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プレスリリース 発行No.843 平成29年11月28日

薬物により誘発される致死性不整脈の新規検出モデルの開発

 東邦大学医学部薬理学講座の長澤美帆子助教と同薬学部薬物治療学研究室の高原章教授らの研究グループは、薬物の重大な副作用として知られる致死性不整脈を検出する新しいモデルを開発しました。このモデルは、発生頻度が1万〜10万人に1人とされる薬物性不整脈を高い感度と精度で検出することができ、創薬において、より安全な薬の研究開発に貢献することが期待されます。この成果は雑誌British Journal of Pharmacologyにて発表され、Editor’s Choiceに選出されました。
http://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/hub/article/10.1111/bph.13870/editor-highlight/

発表者名

長澤(萩原) 美帆子(東邦大学医学部薬理学講座 助教)
高原 章(東邦大学薬学部薬物治療学研究室 教授)

発表のポイント

  • 薬物性不整脈の発生リスクが低心拍数の場合に高くなることに注目して、ウサギの正常な心拍数(200〜250回/分)を60回/分に減少させる手法を開発し、新規不整脈検出モデルを構築しました。このモデル動物に不整脈誘発作用が臨床報告されている薬物を投与したところ、高い再現性で致死性不整脈を検出できました。
  • 欧州等の製薬会社で広く使用されてきた不整脈検出モデルは、薬物相互作用による偽陰性が大きな課題でした。今回作製した新規不整脈モデルは薬物相互作用等の問題が完全に解決され、幅広いタイプの薬物の検討が可能になっています。
  • 薬物性不整脈は重大な副作用のひとつであり、創薬研究における安全性評価の意義は依然として高く、この新規モデルの活用により高い安全性が担保された医薬品の開発が可能になると考えられます。
  • 発表概要

     薬物性不整脈は、非循環器官用薬の場合で1万〜10万人に1人と発生頻度は低いものの、致死的であるためにこの問題を回避することは医薬品開発において最重要課題となっています。近年までに使用されてきた薬物性不整脈検出モデルは、薬物相互作用による偽陰性が大きな課題であり、特にアドレナリンα1受容体遮断作用を有する薬物の検討ではこの点が問題とされていました。東邦大学医学部の長澤助教らは薬物性不整脈の発生リスクが低心拍数の場合に高くなることに注目し、カテーテル焼灼法による心臓内伝導路の破壊後にペースメーカーを使用することでウサギの正常な心拍数(200〜250回/分)を60回/分に減少させる方法を確立しました。このモデル動物に不整脈誘発作用が臨床報告されている薬物を投与したところ、高い再現性で致死性不整脈を検出することができました。今回作製した新規不整脈モデルは薬物相互作用等の問題が完全に解決されており、幅広いタイプの薬物の検討が可能になっています。本研究は、学術雑誌British Journal of Pharmacologyのeditorから、「前臨床試験で重要な事項は正常な心臓の電気活動を破綻させるような薬物を同定できる実験モデルの利用であり、本研究で著者らは従来の不整脈検出に関する問題点を改善した新しい前臨床試験モデルを開発することに成功した」として評価されています。今後の新薬創出において本研究成果の利用価値は高いと考えられます。

    発表内容

     薬物性QT延長症候群とは、種々の薬物が原因となり心電図上に著しいQT間隔延長を認め、Torsade de Pointes(TdP)と呼ばれる特殊な心室頻拍あるいは心室細動などの重症心室不整脈を生じて、めまいや失神などの脳虚血症状や突然死をきたしうる症候群である。その発生機序は、心筋再分極過程で主要な役割を担うIKrチャネルが薬物により遮断されるためとされており、心拍数が低下すると不整脈発生リスクは増加することが知られている。原因薬物が非循環器官用薬の場合で1万〜10万人に1人と発生頻度は低いものの、致死的であるためにこの問題を回避することは医薬品開発において重要な課題となっている。
     薬物の不整脈誘発作用を直接的に評価する方法として、1990年代にアドレナリンα1受容体刺激薬負荷ウサギモデルが報告された。このモデルはα1受容体刺激薬の投与で圧反射が引き起こされて心拍数が低下することで、薬物性不整脈を検出することができる。一方で、評価薬物にα1受容体遮断作用がある場合は薬物相互作用により不整脈誘発作用は偽陰性となる課題があった。
     このような課題を解決するため、本研究ではカテーテル焼灼法により心臓内伝導路の破壊後に心臓を電気刺激して、ウサギの心拍数(正常時:200〜250回/分)を60回/分に減少させる方法を確立し、新たな不整脈検出モデルを作製した。臨床で不整脈誘発作用の有無が明らかにされている複数の薬物(TdP陽性薬としてdofetilide、sparfloxacin、α1受容体遮断作用を有するhaloperidolの3薬物、TdP陰性薬としてamiodaroneとmoxifloxacinの2薬物)を使用し、新規モデルにおける致死性不整脈の発生頻度を評価した。その結果、致死性不整脈はTdP陽性薬を投与したdofetilide投与群、sparfloxacin投与群およびhaloperidol投与群で誘発されることが示された。一方、TdP陰性薬であるamiodarone投与群およびmoxifloxacin投与群で致死性不整脈は誘発されなかった。次に、新規モデルの不整脈検出力を従来モデル(α1受容体刺激薬負荷ウサギ)と比較したところ、dofetilideによるR on T型心室期外収縮およびTdPの発生回数は新規モデルの方で有意に多いという結果が得られた。したがって、新規モデルを利用することで、臨床で問題とされてきた薬物による致死性不整脈発生リスクを高精度で検出でき、このリスク検出力は従来モデルと比べて高いことが明確にされた。
     さらに注目すべき事として、QT間隔の1拍ごとのバラツキの指標であるshort term variability(STV)が、致死性不整脈が発生した用量よりも少ない投与量で増大するデータが得られている。このことは、STVは致死性不整脈の予測指標として意義があることを示している。
     薬物性不整脈は発生頻度が稀であるものの致死的であることが大きな問題点である。本研究で開発した新規不整脈モデルの作製手法ならびに不整脈発生予測指標の活用は、安全性の高い新薬の創出に大きく貢献すると考えられる。

    発表雑誌

    雑誌名:「British Journal of Pharmacology」
    巻数、(発行年)、掲載ページ数: 174, (2017), 2591–2605
    論文タイトル:The anaesthetized rabbit with acute atrioventricular block provides a new model for detecting drug-induced Torsade de Pointes
    著者:Mihoko Hagiwara, Seiji Shibuta, Kazuhiro Takada, Ryuichi Kambayashi, Misako Nakajo, Megumi Aimoto, Yoshinobu Nagasawa and Akira Takahara*
    DOI番号:10.1111/bph.13870
    アブストラクトURL: PMID: 28547743
    Editor’s Choice URL:
    http://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/hub/article/10.1111/bph.13870/editor-highlight/

    本発表資料のお問い合わせ先

    東邦大学医学部 薬理学講座
    長澤(萩原) 美帆子・助教

    TEL:03-3762-4151 FAX:03-3761-0546

    東邦大学薬学部 薬物治療学研究室
    高原 章・教授

    TEL:047-472-9199 FAX:047-472-1188

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