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プレスリリース 発行No.903 平成30年8月7日

東邦大学メディカルレポート
「真夏の行楽地やスポーツの現場などでの怪我や傷害の応急処置について」

東邦大学医療センター大橋病院 救急集中治療科では、日々の救急医療の実践の中から、より適切な応急処置に関する知見の蓄積に努めています。
夏休みシーズンの最盛期を迎え、行楽で海・山などに出かけたり、スポーツの大会や合宿などが盛んに行われる時期となりました。
しかしその最中、医療機関から遠く、医師や看護師などもいない状況下で不意の怪我や傷害に見舞われた際に、どのような知識に基づいてどのような行動と処置を取ればよいかは、非常に難しいことです。適切な応急処置が速やかに施されたかどうかが、その後を大きく左右することも少なくありません。
そこで、そのような場合に取るべき処置について、いくつかのケースに沿って“わかりやすく”、また専門医師のアドバイスも交えてお知らせします。

1、登山やトレッキングでの体調不良、熱中症

  • 予防のアドバイス
    ・弾丸ツアーや夜行、無理な旅程などで体調を崩さないように気をつける。
    ・ロープウェイで高いところまで登る際は、気温、気圧の大きな変化に気をつける。
    ・自分の体力や経験を過信しない。頑張りすぎない。計画を変更し“引き返す勇気”も大切。
    ・トイレのことは気にせず、十分な水分摂取に心がける。
    ・持病や生活習慣病のある人は、慎重の上にも慎重な登山計画を立て、無理をしない。
    (東邦大学医療センター大橋病院 藤岡俊樹教授⦅東邦大学西穂高診療所運営委員長⦆)
  • 熱中症を疑った時の応急処置:
    涼しいところでからだを横にし、足をザックなどに乗せて高くして安静にし、 脱水で少なくなった血液を心臓に集めます。さらに手足など露出しているところに水をかけ、タオルなどであおいで水を蒸発させて気化熱を奪い、体温を少しでも下げます。30 分ほどで回復して普通に動ける場合は予定通りに行動しても大丈夫ですが、それ以上回復に時間がかかる時は、そばに誰かがついて経過を観察しながら下山します。
    手足が動かない、あるいは意識がもうろうとする場合は、携帯電話などでただちに警察に救助を要請します。ヘリコプターによる救助でも到着まで 40 分以上かかることがあります。その間は上記のような処置をして経過を観察し、水を飲ませてもむせるようであれば中止します。
    (STOP熱中症 教えて!「かくれ脱水」委員会HPより抜粋)

2、頭部外傷 、脳震盪

  • 頭部外傷は脳挫傷(脳組織が挫滅する)と、脳に血腫がたまり脳実質を圧迫する頭蓋内血腫に分けられます。主な症状は頭痛、吐き気、意識障害、四肢の麻痺、認知機能の低下、バランス機能の低下です。 異常行動や意識障害がある場合は頭痛、吐き気があるか、自分の名前が言えるか、競技場の名前が言えるか、簡単な算数ができるか、普通に歩けるかなどを確認します。
  • 脳震盪の主な症状は、意識消失、混乱、記憶障害(プレーや役割が分からず、受傷前または受傷後の出来事が思い出せない)、複視、光過敏、めまい、ふらつき、頭痛、集中できないなどです。脳震盪の場合、本人や周囲が脳震盪であると自覚・認識することなく、引き続き運動を行うことも多く、このことが繰り返して脳震盪を発症する危険を大きくすることに繋がっています。症状が軽いからといって脳震盪を発症していないとは限りません。
  • 応急処置:
    まずは活動現場からすぐに外れ、意識の混濁や増悪などがあればベンチや救護室で寝かせ、または担架上ですぐに安静をとらせた上で救急車を呼び、脳外科のある専門病院に搬送し、CTや MRIなどの脳の精密検査をしてもらいます。学校および職場での活動、運転、飲酒、および脳に対する過度の刺激(例:コンピュータの使用、テレビ観賞、テレビゲーム)は避け、安静にします。

3、すり傷、切り傷

  • すり傷、切り傷で大切なのは、出血が続いているのか、傷口に異物が入っていないか、傷口の内部が汚くないかを観察し、感染の可能性を評価することです。
  • 応急処置:
    砂や土などが混入している場合はまず傷口を水道水などでよく洗います。その後大きめの絆創膏などで覆うようにします。そのあと、近くの病院を受診してください。
  • 止血:
    人間の血液量は体重1kg当たり約80mlで、一時にその1/3以上を失うと生命に危険があります。大きな傷でも皮膚までの深さであれば、あまり心配はいりません。出血量が多い場合は患者を寝かせて安静にさせ、速やかに止血処置を行います。傷口から鮮紅色の血液が噴出し、脈打つようにあふれる時は動脈出血の可能性があり、危険です。暗赤色の血液がじわじわと出る時は静脈出血の可能性がありますが、これも量が多ければ危険です。止血には以下の方法があります。

    直接圧迫止血法:
    出血している傷口をガーゼやハンカチなどで直接強く押さえて、しばらく圧迫します。この方法が最も基本的で確実な方法です。ガーゼなどの止血の効果が下がった時は、その上に新たなガーゼやハンカチを重ねて圧迫を続け、出血部位を確実に押さえているかを確認します。

    間接圧迫止血法:
    傷口より心臓に近い動脈(止血点)を手や指で圧迫して血液の流れを止めて止血する方法です。 直接圧迫法では止血できない傷が四肢(脚~足、腕~手) にある時に用います。根元(心臓に近い側)を細い紐で縛って止血するという方法は、神経を傷つけるなどの合併症を起こすこともあります。行う場合は、幅の広い紐を使う、定期的に緩めるなどの専門的知識が必要です。

