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プレスリリース 発行No.930 平成30年10月31日

東邦大学メディカルレポート
さまざまな腰痛とその治療について
 ~ 痛みが慢性化する前に適切な治療を ~

 東邦大学医療センター大森病院整形外科(大田区大森西6-11-1、診療部長:土谷 一晃)では、「人工関節」、「脊椎脊髄病」、「外傷・スポーツ医学」という3つのセンターを開設し、 それぞれの領域で専門性の高い診療を行っています。

 「腰痛」は病気の名称ではなく、「腰部を主とした痛みや張りなどの不快感といった症状の総称」です。腰痛は誰もが経験しうる痛みであり、わが国では、訴えの多い症状としては男性では1位、女性では2位(1位は肩こり)です。(出典:厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況)

 腰痛の原因はさまざまですが、原因が特定できるものはわずか15%程度で、残りの約85%は検査をしても原因が特定しきれないといわれています。
 一般的な腰痛は発症から5週程度で80-90%が自然治癒するとされます。このため、「たかが腰痛」と思われがちです。一方、治らずに慢性化する場合には、生活習慣、ストレスや不安、不眠など心の状態が影響している場合があります。いずれにしても、腰痛には命にかかわる病気が隠れていることもあり注意が必要であり、放置しておくのは良くありません。当レポートでは、腰痛の概要や治療のポイントについて分かりやすくお伝えします。

1、原因が特定できる腰痛とできない腰痛

 腰痛には原因による分類と経過による分類があります。原因による分類では「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」があり、経過による分類では「急性腰痛」と「慢性腰痛」があります。
 「特異的腰痛」とは「原因が特定できる腰痛」のことをいい、腰痛患者全体の15%にあたります。一方、原因がわからない場合は「非特異的腰痛」となります。非特異的腰痛は発症から2週間以内に治癒する割合が5~60%、6週間以内に治癒する割合が90%あり、慢性腰痛になるのは5%です。症状が比較的早く改善することが多いため、結果的に非特異的腰痛と診断されるという側面があります。手術以外の治療、すなわち保存療法(薬物療法、ブロック療法、運動療法、理学療法)が原則です。

 特異的腰痛の中でも、「椎間板ヘルニア」、「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」、「椎体骨折」は発生頻度が高い症状です。また、重篤な症状を引き起こす「感染性脊椎炎」、「悪性腫瘍の脊椎転移」、「大動脈瘤」などで起こる腰痛も特異的腰痛に含まれます。これらの疾患は命に関わることもあるため確実に見分ける必要性から「レッドフラッグ」といわれる兆候や症状が示されています。項目としては①発症年齢が20歳以下または55歳以上、②時間や活動性に関係のない腰痛、③胸部痛、④癌,ステロイド治療、⑤HIV感染の既往、⑥栄養不良、⑦体重減少、⑧広範囲におよぶ神経症状、⑨構築性脊柱変形、⑩発熱、があります。(出典:「日本整形外科学会/日本腰痛学会:腰痛診療ガイドライン2012」)
 「強い痛みや安静時の痛み」、「体調不良を伴う」そして「神経の麻痺(尿便の障害を含む)」といった症状の腰痛で、これらの兆候や症状があてはまる場合は、できるだけ早く病院へかかるようにしましょう。

 高齢者に発症の多い腰椎椎体骨折は、骨密度の低下が密接にかかわっており、しりもちをつく転倒といった軽微な外傷をきっかけとすることも少なくありません。介護の原因となる疾患として認知症、脳卒中、衰弱に次いで四番目に多く、介護の原因となる疾病の12%を占めています。痛みを感じながら我慢してさらに症状を悪化させることもあるため、注意が必要です。(出典:厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況)

 特異的腰痛の代表ともいえる腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中から髄核と呼ばれる成分が押し出され、これが神経を圧迫したり,炎症を起こしたりして痛みが生じる疾患です。腰部脊柱管狭窄症は、加齢により脊髄の後方にある黄色靭帯が分厚くなるなどで脊柱管内が狭くなり、中を通る神経が圧迫されて痛みやしびれが生じる疾患です。

2、疼痛とは?

 疼痛(とうつう)とはズキズキとうずくように痛むことを指し、「慢性疼痛」は3~6ヵ月以上と長く続く痛みのことです。わが国で慢性疼痛を保有する成人の割合は22.5%、患者数として2,315万人と推定され、その痛みの部位の64%を腰が占めます。(出典:矢吹 省司ほか:臨床整形外科 47(2):127,2012 監修:日本大学医学部麻酔科 加藤実、矢吹 省司:jmed mook 33:11, 2014 監修:日本大学医学部麻酔科 加藤実)

 けがや突然の病気などによって急性疼痛が生じたときに、適切な治療をせずに放置しておくと、慢性疼痛に変わってしまう場合があります。疼痛が交感神経や運動神経に作用して、血管収縮や筋緊張の増大を起こし、その結果、血流低下や組織酸素の欠乏を招き、「痛みを起こす物質」の発生につながります。痛みが長引くと、“痛みの悪循環”を引き起こすことがあります。つまり、痛みが続くことで痛みにばかり注意が向きがちになり、不安や恐怖からの回避行動、不活動や抑うつなどにつながり、ますます痛みにとらわれて症状が重くなるという悪循環に陥るということです。

 腰痛を放置してこのような痛みの悪循環に陥らないようにするためにも、早期に適切な治療を行うことが大切です。

3、腰痛治療のポイント

 「腰痛診療ガイドライン2012」によれば、できるだけ多くの臨床データに基づいて統計学的に妥当性のある最新最良の医学知見を用いる医療が推奨されています。これによる腰痛治療の大まかなポイントは以下の通りです。

 科学的な根拠から上記のような治療のポイントが導き出されていますが、これが全てでこれ以外の治療が間違っているという訳ではありません。痛みが慢性化する前に、適切な治療を行って早期に原因を取り除くことが大切です。自分に合った治療の組み合わせをするためにも、気になる症状がある人は、早めに専門医に相談しましょう。

以上

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