検査や尺度得点の中で、社交不安症状尺度得点の変化量が統計学的に有意に関与していました。また、2種類のQOL尺度得点の変化量に対しても、社交不安尺度得点の変化量が有意に関与していました。
本研究は統合失調症における社交不安症状を、大規模サンプルで長期的に調査した世界初の研究で、縦断的な検討により社交不安と社会機能やQOLの因果関係を明らかにすることができました。様々な指標の中でも特に社交不安症状の重症度の変化が、患者の社会生活やそのクオリティの変化に有意な影響を及ぼすことが示されたことにより、依然として不十分な統合失調症患者の社会参加の拡充およびリカバリーに向けて、社交不安症状が重要な治療標的になると考えられました。
研究グループは先行研究において、207名の統合失調症患者を対象に横断的研究を行い、半数以上に社交不安症状がみられること、及びその重症度と精神病未治療期間や社会機能との間に有意な相関がみられることを明らかにしました(Aikawa et al., Psychiatry Res, 2018)。さらに、社交不安症状が社会機能に関する「能力」と「実行状況」の乖離に関係していることも報告しました(Nemoto et al., Psychiarty Clin Neurosci, 2019)。これらを踏まえ、対象患者を長期にわたり縦断的に観察調査することにより、社交不安症状の変化が社会機能やQOLをはじめとする様々な臨床的指標に、如何に影響を及ぼすのかについて本研究で検討しました。
先行研究に参加した患者207名のうち、第2回目の追跡調査に同意した118名(男性57名、女性61名)が本研究の対象となりました。初回評価時における平均年齢は29.9歳、平均罹病期間は7.3年でした。初回時に引き続いて、追跡調査においても社交不安症状、総合精神症状、病識、神経認知機能、社会認知、社会機能、QOLなど、症状や機能を評価尺度や神経心理検査を用いて広範囲に測定しました。
初回時から追跡時評価までの平均間隔期間は695.8日でした。重回帰分析(注1)において、社会機能尺度得点の変化量に対して、多くの検査や尺度得点の中で、社交不安症状尺度得点の変化量が統計学的に有意に関与していました。また、2種類のQOL尺度得点の変化量に対しても、社交不安尺度得点の変化量が有意に関与していました。
本研究は統合失調症における社交不安症状を、大規模サンプルで長期的に調査した世界初の研究で、縦断的な検討により社交不安と社会機能やQOLの因果関係を明らかにすることができました。様々な指標の中でも特に社交不安症状の重症度の変化が、患者の社会生活やそのクオリティの変化に有意な影響を及ぼすことが示されたことにより、依然として不十分な統合失調症患者の社会参加の拡充およびリカバリーに向けて、社交不安症状が重要な治療標的になると考えられました。
発表雑誌
-
雑誌名
「Journal of Psychiatric Research」(2020年8月15日)
論文タイトル
Impact of changes in social anxiety on social functioning and quality of life in outpatients with schizophrenia: A naturalistic longitudinal study
著者
Takahiro Nemoto*, Takashi Uchino, Sayaka Aikawa, Satoshi Matsuo, Noriyuki Mamiya, Yoshiyuki Shibasaki, Yo Wada, Taiju Yamaguchi, Naoyuki Katagiri, Naohisa Tsujino, Tomohiro Usami, Masafumi Mizuno (*責任著者)
DOI番号
10.1016/j.jpsychires.2020.08.007
論文URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022395620309183
用語解説
(注1)重回帰分析
統計学的解析手法の1種で、ある結果(目的変数)を説明する際に、関連する複数の要因(説明変数)の中でどの変数がどのくらい結果に関与しているのかを推定し、検定する方法です。
統計学的解析手法の1種で、ある結果(目的変数)を説明する際に、関連する複数の要因(説明変数)の中でどの変数がどのくらい結果に関与しているのかを推定し、検定する方法です。
添付資料
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座
准教授 根本 隆洋
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
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