4、虫刺され

  • 応急処置:
    刺された直後は冷たい流水で腫れた部位を絞るようにして洗います。毒の残った蜂の針が残っている場合は、カードなどで弾いて除去します。冷やしておくのは痒みには効果的です。その後、抗炎症性の塗り薬などを塗ります。赤身やかゆみが強い場合はステロイド外用薬が必要です。全身に蕁麻疹が出て、呼吸が苦しくなるなどの全身症状(アナフィラキシー)が出ることがあります。この場合はできるだけ早く医療機関を受診してください。

5、落雷による外傷 

雷は、以下のようにいくつかの形で外傷をもたらします。①落雷が人を直撃する。②直接ではないが、その近くにいた人に電気が流れる。③電流が地面から人に伝わる。④電撃によって投げ出される。
からだに電気が流れることによって起こる損傷が雷撃症です。心肺停止、内臓破裂、鼓膜破裂、四肢の麻痺を起こすことがあります。

  • 応急処置:
    心肺停止の有無を確認します。心肺停止事例に対しては、救急車を要請し、すぐに一次救命処置を行い、医療機関へ搬送します。必要に応じて、熱傷など外傷部位の治療を行います。

6、脳貧血(めまい・失神)

脳貧血とは血液が十分に脳に流れなくなることで起きる病態を指し、一般的に言われる「貧血」とは異なります。後者は、酸素を運搬する赤血球内の血色素(ヘモグロビン)が減少する状態です。脳貧血の症状には立ちくらみやめまい、頭痛、ふらつきなどがあり、失神を起こすこともあります。その原因は起立性低血圧や神経調節性失神、脱水、飲酒、血管拡張作用のある薬の服用、不整脈などがあげられます。心疾患と脳血管障害については生命にかかわる場合もあり、特に早急な対応が必要になります。

  • 応急処置:
    スポーツ中にめまい、ふらつき、失神があれば、運動をただちに中断させ、からだを横にさせます。意識、脈拍、呼吸を確認し、意識があれば糖質・電解質を含むスポーツドリンクを飲ませます。一過性の低血圧、脱水、低血糖が原因であれば状態は改善することがありますが、改善が認められない場合には救急車を要請します。コンタクトスポーツの場合、脳震盪や脾臓破裂などによる腹腔内出血で意識障害をきたすことがあります。また、胸骨および左前胸部にボールなどの衝撃があった場合、致死的な不整脈が誘発されることがあります。

7、過換気症候群

不安や恐怖、緊張など精神的なストレスが引き金で起こることは知られていますが、スポーツの直後や睡眠不足などの肉体的疲労からも起こります。深く速い呼吸が発作性・不随意性に出現し、その結果、全身にさまざまな症状を引き起こすものを過換気症候群と呼びます。各種症状が不安、緊張などを強め、さらに過換気を増長させるという悪循環に陥ります。

  • 主な症状は過換気、息切れ、呼吸困難感、 空気飢餓感、動悸、胸部圧迫感、胸痛などです。また、筋・骨格系症状として手足末梢のしびれ感、知覚異常、口周囲のしびれ感があり、さらにめまい、失神、頭痛、手指のふるえ、四肢筋肉の拘縮(こわばり)、歩行不能などの神経症状、腹痛、悪心などの消化器症状、その他発汗、不安、緊張、衰弱感などの精神症状も出現し、症状は多種多様です。
  • 応急処置:
    不安、緊張を解くことが大切です。過換気発作は必ず自然に止まり、元の状態に戻ることを話します。ゆっくりと呼吸するように努めさせます。

8、アナフィラキシー

アナフィラキシーとは、特定の食材や、薬、蜂毒などとの接触による全身性のアレルギー反応で、発症後極めて短い時間のうちに症状が出ます。 蕁麻疹、眼瞼(まぶた)や口唇の腫脹、喘鳴、呼吸困難、悪心嘔吐、腹痛、頭痛、喉頭浮腫(声帯周辺が腫れる)、呼吸困難、血圧低下などさまざまな症状を伴います。急性の全身性かつ非常に重いアナフィラキシーショックという生命の危険を伴う場合もあります。

  • 運動が引き金となって、蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下、意識消失などのアナフィラキシー症状が出現することがあり、運動誘発アナフィラキシーといいます。運動をきっかけに細胞からヒスタミンが放出されることで起きると考えられています。さらに、運動の前に食事をするとより起こしやすくなることを食物依存性運動誘発アナフィラキシーと呼んでいます。食べ物を食べてから2時間は運動を避けることで、ある程度予防可能です。
  • 応急処置:
    アナフィラキシー発症時には、ただちに救急車を要請します。状態によっては、現場で一次救命処置の実施が必要です。エピペン(アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤、アドレナリン自己注射薬)を処方されている場合はエピペンを注射します。さらに、一度収まった症状が再び現れることもあります。「収まったから大丈夫」と安心はせず、すぐに病院で診断を受けることが大切です。

専門医からのアドバイス

猛暑の中、しかも屋外での不意の怪我や事故による傷害の際の応急処置には、冷静な判断と迅速な行動が求められます。しかし、医療の専門家がいない場所での処置には限界がありますので、症状を軽く考えることなく、できるだけ早く迷わずに救急車を呼びましょう。
専門医による早急な治療が重症化を防ぐために重要です。

(東邦大学医療センター大橋病院救急集中治療科 片桐美和 助教)

参考文献
  • 東邦大学ニュースリリース「西穂高診療所開設」
  • STOP熱中症 教えて!「かくれ脱水」委員会HP
  • 公益財団法人スポーツ安全協会「救急ハンドブック」
  • 東邦大学メディカルレポート「脳震盪の知識とその対処法について」

以上

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