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プレスリリース 発行No.1084 令和2年6月30日

光により金ナノ粒子を繋ぎ新たな光学特性を発現

 東邦大学理学部の桒原彰太准教授と名古屋大学未来材料・システム研究所の桒原真人准教授らの研究グループは、白色光源と光学フィルターを用いて、金ナノ粒子を位置選択的に融合させる技術を新しく開発しました。
金ナノ粒子に特徴的な光学特性を利用して金ナノ粒子同士を融合させることで、融合した部分に新たなプラズモンモードを発現させることに成功しました。これにより、金ナノ粒子を用いた高感度のマルチカラーセンサーなどの技術開発に繋がることが期待されます。

 この成果は2020年6月26日に 米国科学誌「ACS Applied Nano Materials」にて発表されました。
また、同誌のSupplementary Coverとして選出されました。

発表者名

桒原 彰太(東邦大学理学部化学科 准教授)
成田 有花(東邦大学理学部化学科 2018年度卒)
水野 りら(名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻)
黒津 広樹(東邦大学理学部化学科 2019年度卒)
吉野 弘樹(東邦大学理学部化学科 2017年度卒)
桒原 真人(名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 白色光源と光学フィルターを用いて、金ナノ粒子を位置選択的に融合させることに成功しました。
  • 融合することで新たな色の吸収と増強された電場が発生することを、電子顕微鏡観察により明らかにしました。
  • 金ナノ粒子を用いた高感度のマルチカラーセンサーなどの技術開発に繋がることが期待されます。

発表概要

 複数のナノ粒子を繋ぐことで、一つのナノ粒子では得られない光応答を得ることができます。これまで化学修飾により繋いできた金属ナノ粒子を、ナノ粒子の形状に依存した光学特性を利用することで、位置選択的に融合させることに成功しました。
 具体的には、白色光源と光学フィルターを用い、三角形ナノプレート型の金ナノ粒子の頂点を繋ぐことができました。また、電子顕微鏡観察により、融合した新たなナノ粒子の構造には、新たな光学特性が発現することを確かめました。
 これまでに培われた金属ナノ粒子によるセンサー技術と組み合わせていくことで、高感度のマルチカラーセンサーなどを簡便に作製する技術開発へと繋がることが期待されます。

発表内容

 ナノ粒子に光による電磁場が加わることで誘起される局在表面プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance; LSPR)(注1)は、ナノ粒子の形状に強く依存することが知られており、その光学特性を決めます。ナノ粒子の構造を制御することにより、光学特性を自在に操ることができることから、これまでに様々な構造を有する金属ナノ粒子が合成されてきました。さらに高次の構造体を構築することでLSPRのモードを制御する方法が提案されており、DNAなどの化学修飾によりナノ粒子を繋ぐ方法が主に用いられています。例えば、規定された数nmのギャップ幅を持つように繋がれた金属ナノ粒子では、そのギャップ間に増強された光電場が形成されることが知られており、感度の高い光分析技術への展開が期待されています。また、繋ぎ方を工夫することで、光学活性や旋光性など、これまで分子に見られた光学特性を発現させることも可能です。
 このような化学修飾によりナノ粒子を繋ぐ技術は、構造を設計通りに構築することができる一方、化学結合を任意の位置に制御よく導入することが難しいことや、構造構築にかかる作業工程が多いことなどが課題として挙げられます。
 我々の研究グループでは、ナノ粒子の形状に依存したLSPRを利用し、位置特異的に強電場を発生させることでナノ粒子を融合させる技術を開発しました。発生する強電場の位置はナノ粒子の形状と照射する光の波長に依存するため、照射する光の波長を決めることで融合するナノ粒子の形状と融合位置を任意に設定できるメリットがあります。本研究発表では、特に白色光源と光学フィルターを用いることで、構造構築に対する自由度が高く、工程がシンプルなナノ物質の高次構造構築技術を開発することができました。
 三角形ナノプレート型金ナノ粒子に赤色の光を照射することで、三角形の頂点付近にLSPRのモードが現れ、隣接した三角形ナノプレートと融合すると、蝶型の金ナノ粒子の高次構造体を得ることができました(図1)。走査透過型電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)(注2)を組み合わせることにより、金属ナノ粒子に誘起されるLSPRモードを観察できることが知られています。本研究でもSTEM-EELSにより融合前後のLSPRを観察し、三角形ナノプレート型金ナノ粒子の融合した部分に新たなLSPRのモードが発生することを確認しました。融合前には大きく分けて3つのLSPRのモードが存在していましたが、融合し高次構造を構築することで4つめのLSPRモードを発生させることに成功しました。
 金ナノ粒子のLSPRによる光増強効果と組み合わせれば、多色の光を使った高感度センサーへと応用展開することが可能です。今後は多種類の金ナノ粒子を融合し、異なるLSPRを発生させることで、高感度のマルチカラーセンサーなどを簡便に作製する技術開発へと繋がることが期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「ACS Applied Nano Materials」(2020年6月26日)

    論文タイトル
    Localized Surface Plasmon Resonance-Induced Welding of Gold Nanotriangles and the Local Plasmonic Properties for Multicolor Sensing and Light-Harvesting Applications

    著者
    Shota Kuwahara*, Yuka Narita, Lila Mizuno, Hiroki Kurotsu, Hiroki Yoshino, and Makoto Kuwahara*

    DOI番号
    10.1021/acsanm.0c00608

    アブストラクトURL
    https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsanm.0c00608

用語解説

(注1)局在表面プラズモン共鳴(LSPR)
金属や半導体に電子や光が入射すると、材料表面に自由電子などの電荷の集団振動が誘起される。この固有振動を表面プラズモンといい、誘起された電場と入射光が共鳴すると、特定の光が強く吸収や散乱される。この現象を表面プラズモン共鳴と呼ぶ。ナノ粒子のように材料をナノサイズまで小さくすると、電荷の集団運動がナノ粒子に分極し、ナノ粒子の種類や形に依存した光学特性をもつ。これを局在表面プラズモン共鳴という。

(注2)走査透過型電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)
電子線を絞って電子ビームを観察対象の試料に照射し、試料を透過してきた電子を検出し像を得る透過型電子顕微鏡のうち、試料の上を、電子線を走査させてイメージングするものを走査透過型電子顕微鏡という。
電子エネルギー損失分光法は、電子ビームを試料に照射し、透過してきた電子の持つエネルギーが、試料に当たる前と比べてどれだけ失われたかを検出する。励起するエネルギー領域により、プラズモンやバンド間遷移の情報を得たり、元素組成を分析できたりする。

添付資料

図1. 三角形ナノプレート型金ナノ粒子(左)に赤色の光を照射すると、隣接した金ナノ粒子の頂点同士で融合する(右)
図2. 掲載巻「ACS Applied Nano Materials」
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ先】
東邦大学理学部化学科
准教授 桒原 彰太

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-4442 
E-mail: syouta.kuwahara[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: http://nano.chem.sci.toho-u.ac.jp/~lab/nanochem/index.html

名古屋大学未来材料・システム研究所
名古屋大学大学院工学研究科
准教授 桒原 真人

〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町 研究所共同館Ⅰ
TEL: 052-789-3597
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