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プレスリリース 発行No.962 平成31年3月26日

東邦大学メディカルレポート
- 皮膚が示す内臓の変化のサイン-
~ 健康な生活を送るために知っておきたい「デルマドローム」とは ~

東邦大学医療センター大森病院皮膚科(東京都大田区大森西6-11-1、診療部長:石河晃)では、皮膚科全般の診療を行っています。香粧品、日用品、植物、外用剤などによる接触皮膚炎、職業性皮膚炎、薬疹、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の原因あるいは増悪因子となる抗原の検索を積極的に行っています。成人例を含めて重症化が注目されているアトピー性皮膚炎の治療のなかでは、特にスキンケアを重視しています。

皮膚は人間の体全体を覆う臓器です。細菌やウィルスなどへの感染、紫外線刺激、そして物理的な負荷などから人体を守るだけでなく、体温調節機能や感覚器としても重要な役割を果たしています。また、皮膚に生じた病変は内臓の病変と異なり、状態を視認することができるという特徴があります。

古くから「皮膚は内臓の鏡」といわれ、皮膚が内臓の変化のサインとなることがあります。このように、「皮膚病変と内部臓器の異常が、何らかの関連を有し、両病変が共存する疾患または症候群」を「デルマドローム」といいます。当レポートでは、このデルマドロームについてわかりやすくお伝えします。

1.2つのデルマドローム

デルマドロームは全ての内臓疾患と関連付けられるといってよく、その種類は多岐にわたりますが、大きく直接デルマドロームと間接デルマドロームに分類されます。前者は内臓病変が皮膚に直接影響しているもので、あるAという皮膚病変がBという内臓病変のみにみられることを指します。一方、後者は他の疾患でも出現することがあるもので、必ずしも1対1で対応するものではありません。つまり、あるCという皮膚病変は、DやEあるいはそれ以外の内臓病変にもみられることを指します。

2.糖尿病・肝疾患・呼吸器疾患のデルマドローム

糖尿病は網膜症、腎症、神経障害、及び大血管障害による脳梗塞や心筋梗塞など、多くの合併症を伴いますが、その合併症の一つとして皮膚病変があります。その結果としての皮膚疾患には、糖尿病発見の契機となるもの、糖尿病の重症度や合併症を反映するもの、また、糖尿病患者の生命や生活に影響するものもあります。

図1は、手のひらや指にひきつれができて次第に動かしにくくなるディピュイトラン拘縮の症状。
図2は、赤い斑点が下腿の前面などに出るリポイド類壊死の症状で、これらは、糖尿病発見の契機となる皮膚疾患の症状のひとつです。
肝臓の主な働きは、「ビリルビン(ヘモグロビンの一部が代謝されて出来たもの)から脂肪の消化に必要な胆汁酸(たんじゅうさん)を作る」、「ホルモンや栄養素を変化させたり蓄えたりする」、及び「有害物を中和する」ですが、こうした肝臓の機能が低下することで現れる症状のひとつにクモ状血管腫(図3)があります。これは、顔や胸など上半身の皮膚の毛細血管が拡張して足を広げたクモのように見える状態をいいます。また、肝臓疾患では性ホルモンの影響で血管拡張が起こりやすくなりますが、手のひらが赤くなる手掌紅斑(しゅしょうこうはん)や小さな傘を開いたような形の血管拡張症であるクモ状血管腫がみられます。
皮膚症状を伴う呼吸器疾患には、気管支炎や肺炎に由来する中毒疹、結核に由来する結核疹、肺気腫やびまん性間質性肺炎などに由来する爪変形などがあります。手指が太鼓のばち状に変形するばち状指、黄色い爪や四肢のリンパ浮腫が特徴の黄色爪症候群(おうしょくそうしょうこうぐん)は、いずれも呼吸器疾患にみられる特徴です。なお、爪の状態の変化は呼吸器疾患だけでなく、他の多くの内臓病変との関連もあります。

3.内臓悪性腫瘍のデルマドローム

内臓悪性腫瘍のデルマドロームのタイプとして3つ挙げられます。ひとつ目は「内臓悪性腫瘍の皮膚転移」、2つ目は「腫瘍随伴性皮膚病変」、そして3つ目が「遺伝性疾患により内臓悪性腫瘍と皮膚症状が併発する」です。
「内臓悪性腫瘍の皮膚転移」とは、内臓悪性腫瘍が皮膚にでてきてしまったものです。発生率は5%程度と稀で、初発症状となると0.8%とさらに稀となり、早期発見の指標にはなりにくいのが実情です。男性では肺がんが最も多く、転移性皮膚がんの約30%を占めます。肺がんの3%程度で現れる症状で、頭頸部や胸部に出現することが多いです。乳がんの皮膚転移は乳がん全体の30%程度で現れ、女性の転移性皮膚がんの80%を占めます。大腸がんの皮膚転移は男女とも2番目に多く、転移性皮膚がんの約5%を占めます。

「腫瘍随伴性皮膚病変」とは、内臓悪性腫瘍の影響を受けて出現する皮疹(発疹)のことです。悪性腫瘍との合併率が20~30%といわれている皮膚筋炎の症状のひとつであるヘリオトロープ疹(図5)は、上まぶたに紅斑が現われます。また、黒色表皮腫(図6)は、頸部や腋窩(えきか、脇の下)などの角質が増殖し、ザラザラとした黒褐色の局面が特徴で、胃がんに合併されることが多いとされます。
「遺伝性疾患により内臓悪性腫瘍と皮膚症状が併発する」ケースでは、von Recklinghausen(レックリングハウゼン)病、Peutz-Jegher(ポイツ・ジェガース)症候群、基底細胞母斑症候群などの症状があります。これらはいずれも遺伝子の異常により併発します。 これまで述べてきたように、皮膚と内臓は切っても切れない関係にあります。皮膚の気になる症状が別の病気の発見につながることもあり、それがデルマドロームです。大切な皮膚のためにかかりつけの皮膚科医師を持ちましょう。そして、安易に自己判断せず、気になる症状がある人は、早めに専門医の診察を受けるようにしましょう。

以上

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