プレスリリース 発行No.909 平成30年9月14日
東邦大学薬学部
ビタミンB2をアンテナとして結合した微生物の
光センサータンパク質BLUF(blue-light using FAD)の光反応機構を解明
~ 様々な生命現象の解明や医療への研究の応用などに知見を提供 ~
光センサータンパク質BLUF(blue-light using FAD)の光反応機構を解明
~ 様々な生命現象の解明や医療への研究の応用などに知見を提供 ~
東邦大学薬学部薬品物理分析学教室の岩田達也准教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の神取秀樹教授、北川慎也准教授、佐賀大学理工学部の海野雅司教授らの研究グループは、ある種の微生物が持っている、ビタミンB2(フラビン)をアンテナとして結合した光センサータンパク質BLUF(blue-light using FAD)を対象として、その光反応機構を解明することに成功しました。
今回の研究成果は、近年注目されている植物・微生物が光を感じるために持っているセンサータンパク質を利用した様々な生命現象の解明や、それらを医療に応用するための研究の潮流における基盤として、様々な分野への発展が期待されるとともに、この光反応機構を利用した新しいセンサー素子の開発への糸口となるものと期待されます。
この成果は、8月31日に米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。
今回の研究成果は、近年注目されている植物・微生物が光を感じるために持っているセンサータンパク質を利用した様々な生命現象の解明や、それらを医療に応用するための研究の潮流における基盤として、様々な分野への発展が期待されるとともに、この光反応機構を利用した新しいセンサー素子の開発への糸口となるものと期待されます。
この成果は、8月31日に米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。
発表者名
岩田 達也(東邦大学薬学部 薬品物理分析学教室准教授)
発表のポイント
- AppA-BLUFというBLUFタンパク質を対象として、光を感じるフラビン(ビタミンB2)の周囲のアミノ酸の構造が、光照射前後でどのように変化するかをフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて測定した。
- この結果を解釈するために、コンピュータ上でタンパク質の構造を計算することでFTIRシグナルの由来を明らかにした。
- その結果、AppA-BLUFのグルタミン残基の側鎖が、光照射後にケト型からエノール型への構造変化が起こっていることが明らかとなった。
発表内容
生物は光を感じるために光センサータンパク質というタンパク質を持っています。我々ヒトを含む動物は、視覚をつかさどる器官である目の網膜に光センサータンパク質が存在します。光センサータンパク質には光を受け取る発色団というアンテナを結合しており、視覚のタンパク質ではビタミンA(レチナール)がその役割を担っています。一方、植物やある種の微生物はビタミンB2(フラビン)をアンテナとして結合した光センサータンパク質を持っています。フラビン結合光センサータンパク質にはフラビンの光反応が異なる3種類が知られていますが、その中で、我々は、BLUFという名前のフラビン結合光センサータンパク質を対象としてその光反応機構を解明することに成功しました。
BFLUタンパク質は2002年に初めて報告された、比較的新しい光センサータンパク質です。BLFUタンパク質のフラビンは光反応の前後で構造が変化しないという特徴をもっています。これは、他の光センサータンパク質とは大きく異なる特徴です。例えば動物の視覚を司るタンパク質では光を感じた前後でアンテナの構造が変化します。スイッチが「オフ」の状態だったタンパク質が光を受けて「オン」になるということに対応しています。
それでは、BLUFタンパク質では光を受けて何が変化するのでしょうか?これまでの他のグループによる研究では、フラビンとそれを取り囲んでいるアミノ酸との相互作用(水素結合)が変化することが示されていました。また、フラビン近傍のグルタミン残基の側鎖がケト型からエノール型への変化を示すということが報告されています。後者の結果が正しいとすると、アンテナではなく近傍のアミノ酸が構造変化を起こすという今までにない反応を示す変わった光センサータンパク質ということになります。
我々は、AppA-BLUFというBLUFタンパク質を対象として、光照射後前でどのように構造が変化したかをフーリエ変換赤外(FTIR)分光法(注1)という手法を用いて測定しました。FTIR分光法では、分子(ここではタンパク質)の構造に関するシグナルを得ることができます。そして安定同位体という元素で標識したタンパク質やフラビンを測定することで、シグナルがどの元素に由来するものかを明らかにすることができます。窒素および炭素の同位体で標識したAppA-BLUFの光反応をFTIR分光法で測定したところ、ケト型からエノール型への変化を示唆する結果が得られました(図、左上)。この結果を解釈するために、コンピュータ上でタンパク質の構造を計算することでFTIRシグナルの由来を明らかにしました。その結果、やはりAppA-BLUFのグルタミン残基の側鎖はケト型からエノール型へと構造変化が起こっていることが示されました(図、左下及び右)。
実は、我々の研究手法より先に報告されていた研究の手法は同じFTIR分光法で、彼らもまたケト型からエノール型への構造変化を示すものでした。
(https://www.nature.com/articles/srep22669)
しかし、彼らが報告したFTIRシグナルの形は我々が測定したものとは大きく異なっていました。彼らは、我々が計測したものとは異なるBLUFタンパク質(BlrB)の計測であり、異なるシグナルが現れることは十分考えられることでしたが、同じ反応が起こっているにしてはシグナルの形が違いすぎていました。
この試料間の不一致の理由も、計算結果から明らかにすることができました。フラビンの近傍に位置しているトリプトファンというアミノ酸は多くのBLUFタンパク質の間で保存されているのですが、AppA-BLUFではフラビンの方を向いていますが(図、右)、BlrBではフラビンとは反対の外側を向いていることがわかりました。このトリプトファンの向きは、様々な研究者が異なる見解を出していましたが、タンパク質によって異なるという提案により解決を見ることとなりました。
