プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1062 令和2年2月10日

キラル磁性体中に配向性をもった新しいナノ磁気渦構造と特殊な磁化ダイナミクスを発見
~磁性体中の“バドミントンシャトル”~

 東邦大学の室岡玲美大学院生、大江純一郎准教授、広島大学のAndrey Leonov助教、井上克也教授らの研究グループは、キラル磁石中に形成される新しいタイプのナノ磁気渦構造とその特殊な運動を発見しました。
現在、盛んに研究が行われている磁気スカーミオンと呼ばれる構造に、空間非対称性を取り入れることで、分子のような形状の新しい磁化構造が表れることを示したものです。これにより、スカーミオンの回転運動など、新しい磁気ダイナミクスが得られ、新たなスピントロニクス素子の開発が期待されます。

 この成果は、2020年1月15日にScientific Reportsに掲載されました。

発表者名

室岡 玲美     (東邦大学大学院理学研究科物理学専攻 博士前期課程)
Andrey O. Leonov (広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座 助教)
井上 克也    (広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座 教授)
大江 純一郎   (東邦大学理学部物理学科物性理論教室 准教授)

発表のポイント

  • キラル磁性体中に現れる新しいナノ磁気渦構造(非対称スカーミオン)とその特殊なダイナミクスを解明
  • 非対称スカーミオンに対するバドミントンシャトルのような磁気渦の回転運動の発見
  • 新しい多ビットスピントロニクス素子や、その電流制御への可能性

発表概要

 磁性体中の磁化ダイナミクスや電子スピン自由度を利用したスピントロニクス(注1)と呼ばれる分野は、次世代エレクトロニクス技術として注目を集めており、例えば、ハードディスクの内部では、微小な磁石の向きによって情報を記憶している。最近では、ナノメートル程度の大きさの磁気渦構造(磁気スカーミオン)が観測され、新しい磁気記憶素子としての可能性が指摘されている。
 今回、東邦大学理学部の大江准教授らの研究グループと、広島大学の井上克也教授らの研究グループは共同で、非対称な磁気スカーミオン構造と、回転運動を伴う新しい磁化ダイナミクスを発見した。研究グループは、異方性を考慮した特殊な磁性体中の磁化状態を、コンピュータを用いた大規模シミュレーションを行うことで明らかにした。この新しい磁気渦状態を用いることで、磁気記録素子の多値化や記録状態の電流制御が効率的に行われる可能性を示した。研究結果は、2020年1月15日付で、Scientific Reportsに掲載された。

発表内容

 本研究では、カイラル磁性体と呼ばれるねじれた磁化構造を有する磁性体中の新しい磁化構造とその特殊な磁化ダイナミクスを、数理計算を用いた理論的研究により明らかにした。通常の強磁性体中では、それぞれの原子の磁化の向きが揃う場合にエネルギーが低くなる。一方で、結晶の空間反転対称性が破れた系では、隣り合う磁化がねじれた磁化配置をとる場合にエネルギー的に安定となる場合がある。このような相互作用は、ジャロシンスキー・守谷相互作用と呼ばれ、新規磁気物性を生み出す原因となっている。ねじれた磁化構造として、1次元的な螺旋構造や2次元的な磁気渦構造が知られている。特に、磁気渦構造は、磁気スカーミオン構造と呼ばれ、磁化構造が非常に安定であることから、新規スピントロニクス素子への応用が期待されている。
 
 これまで報告されている磁気スカーミオン構造は空間的に対称な構造であったが、今回の研究で、系に異方性がある場合に非対称なスカーミオン構造が表れることを明らかにした(図1)。この非対称スカーミオン構造は、円形のコア部分とそれの周りに広がる三日月部分で構成される。このような内部自由度が付加されることで、スカーミオンに多彩な物性が表れることが示された。例えば、通常の対称スカーミオン間には斥力が働くため、多数のスカーミオンがある場合には三角格子状の細密充填構造をとるが、非対称スカーミオンの場合には、スカーミオン間の相対角度によって斥力・引力両方の力が加わることが分かった。このような相互作用によって、多数の非対称スカーミオンがある場合には、チェーン状の1次元的なスカーミオン結晶が表れることが明らかになった。また、電流により誘起される非対称スカーミオン構造の磁化ダイナミクスにおいて、回転運動が表れることが明らかになった。これは、コア部分と三日月部分で電流から受けるトルクに差があるためで、常にコア部分が進行方向の先に進むことによって起こる。このような回転運動は、バドミントンのシャトルの運動に非常によく似ている。さらに、このような非対称スカーミオンを量子細線中の磁化デバイスとして利用する場合、界面でのエネルギー障壁により、非対称スカーミオンが安定して存在できることが分かった。
 
 今回の研究によって、非対称スカーミオンが新規スピントロニクス素子として非常に有用であることを示すと共に、カイラル磁性体中の新しい磁気相の存在を明らかにした。

発表雑誌

    雑誌名
    「Scientific Reports」(2020年1月15日公開)

    論文タイトル
    Current-induced shuttlecock-like movement of non-axisymmetric chiral skyrmions

    著者
    Remi Murooka* , Andrey O. Leonov , Katsuya Inoue & Jun-ichiro Ohe(*筆頭著者)

    DOI番号
    doi.org/10.1038/s41598-019-56791-3

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1038/s41598-019-56791-3

用語解説

(注1)スピントロニクス
通常のエレクトロニクス技術では、電荷の自由度のみを考慮していたのに対し、スピントロニクス分野では電子の磁気的性質(スピン自由度)を考慮することで、これまでになかった機能素子の開発が期待できる。
コンピュータ内部で使われるハードディスク技術は、スピントロニクス分野の先駆けと言われている。
 

添付資料

図1.対称スカーミオン構造(左図)と非対称スカーミオン構造(右図)。
矢印は微小磁石の磁化の向きを表す。対称スカーミオン構造では、中心と外側部分で磁化の向きは面直方向を向いている。
非対称スカーミオンではコア部分と三日月部分で面直方向を向いているが、外側では磁化が面内方向を向いている。
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ先】

東邦大学理学部物理学科物性理論教室
准教授 大江 純一郎

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL&FAX: 047-472-7351
E-mail: junichirou.ohe[@]sci.toho-u.ac.jp  ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
URL: http://cmt.ph.sci.toho-u.ac.jp/

広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座
教授 井上 克也

〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1  
TEL&FAX: 082-424-7416 
E-mail: kxi[@]hiroshima-u.ac.jp   ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
URL: https://home.hiroshima-u.ac.jp/kotai/

【報道に関するお問い合わせ先】

学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
TEL:03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail:press[@]toho-u.ac.jp  ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
URL: www.toho-u.ac.jp

広島大学 財務・総務室 広報部広報グループ
〒739-8511 広島県東広島市鏡山1-3-2
TEL: 082-424-3701 FAX: 082-424-6040
E-mail: koho[@]office.hiroshima-u.ac.jp  ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
URL: https://www.hiroshima-u.ac.jp