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プレスリリース 発行No.918 平成30年10月3日

睡眠障害が肝臓の脂肪蓄積を増加させることを解明
~たった1回6時間の睡眠を失うことが糖尿病リスクの増加につながる~

東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野 熊代尚記准教授の研究グループは、マウスを用いた研究で、睡眠障害が肝臓の代謝を変化させて肝脂肪蓄積を増加させることを解明しました。
この成果は、米国生理学会のAmerican Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism誌にオンラインで発表され、さらに、米国生理学会が管理する13の科学誌に掲載された論文から毎月厳選されて掲載されるAPS selectに選ばれて掲載されました。

発表者名

鴫山 文華(第一著者 東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野 助教)
熊代 尚記(責任著者 東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野 准教授)

発表のポイント

  • マウスを2つのグループに分け、一つは6時間寝そうになると優しくゆすられて起こし続けられたグループ、もう一つは自由に睡眠をとったコントロールグループとした。
  • マウスは両群共に無制限の高脂肪食と砂糖水を与えられ、食生活が乱れた人々と同じような食環境で飼育され、睡眠障害の影響を検討する日は、睡眠障害群のマウスは自由睡眠群と同様に小さな固定器の中で動けない環境に置かれた。すなわち、睡眠障害群と自由睡眠群との間で食事と運動の環境は同様に設定された。
  • 6時間の睡眠障害直後のマウスの血糖値や肝臓の脂肪量を測定したところ、1回の6時間の睡眠障害(起き続けること)で、自由に睡眠するマウスよりも血糖値は有意に上昇し、肝臓の脂肪量やグルコース産生量も有意に増加することが判明した。
  • 睡眠障害のマウスにおいては、メカニズムとして肝臓の脂肪代謝をつかさどる酵素の遺伝子発現が変化しており、今後、睡眠障害が誘発する肝臓の脂肪蓄積やインスリン抵抗性を防ぐような介入研究がなされるべきと考えられる。

研究の詳細

健康な人が生活習慣の乱れにより耐糖能異常を来すのと同様に、今回我々は遺伝子改変モデルを用いずに13週齢のC57BL/6J雄性マウス(注1)を高脂肪食・高ショ糖水で2週間飼育し、6時間の急性睡眠障害を負荷し、耐糖能について検討した。糖負荷試験当日、睡眠障害群、コントロール群は食事・運動の条件は一定とし、コントロールマウスは睡眠を自由にとれるようにした。1回の6時間の急性睡眠障害後の糖負荷試験の結果、有意な耐糖能異常を認めた。インスリン標的臓器の一つである肝臓に着目して詳細な検討を行ったところ、コントロール群と比較して睡眠障害群では肝臓中の中性脂肪含量が有意に増加しており、ピルビン酸負荷後の有意な血糖上昇を認め、脂肪肝による肝インスリン抵抗性が示唆された。

血中のストレスホルモンであるコルチコステロン(注2)について調べてみると睡眠障害群ではコルチコステロンが有意に上昇していた。メカニズムについて網羅的に探索する目的でマイクロアレイを用いて肝臓中の約35,000の遺伝子を解析したところ、脂肪合成遺伝子の発現が睡眠障害群で有意に上昇していることが確認された。メタボローム解析を用いて肝臓内の代謝物を調べたところ、睡眠障害群ではコントロール群に比べて明らかに肝臓の代謝産物が変化しており、アシルカルニチン(注3)やアセチルCoA・ケトン体(注4)などの増加が認められた。

これまで睡眠障害によるインスリン抵抗性発症機序として、睡眠障害による過食・エネルギー消費の低下による体重増加が原因と考えられてきたが、今回の我々の検討では食事・運動の条件は一定で、体重には変化を認めず、6時間の単回の睡眠障害により肝臓での脂肪合成が刺激され、脂肪肝が肝臓のインスリン抵抗性を引き起こして耐糖能を悪化させたことが推察された。睡眠への介入には限界があるため、今後は睡眠障害により誘発される肝脂肪合成の亢進を阻害して、睡眠障害による耐糖能異常を回避できるか検討を進めていく予定である。

用語解説

(注 1)C57BL/6Jマウス:遺伝子改変のない標準的なマウス
(注2)コルチコステロン:副腎皮質で合成され代謝や免疫に関与する。ストレス負荷時に分泌量が増加する
(注3)アシルカルニチン:脂肪酸がミトコンドリア内膜に取り込まれる際にカルニチンと結合して生成される
             化合物
(注4)アセチルCoA・ケトン体:脂肪酸の代謝により生成される

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 准教授 熊代尚記
〒143-8540 大田区大森西5-21-16 
TEL:03-3762-4151(内線6561) FAX:03-3765-6488
E-mail:naoki.kumashiro[@]med.toho-u.ac.jp
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