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プレスリリース 発行No.905 平成30年8月22日

東邦大学メディカルレポート
-アンチエイジングの漢方治療-
 ~老化につながりやすい「腎」の機能低下の改善とは~

 東邦大学医療センター大森病院 東洋医学科(大田区大森西、診療部長:准教授 田中耕一郎)は、2005年2月に開設され、漢方薬を中心として、鍼灸、高度手技療法を合わせた人のこころと身体の全体を観る本格的な東洋医学の治療を行っています。また、総合診療科や他科との連携により、西洋医学的な側面からの治療も合わせ、東西の医療を融合した、日本でしか出来ない治療を目指しています。

 東洋医学は約2000年前の中国の医学古典に基づくもので、身体と精神の両面から、漢方、鍼灸という手法を用いて治療を行うものです。東洋医学の健康とは、病気ではない状態ではなく、社会の中にあって精神、身体とも自分らしさを発揮できている状態を指します。

 東洋医学の分野では、加齢に対する諸症状を緩和する、つまりアンチエイジングに一定の効果がある漢方薬が伝統的に使われています。漢方薬は、その効果を自覚するまで長い期間が必要と思われている面がありますが、現在では科学的な検証も行われており、その効果が実験で示されるケースも増えています。当レポートでは、アンチエイジングの漢方治療についてわかりやすくお伝えします。

1、倦怠感の改善:「腎虚(じんきょ)」に処方される三つの漢方薬

 私たちの身体には、加齢とともに様々な不調や機能低下が生じますが、東洋医学では「腎(じん)」の機能低下が老化につながるとされます。ここでいう腎とは、単に腎臓を指すのではなく、広く生殖や成長・発育ホルモン、内分泌系、免疫系などの機能とも関係が深い、いわば“生命力の源泉”と考えられているもので、耳や髪の毛などともつながっています。

 「耳が聞こえにくくなった」、「忘れっぽい」、「髪の毛が抜けやすくなった」、「頻尿や尿漏れで悩んでいる」、「骨が弱くなった」、「寒がり・暑がりになった」などといった悩みは、腎から発せられる危険信号といえます。東洋医学では、腎が弱っている状態を「腎虚」といい、この腎虚の治療に処方される代表的な漢方薬が「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」、「八味地黄丸(はちみじおうがん)」、そして「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」です。これらは“腎を補う漢方薬”で、加齢に伴う不眠や、生殖器、排尿・排便に関係した症状に加え、疲労や倦怠感にも適しています。

 六味地黄丸は体のほてりやのぼせなどの症状のある人、つまり「暑がりタイプの人」に使用されるもので、地黄、山茱萸(さんしゅこ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)という6つの生薬から構成されています。
 
 八味地黄丸は、この六味地黄丸に、身体を温めて新陳代謝を促す附子(ぶし)と肉桂(にっけい)を加えたもので、体の冷えやむくみなどの症状のある人、つまり「寒がりタイプの人」に効果があります。

 牛車腎気丸は、八味地黄丸に牛膝(いのこずち)と車前子(しゃぜんし)という生薬を加えたもので、症状がより重い場合に処方されます。

2、食欲の維持:「養生(ようじょう)」するために処方される漢方薬

 東洋医学には「養生」という考え方があります。年齢や季節、生活環境に合わせた生活・食事で、身体を養生し、健康管理をしていくというものですが、加齢や手術の後に感じる倦怠感で食欲が衰え、養生が進まないことがあります。

 「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は、胃腸の消化・吸収機能を整えて、病気に対する抵抗力を高める効果があります。加えて、気力がわかない、疲れやすいといった人に対しても使われます。
 
 「六君子湯(りっくんしとう)」は、胃の粘膜保護や排出促進などに作用する漢方薬ですが、グレリン(新規成長ホルモン分泌促進ペプチド)」に作用することがわかっています。グレリンは成長ホルモンや食欲促進ホルモンの分泌を促進することから、六君子湯を処方することで食欲不振の緩和につながることが期待されます。

3、精神面の維持、及び足腰の筋肉の維持:「フレイル」を改善するために処方される漢方薬

 「フレイル」とは加齢とともに心身の活力が全般的に低下している状態を指します。
生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態を指しますが、単に、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体面の問題だけでなく、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、また、独居や経済的困窮などの社会的問題も含む概念として、対策が重要視されています。

 「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」は、もともと倦怠感、意欲低下、精神不安等に処方される漢方薬ですが、最近の研究によってフレイルの状態における倦怠感や精神的な脆弱性の治療に用いられるケースが増えています。
 また、牛車腎気丸は、フレイルの状態における筋肉維持のための治療に用いられるケースが増えています。

4、感情の調整:「怒りの感情」を抑えるために処方される漢方薬

 怒りの感情が表れやすくなってイライラしがちになるのも、加齢の特徴のひとつといえます。東洋医学では、「肝(かん)」が高ぶることがその要因と捉えます。

 「抑肝散(よくかんさん)」は、文字通り肝の高ぶりを抑えることから名づけられた漢方薬です。もともと子供の疳(かん)の虫に使われていた漢方薬ですが、母子が共に服用するとお互いに相乗効果があるとされます。また、“母子同服”といい、本人と配偶者、あるいは本人と子供(介護者)が共に用いると相互の関係性や症状の改善に相乗効果があります。

 「加味逍遥散(かみしょうようさん)」は、月経不順や更年期障害などに処方されるものですが、六味地黄丸を合わせて処方することで、「肝」の高ぶりとともに「腎」の低下を抑えて、症状の改善に効果が発揮されます。

5、アンチエイジング:「未病(みびょう)」の治療とは

 東洋医学には、「未病」を治療するという考え方があります。未病とは発病には至らないものの軽い症状がある状態です。いわば、病気と健康の間の状態ですが、そのままにしておくと症状が悪化することも少なくありません。
 “歳を重ねる”「加齢」は、私たちの身体に様々な症状を来します。それ自体は病気ではありませんが、さらに症状が進むと病気に至ることもある状態、すなわち未病であるともいえます。
 
 漢方薬はこうした未病に用いることができます。アンチエイジングに対し、有効な漢方治療は多方面に渡っており、気になる症状がある人は早めに専門医に相談しましょう。

以上

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