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プレスリリース 発行No.914 平成30年9月21日

東邦大学理学部

アルツハイマー病原因分子のシナプス輸送を抑制することで
モデルシナプス病態の改善に成功

 東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻の風呂谷航人大学院生、東邦大学理学部生物分子科学科の曽根雅紀准教授、東京都医学総合研究所の神村圭亮主席研究員、東京医科歯科大学の岡澤均教授らの研究グループは、アルツハイマー病モデルのショウジョウバエを用いて、APPのシナプス輸送を抑制することで、シナプスの形態異常、シナプスの機能異常、個体死亡などのモデル病態を改善することに成功しました。

 本研究によって、アルツハイマー病原因分子のシナプス輸送を抑制することが、アルツハイマー病治療に向けたひとつのアプローチになりうることが示されました。

 この成果は、2018年9月18日に、オンライン学術誌であるPLOS ONEに掲載されました。

発表者名

風呂谷 航人(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 修士課程)
神村 圭亮 (東京都医学総合研究所 主席研究員)
矢島 隆明 (東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 修士課程)
中山 実     (東邦大学理学部生物分子科学科 博士研究員)
榎本 怜奈 (東邦大学理学部生物分子科学科 4年)
田村 拓也 (東京医科歯科大学 難治疾患研究所 助教)
岡澤 均     (東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授)
曽根 雅紀 (東邦大学理学部生物分子科学科 准教授)

発表のポイント

  • ヒトの病気の研究によく使われるモデル動物であるショウジョウバエにおいて、ヒトの変異APP遺伝子を導入することによってアルツハイマー病モデルショウジョウバエを作製し、これを用いて、APPのシナプス輸送を抑制することによってシナプス病態を改善できるかどうかを調べた。
  • APPを含む特定のいくつかのタンパク質のシナプスへの輸送をコントロールする遺伝子であるyata遺伝子のはたらきを抑えることで、APPを含む特定のタンパク質のみのシナプス輸送を抑制することに成功した。
  • アルツハイマー病原因分子のシナプス輸送を抑制することが、アルツハイマー病治療に向けたひとつのアプローチになりうることが示された。

研究の背景

  1. APP(アミロイド前駆体)タンパク質は、認知症の主要な原因疾患であるアルツハイマー病を引き起こす原因分子のひとつであることが知られている。

  2. APPタンパク質をコードする遺伝子に変異や重複が生じると遺伝性のアルツハイマー病になることが知られており、また、APPタンパク質の切断産物であるアミロイドベータペプチドの蓄積が患者脳において認められることが知られている。

  3. APPタンパク質は、正常な脳においてもつくられるタンパク質であり、神経細胞内において長い突起である軸索を輸送されていき、その末端にあるシナプスまで運ばれ、シナプスの発生や機能に関わることが知られている。

  4. アルツハイマー病患者脳においてはシナプスの喪失が認められ、シナプスの喪失が認知症の重症度と相関することが知られている。したがって、もしもAPPのシナプスへの輸送を人為的にコントロールすることができれば、アルツハイマー病のシナプス病態を防ぐための治療法になる可能性がある。

研究の詳細

 APP(アミロイド前駆体)タンパク質はアルツハイマー病の原因分子であり、神経細胞の細胞体で合成され、シナプス(注1)へ輸送されていきます。われわれは以前に、ショウジョウバエのyata遺伝子がAPP相同タンパク質のシナプスへの輸送に必要とされることを見出しました。今回われわれは、ヒト変異型APPをグルタミン酸作動性神経細胞である幼虫運動神経細胞で発現誘導することによってアルツハイマー病モデルショウジョウバエを作製し、これに対するyata発現抑制の影響を調べました。
 その結果、yataのノックダウン(部分的な発現抑制)とヌル変異(完全な発現の喪失)によってAPPと他のシナプス分子のシナプス局在に、異なった変化が認められました。APPタンパク質のシナプス局在はyataノックダウンまたはヌル変異によって有意に減少したのに対して、ファシクリンIIタンパク質のシナプス局在はyataヌル変異でのみ有意に減少し、他方、シナプトタグミンタンパク質とシステインストリングタンパク質のシナプス局在はyataヌル変異でも変化しませんでした。APPの発現誘導によって、神経筋シナプスの形態的異常(異常に小さな神経終末であるサテライトブートンの過形成)が認められましたが、この表現型はyataノックダウンによって有意に回復し、他方、APPの発現誘導なしではyataノックダウン自体は異常を引き起こしませんでした。また、APPの発現誘導は、発生期および羽化後10日以内における個体の死亡を引き起こしましたが、この表現型はyataノックダウンによって有意に回復し、他方、APPの発現誘導なしではyataノックダウン自体は異常を引き起こしませんでした。さらに、われわれは、APP発現誘導によってシナプス伝達の正確性が減少し、神経筋シナプスにおいて観察されるシナプス後電位の分散が増大することを見出しました。この表現型もyataノックダウンによって有意に回復しました。 
 以上の結果から、APPによって引き起こされる表現型は、APPを含む一部のシナプス分子のシナプス局在を抑制することによって部分的にではあるものの回復できることが示されました。

用語解説

(注1)シナプス
神経細胞と他の細胞(神経細胞や筋肉)とのつなぎ目に存在する構造で、神経細胞が他の細胞と情報をやり取りする重要な場所です。神経細胞が興奮すると、長い突起である軸索を末端にあるシナプスまで刺激が伝わっていきます。刺激がシナプスに伝わると、神経伝達物質と呼ばれる化学物質がシナプスに存在する細胞間の隙間に放出され、相手の細胞に刺激を伝えます。ヒトの脳の多くの神経細胞やショウジョウバエの運動神経細胞は、グルタミン酸という物質を神経伝達物質として使っています。神経細胞ではたらく多くのタンパク質はDNAを含む核が存在する場所である細胞体で作られます。シナプスではたらくタンパク質も、多くの場合に細胞体で合成され、長い軸索を経てシナプスまで輸送されていきます。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物分子科学科 分子生物学部門 准教授 曽根雅紀

〒274-8510 船橋市三山2-2-1 
E-mail:masaki.sone[@]sci.toho-u.ac.jp ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/biomol/sone/index.html


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