本研究成果により光センサータンパク質BLUFの光反応機構を解明することができました。近年注目されている光センサータンパク質を利用した様々な生命現象の解明や、それらを医療に応用するための研究の潮流における基盤として、様々な分野への発展が期待されるとともに、この光反応機構を利用した新しいセンサー素子の開発への糸口となるものと期待されます。
BFLUタンパク質は2002年に初めて報告された、比較的新しい光センサータンパク質です。BLFUタンパク質のフラビンは光反応の前後で構造が変化しないという特徴をもっています。これは、他の光センサータンパク質とは大きく異なる特徴です。例えば動物の視覚を司るタンパク質では光を感じた前後でアンテナの構造が変化します。スイッチが「オフ」の状態だったタンパク質が光を受けて「オン」になるということに対応しています。
それでは、BLUFタンパク質では光を受けて何が変化するのでしょうか?これまでの他のグループによる研究では、フラビンとそれを取り囲んでいるアミノ酸との相互作用(水素結合)が変化することが示されていました。また、フラビン近傍のグルタミン残基の側鎖がケト型からエノール型への変化を示すということが報告されています。後者の結果が正しいとすると、アンテナではなく近傍のアミノ酸が構造変化を起こすという今までにない反応を示す変わった光センサータンパク質ということになります。
我々は、AppA-BLUFというBLUFタンパク質を対象として、光照射後前でどのように構造が変化したかをフーリエ変換赤外(FTIR)分光法(注1)という手法を用いて測定しました。FTIR分光法では、分子(ここではタンパク質)の構造に関するシグナルを得ることができます。そして安定同位体という元素で標識したタンパク質やフラビンを測定することで、シグナルがどの元素に由来するものかを明らかにすることができます。窒素および炭素の同位体で標識したAppA-BLUFの光反応をFTIR分光法で測定したところ、ケト型からエノール型への変化を示唆する結果が得られました(図、左上)。この結果を解釈するために、コンピュータ上でタンパク質の構造を計算することでFTIRシグナルの由来を明らかにしました。その結果、やはりAppA-BLUFのグルタミン残基の側鎖はケト型からエノール型へと構造変化が起こっていることが示されました(図、左下及び右)。
実は、我々の研究手法より先に報告されていた研究の手法は同じFTIR分光法で、彼らもまたケト型からエノール型への構造変化を示すものでした。
(https://www.nature.com/articles/srep22669)
しかし、彼らが報告したFTIRシグナルの形は我々が測定したものとは大きく異なっていました。彼らは、我々が計測したものとは異なるBLUFタンパク質(BlrB)の計測であり、異なるシグナルが現れることは十分考えられることでしたが、同じ反応が起こっているにしてはシグナルの形が違いすぎていました。
この試料間の不一致の理由も、計算結果から明らかにすることができました。フラビンの近傍に位置しているトリプトファンというアミノ酸は多くのBLUFタンパク質の間で保存されているのですが、AppA-BLUFではフラビンの方を向いていますが(図、右)、BlrBではフラビンとは反対の外側を向いていることがわかりました。このトリプトファンの向きは、様々な研究者が異なる見解を出していましたが、タンパク質によって異なるという提案により解決を見ることとなりました。
本研究成果により光センサータンパク質BLUFの光反応機構を解明することができました。近年注目されている光センサータンパク質を利用した様々な生命現象の解明や、それらを医療に応用するための研究の潮流における基盤として、様々な分野への発展が期待されるとともに、この光反応機構を利用した新しいセンサー素子の開発への糸口となるものと期待されます。
発表雑誌
-
雑誌名
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル
Hydrogen Bonding Environments in the Photocycle Process around the Flavin Chromophore of the AppA-BLUF domain
著者
Tatsuya Iwata*, Takashi Nagai, Shota Ito, Shinsuke Osoegawa, Mineo Iseki, Masakatsu Watanabe, Masashi Unno, Shinya Kitagawa, and Hideki Kandori(*責任筆者)
DOI番号
10.1021/jacs.8b05123
アブストラクトURL
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.8b05123
用語解説
(注1)フーリエ変換赤外(FTIR)分光法
赤外分光法はおよそ2,500 nm~12,500 nmの波長の赤外光を用いて物質を測定する手法です。この領域のシグナルから、分子振動に関する情報が得られます。安定同位体という元素を用いることでシグナルの由来を決定することができます。フーリエ変換という数学的手法を用いてスペクトルを算出します。
赤外分光法はおよそ2,500 nm~12,500 nmの波長の赤外光を用いて物質を測定する手法です。この領域のシグナルから、分子振動に関する情報が得られます。安定同位体という元素を用いることでシグナルの由来を決定することができます。フーリエ変換という数学的手法を用いてスペクトルを算出します。
添付資料
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部 薬品物理分析学教室 准教授 岩田 達也
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL/FAX:047-472-1780
E-mail: tatsuya.iwata[@]phar.toho-u.ac.jp ※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
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