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プレスリリース 発行No.1087 令和2年7月29日

ヘビが顎をノコギリのように使うことを発見
~ ボルネオ島での爬虫両生類の生態調査で ~

 東邦大学理学部の児島庸介研究員、京都大学大学院人間・環境学研究科の福山伊吹大学院生、千葉県立中央博物館の栗田隆気研究員、マレーシア・サラワク州森林局のMohamad Yazid bin Hossman研究員、京都大学大学院地球環境学堂の西川完途准教授らの研究グループは、マレーシア領ボルネオ島で行った爬虫両生類の生態調査で、ヘビの一種が顎をノコギリのように使うことを発見しました。

 この成果は、2020年7月29日に、英国学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

発表者名

児島 庸介(東邦大学理学部、日本学術振興会特別研究員)
福山 伊吹(京都大学大学院人間・環境学研究科 修士課程大学院生)
栗田 隆気(千葉県立中央博物館 研究員)
Mohamad Yazid bin Hossman(マレーシア・サラワク州森林局 研究員)
西川 完途(京都大学大学院地球環境学堂 准教授)

発表のポイント

  • ヘビの一種が顎をノコギリのように使って口の中で餌を切断し、消化できない部分を取り除くことを明らかにしました。
  • この行動は左右の下顎が別々に前後方向に動くことで可能になっており、脊椎動物においてユニークなものでした。
  • 形態の特殊化によって動きの自由度が増した結果、新たな行動が進化して、顎の機能が多様化したと考えられます。

発表概要

 脊椎動物の顎の形態と機能は非常に多様ですが、ほとんどの種では上顎と下顎が蝶番のように開閉する動きをします。本研究グループは、巻貝食のセダカヘビの一種が下顎をノコギリのように前後方向に動かして口の中で餌を切断し、消化できない部分(タニシの蓋)を取り除くことを明らかにしました。
 この器用な行動は左右の下顎が別々に前後方向に動くことで可能になっており、脊椎動物においてユニークなものです。セダカヘビがもつ前後方向に動く下顎は、もともとは巻貝を殻から取り出すための適応であると考えられています。形態の特殊化によって顎の動きの自由度が増した結果、新たな行動が進化して、顎の機能が多様化したと考えられます。

発表内容

 脊椎動物の進化史の中で、顎は最大の発明と言われます。7万種を超える脊椎動物の顎の形態と機能は非常に多様ですが、どの種の顎も相同器官(注1)であることから、上顎と下顎が蝶番のように開閉するという基本的な構造は維持されています。しかし、中には特殊な構造の顎をもつものもいます。ヘビの顎は右側と左側が分離しており、左右の顎が別々に動きます。さらに、巻貝などを餌とするセダカヘビの仲間では、上顎と下顎の骨も分離しており、それによって下顎の可動性が非常に大きくなっています。セダカヘビはその特殊な下顎を巻貝の殻に差し込み、貝の体を引きずり出して食べます。
 本研究グループは、セダカヘビの一種であるエダセダカヘビに陸棲のタニシを与えて捕食行動を観察しました。タニシの体に付いている蓋はヘビには消化できないため、ヘビにとってタニシは利用しづらい餌であると言えます。捕食の場面において、エダセダカヘビはタニシの体にかみつくと、下顎を殻の中に差し込んでタニシの体を殻から引きずり出しました。そして、片側の下顎をまるでノコギリのように動かして蓋を器用に切り落とし、軟らかい部分だけを呑み込みました。片側の下顎が前後方向に動いて蓋を切り落としている間、もう一方の下顎と上顎がタニシの体をしっかりと保持していました。つまり、下顎が左右別々に前後方向に動くことで餌の切断が可能となっており、この行動は他のほとんどの脊椎動物には構造的に不可能なものでした。セダカヘビがもつ可動性の高い下顎は、もともとは巻貝を殻から取り出すための適応であると考えられています。形態の特殊化によって顎の動きの自由度が増した結果、新たな行動が進化して、顎の機能が多様化したと考えられます。
 新たな行動は形態の進化にも影響している可能性があります。巻貝を主食とするセダカヘビの下顎は一般に左右非対称な形をしており、右巻きの巻貝の体をうまく取り出せるようになっています。しかし、エダセダカヘビは巻貝を主食とするにもかかわらず、左右対称に近い下顎をもっています。今回の研究により、本種の顎は貝を取り出すためだけでなく、貝の切断にも使われていることがわかりました。フォークとナイフに相当するような二つの相反する機能を両立しているというところに、左右対称の顎の謎を解く鍵が隠されているかもしれません。セダカヘビの顎は、形態と機能(行動)が互いに影響し合いながら進化してきたことを教えてくれます。

 本研究は科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「マレーシア国サラワク州の国立公園における熱帯雨林の生物多様性活用システムの開発」(研究代表者:市岡孝朗(京都大学大学院人間・環境学研究科 教授))、科学研究費補助金特別研究員奨励費(研究代表者:児島庸介)、旭硝子財団環境フィールド研究近藤記念グラント(研究代表者:西川完途)、四方記念地球環境保全研究助成(研究代表者:福山伊吹)の支援によって行われました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Scientific Reports」(2020年7月29日)

    論文タイトル
    Mandibular sawing in a snail-eating snake

    著者
    Yosuke Kojima* , Ibuki Fukuyama , Takaki Kurita , Mohamad Yazid bin Hossman , Kanto Nishikawa (* 責任著者)

    DOI番号
    10.1038/s41598-020-69436-7

    アブストラクトURL
    www.nature.com/articles/s41598-020-69436-7

用語解説

(注1)相同器官
進化的起源が互いに同じである器官のこと。

添付資料

図1.エダセダカヘビの捕食行動

はじめに、エダセダカヘビは下顎を使ってタニシの体を殻から取り出します。次に、口の中でタニシの位置を調整し、片側の下顎をノコギリのように前後方向に動かしてタニシの蓋を切り落とします。そして、殻と蓋を残してタニシの軟らかい体だけを呑み込みます。
(イラスト:田中花音)
図2.エダセダカヘビの頭部のCT画像

左:下顎を前方へ突き出した状態。右:下顎を後方へ引いた状態。
歯が並んだ下顎の骨は1つの骨(方形骨)によって頭骨とつながっており、方形骨が振り子のように前後に振れることで下顎が前後方向にスライドします。
左右の下顎は分離しており、別々に動きます。この図では右側(奥)の顎は省略されています。
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学理学部、日本学術振興会特別研究員
児島 庸介

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1162 
E-mail: yosuke.kojima[@]ext.toho-u.ac.jp

京都大学大学院人間・環境学研究科
修士課程大学院生 福山 伊吹

〒606-8501 京都府京都市左京区吉田二本松町
TEL: 075-753-2890
E-mail: kawashibi[@]gmail.com

【SATREPSに関するお問い合わせ】
京都大学大学院地球環境学堂
准教授 西川 完途

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