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プレスリリース 発行No.1075 令和2年4月20日

日本産トキとともに
トキウモウダニが絶滅していたことが明らかに

 東邦大学理学部生命圏環境科学科の脇 司講師と法政大学国際文化学部国際文化学科の島野智之教授の研究グループは、国内で400羽程度に増え、野生復帰した中国由来のトキについて、調査可能な限りのウモウダニ(約1万7000個体)を調査しました。その結果、すべてトキエンバンウモウダニで、トキウモウダニは全く見つかりませんでした。論文では、トキウモウダニは日本では(おそらく地球上からも)絶滅したと結論づけました(5月発行の学術誌に受理済・掲載予定)。

 これを受けて、2020年3月27日公開された環境省レッドリスト2020 (注1) でのトキウモウダニのランクは「野生絶滅(EW)」から「絶滅(EX)」に変更されました。宿主である中国の個体を始祖として繁殖したトキは日本の空によみがえり、2019年に「野生絶滅(EW)」から「絶滅危惧ⅠA類(CR)」にランクダウンしていました。

発表者名

脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 講師)

発表のポイント

  • 鳥にとって良い働きをするウモウダニは、鳥と相利共生をしていると考えられています。
  • 日本で野生復帰した中国由来のトキに関する2019年の調査ではトキウモウダニは 全く見つからず、本ダニは2003年の日本産個体の死亡とともに既に絶滅していたと考えられます。

発表概要

 トキ Nipponia nippon は学名(ニッポニア・ニッポン)に“日本”を冠する日本を代表する鳥の1つです。トキは、古来はロシア、韓国、日本、中国の数カ所に広く生息していました。現在、日本では中国陝西省のトキを借り、これらを始祖として繁殖に成功し野生復帰が果たされ、日本の空にトキが戻ってきました。

 ウモウダニは様々な種の鳥の羽に共生するダニで、鳥を傷つけることはなく、羽の古い油やカビなどを食べて生活していると考えられています。日本在来のトキには、トキウモウダニ Compressalges nipponiae(図1) とトキエンバンウモウダニ Freyanopterolichus nipponiae の2種のウモウダニがついていました。これら2種は、いずれもトキ以外の鳥種からは見出されていません。トキウモウダニは、ロシア沿海地方と中国国境に位置するハンカ湖から新種として記載され、ロシア、韓国、日本のトキについていたと考えられています。

 東邦大学の脇 司講師と法政大学の島野智之教授は、環境省のレッドリスト見直しに係る現地調査の一環で、国産トキで1995年に死亡した「ミドリ」ならびに最後の日本産個体で2003年に死亡した「キン」の羽合計17枚を調べました。その結果、トキウモウダニ Compressalges nipponiae 68個体とトキエンバンウモウダニ Freyanopterolichus nipponiae 35個体を確認しました。また、あわせて1999年以降に中国からトキを用いた人工繁殖が行われている佐渡トキ保護センターにおいて、調査できる可能な限りの2018年のトキの羽621枚を調べたところ、17,800個体ものウモウダニが見つかりましたが、それは全部トキエンバンウモウダニでした。
 この結果から、今の日本にいる中国産のトキには、トキウモウダニはついておらず、トキウモウダニは日本産トキとともに絶滅していたと考えられました。

 このように、本研究は、ある生物が絶滅すると、その種とかかわりあってきた他の生物も同時に失われてしまうという例となってしまいました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of the Acarological Society of Japan」(日本ダニ学会誌)  

    論文タイトル
    A report of infection in the crested ibis Nipponia nippon with feather mites in current Japan

    著者
    Waki, T. & Shimano, S.*(* 責任著者)

用語解説

(注1)レッドリスト
「日本の絶滅のおそれのある野生生物」の一覧

添付資料

図1.トキウモウダニ(雌)。
スケール:0.1 mm
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
講師 脇 司

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1653 
E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/index.html

【本ニュースリリースの発信元】
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